36話 置かれた状況は意識次第。
クリニックからの帰り道。
おもむろに、胃の不快感を私は覚えた。
つわりの症状が出るかもしれない、なんて。
言葉の呪いを受けたせいだろうか。
病は気から。
つわりかもしれない、と思った瞬間。
お腹が空きすぎてしまったときのような気持ち悪さを、本当に感じ始める。
明らかに意識のしすぎだ。
ちょうど、お昼時。
冷静に考えてみたら、今日は朝から何も食べていないことを思い出した。
妊婦検診の日は体重測定が毎回ある。
こっそり、私は朝食を抜くことに決めていた。
褒められたことではない。
助産師さんにバレたら、怒られるかもしれない。
でも、できるかぎり体重を軽く見せたいと思うのが乙女心。
誰が乙女か。
何にせよ、お腹が空いているだけという可能性はある。
そうであってほしい。
坂道の中腹にあるファミマへ、私は足を向けた。
まずは雑誌コーナーを横切って、先にATMでお金を下ろさなければならない。
産婦人科受診の費用は、とにかく財布に厳しかった。
でも、あと少しの辛抱。
母子手帳交付の際に検診の補助券がもらえると、次回からは負担額が大幅に減る。
ありがたい。
お金がなくても、周りから認めてもらえなくても、地域社会は子育てを応援してくれる。
日本に生まれて良かった、と心の底から思う。
ATMの機械の前に立った。
財布からキャッシュカードを取り出す。
画面を見た途端。
ゆくりなく、私の足が竦んでしまう。
実は、まだ今月の残高を確認していない。
お母さまからの仕送りは、いつも通りに振り込んでいただけているのだろうか……?
このまま、母と喧嘩別れになるかもしれないような状況。
振り込まれていなかったとしても、不思議ではない。
むしろ、今後は大家さんから家賃の直接催促がないとも言い切れない。
電気・水道・ガスが止まることも、十分に考えられる。
やばい。
どうか、情けをかけてください。
神のお慈悲を……!
キャッシュカードを入れる手が震えた。
『お引き出し』を選び、母に祈りながら暗証番号を入力する。
結論として、ひとまず今月の仕送りは止められていなかった。
それどころか。
びっくりするくらい多めに振り込まれている。
最後の仕送りです、という意味なのかもしれない。
手切れ金、という言葉が私の脳裏をよぎる。
お金が増えたことを、素直に喜んでもいられない心境だった。




