23話 もう、好きにしなさい。
「何のために、大学に入れたと思ってるの!?」
だいぶ、母はヒートアップしていた。
昔から、私の母は意見が衝突すると威圧的にしか喋れなくなる人だった。
いつもの私だったら、わざと大きな音を立てて受話器を落とす場面である。
でも、またスマホを壊すのは心苦しい。
仕方がないので、静かになるまで待った。
気まずい沈黙が流れたところで、おもむろに私は口を開く。
「……お母さんは、なんで私が大学に行ったと思ってるの?」
「やりたいことを見つけるためじゃないの!?」
「今の私がやりたいことは、出産と育児だよ」
「そうじゃなくて、社会に出るためのやりたいことでしょう!?」
ひときわ、母の声が大きくなった。
ボタンを間違えたフリをして、電源を切りたくなってくる。
「社会に出るのが大学に入る目的なら、文学部なんて選ばないよ。経済学部とかビジネス学部とかに入った方が良くない?」
改めてかけ直した方が冷静に話せるのではないか、と考えながらも私は話を続けた。
「じゃあ、何のために入ったの……?」
「単純に学びたかったからだよ。別に、良い会社に就職するためじゃない」
「………」
「もう1度、言うんだけど」と口にしてから、私は深呼吸をする。
「私は出産と育児がしたい。だから、お母さんに聞きたいことは1つだけ。——どうしたら、何をすれば。許してくれる?」
時間にしたら一瞬。
体感的には、ものすごく長い間が空いた。
でも、私の母は明確な答えを持っていなかったのだ。
「もう、好きにしなさい!!!」
この言葉を最後に、電話は切れた。
ぴん、と張った糸電話の糸を。
ハサミで切られたような感覚がある。
途端に、私の緊張も緩む。
こうなりますわな、と。
頭のなかにいる客観的で冷静な、もうひとりの私が他人ごとのように言った。
最後の言葉は……、少し難しい。
たぶん、言葉通りに受け止めてはいけない言葉だからだと思う。
例えば、アルバイト先で失敗して「もう今日は帰ってくれ」と言われても帰ってはならないのと同じで。
「もう、好きにしなさい」は決して、好きにしてもいいという意味の言葉ではない。
どうしたものか、と考えているうちに。
ベッドに寝そべっていた私は、いとも簡単に意識を手放してしまった。
何でも妊娠のせいにするのは良くないが、本当に最近の私は疲れやすいのである。




