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30話 来た道と、進む道。

 お役所手続きは面倒な印象がある。

 婚姻届自体は紙1枚で済むとはいえ。

 20歳以上の保証人が2名、必要だ。

 本籍地以外の役所に届け出る場合には、戸籍謄本もいる。


 私が個人情報を書くだけで、あっけなく婚姻届の手続きが終了したのは。

 アオイくんが、しっかりと準備をしてくれていたからに他ならない。


「来週、結婚しよう」発言から、届け出たのは5日後。

 大学の図書館で私が現実逃避をしている間に、いかに彼が結婚の話を進めていたのかが伺える。


 保証人の欄には『須崎明子』さんと『須崎結人』さんの名前と印鑑があった。

 あらかじめ、お母さんと弟さんに書いてもらっておいたらしい。

 

 挨拶もなしに、それで良いのか。

 一抹の不安を感じるが、たぶん私は体調が悪い人の扱いになっているのだろう。


 テレビドラマでよく見かけるような妊娠の初期症状は、吐き気を催してお手洗いに駆け込むシーンから始まる。


 つわり。

 現状の私は何ともない。

 妊娠したことさえ、日常生活のなかでは忘れかけているレベルだ。


 明日は我が身、と思い始めると。

 戦々恐々とした日々を送らなければならないので、なるべく考えないようにしていた。


 戸籍謄本については、まあまあ実家が遠いので私も取りに行かなければならないのかと身構えた。

 実家は西の名古屋の外れ。

 今、住んでいる場所は東の名古屋の外れ。


 名古屋市をバスや電車で横断すると、2時間弱かかる。

 でも、市内であれば戸籍謄本は必要ないらしい。


 両親の持ち家の裏側には、田んぼが広がっている。

 高校へ通うのに、ひたすら自転車で川の堤防沿いを走り続けなければならなかったとき。

 周りに何もないせいで、かなり遠くに聳え立つ名古屋駅のセントラルタワーズが必ず見えた。


 もう、こんな生活は嫌だ。

 絶対に、いつか都会に住んでやるんだ。


 雨の日でも風の日でも必死に自転車を漕ぎながら、そう誓ったものだが。

 田舎にある実家は、腐っても名古屋だったらしい。


 結局は、今も名古屋から外れているくせに。

 親のお金で生活しているくせに。

 正直なところ、初めて生まれ育った場所に感謝した。


 お父さん、お母さんは今も元気にしているのかな? と思いながら、自然に今までのことを振り返ってしまう。


 勝手に、木原家の戸籍を抜けた後ろめたさ。

 この先、もしかしたら両親と会うことはないのかもしれないという物寂しさがあった。

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