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33話 時の流れは早い。

 それからまた、1週間が過ぎた。

 もう11月8日の金曜日。

 今年も残り2ヶ月だ。

 やけに時間の流れが早く感じる。


 エンゼルレディースクリニックの待合室。

 すっかり定位置になった窓際のソファで順番を待ちながら、私は不思議な心持ちでいた。


 表面的に何も変化がない。

 体調もしかり。

 生活もしかり。


 普通に家事をしながら、普通に大学へ行き、すでに卒論は完成していた。

 モエにもアヤミにも妊娠や結婚のことに勘づかれた様子はなく、今まで通りに過ごしている。


 目で見てわかる変化といえば、書類上での苗字変更くらいだ。

 預金通帳の旧姓の部分は二重線に印鑑が押されて、新しい苗字の『須崎』が書き加えられている。


 教学事務室には旧姓使用届を出したので、こっそり学生証の裏面に新姓が記載されていた。

 でも、まず他人に見られることはない……。


「須崎莉帆さーん」


 一瞬、反応が遅れた。

 助産師さんが朗らかな声で、私の名前を呼んでいる。

 ふかふかのソファを、少し惜しみながら私は立ち上がった。


 初診と全く同じ流れ。

 内診を終えて、診察室へ戻る。

 椅子に腰掛けると、お爺ちゃん先生が真剣な表情で私を見ていた。


「安静にさえしていてくれれば、無事に出産まで行けます」


 妊娠初期にも関わらず、きっぱりと言い切られた。

 まだ8週めの前半くらいだと思っていたから、想定外だ。


 結婚したけど流産したらどうなるのかは、考えなくても良いのだと安堵する反面。

 ドキッとする。

 まさか、咎められたわけではないと思うが。


 講義に遅れそうなとき小走りしたり、卒論を仕上げるのに徹夜したり、靴がヒールだったり。

 ほんの少しだけど、私には安静にしていない意識があった。


 縦に首を振りながら、心のなかで謝る。

 妊婦としての自覚が足りなくて、すみません。


 お爺ちゃん先生はカルテを記入した後。

 ずずいっ、と机上で経膣エコーの写真を私の方へ滑らせた。


 胎児が、目に見えて大きくなっている!

 小さな豆粒だったのに。


 今回のエコー写真では、もう赤ちゃんの形をしている。

 大きい頭に胴体、丸い手足が映っていた。

 胎芽のときと、いる位置は変わっていないのが面白い。


「出産予定日は6月13日で良いと思います」


 お爺ちゃん先生の顔は、にこやかだ。

 事務的な連絡にも、どこか温かみがあった。


「次回は少し空きますが、4週間後。母子手帳を持参の上で受診してください」

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