39話 保健師さん、痛いです。
アンケートの攻撃に、私が悪戦苦闘を強いられている間。
母子手帳は準備が完了された状態で、ずっと机の上に置かれていた。
すんなり受け取って帰れるのかと思いきや、そうは問屋が卸さない。
母子手帳をもらうタスク。
想像していた以上に、精神力が必要だ。
やたら気が重いのは私だけだろうか。
これから30分程度も、保健師さんと会話をしなければならないとは……。
最初に。
保健師さんから質問された内容は、強烈な右ストレートだった。
「今後、どこかに引っ越しをされる予定はありますか」
何かが振り切れてしまっていた私は、元気よく応じる。
「わかりません!!」
「母子手帳は他の市町村でも有効ですが、補助券は各自治体によって内容が異なります。引っ越される場合には申し出てください」
とても事務的な内容の返答があった。
それから。
くるくると円型の表を回して、保健師さんは出産予定日を確認してくれる。
「エンゼルさんは、出産予定日の設定が通常より3日ほど早い傾向にあります」
まるで時計を5分早めるような動作で、私の出産予定日が修正された。
お爺ちゃん先生の微笑んでいる姿が、脳裏に浮かぶ。
「実は、時計を5分早めておきました」
ちょっと驚いた。
もしかしたら、意外と型破りなところのある先生なのかもしれない。
「今日は8週ですね。現在、つわりはありますか」
保健師さんが、気遣わしげに尋ねてくる。
「大丈夫ですか」と聞かれていたら、「大丈夫です」と答えている場面。
「ありますか」だと、私は返事に迷った。
結局、「少しあります」と伝える。
「つらいと思いますが、しっかり水分だけは摂るようにしてください」
無難なやり取り。
なぜか、マニュアル通りという感じがした。
次に。
私の身長と体重から、保健師さんは妊娠期間中に増やす体重の算出をしてくれる。
理想は10kgの増加らしい。
ここまでの内容は、産院での話と共通している。
ふぅ、と息をつく。
無難なやり取りしかないので、私は油断してしまった。
しかし。
アンケートを確認し終えた保健師さんが、ボディーブローを当ててくる。
「里帰り出産はされないのですか?」
「しません」と言ったら、しばし問答が続いた。
「ご実家はどちらですか?」
「中川区です」
「中川区のどこですか?」
「海部郡の近くです」
「市内ですが、距離がありますね?」
「はい」
中川区、と保健師さんがアンケートに手書きで情報を加えている。
「里帰りしないでほしいと言われましたか?」
そのような個人的なことを、なぜ話さなければならないのか。
珍しく、私は訝しく思った。
口を閉ざしてしまう。
はっきりとした口調で、保健師さんは言った。
「初産の場合だと、かなり多くの方が里帰りをされます。検討してください」
い、痛い……。




