22話 親の心、子知らずのフリ。
大丈夫、大丈夫。
橋の下で拾ってきた猫とか犬とかの話ではない。
いきなり、「堕ろせー!」とは言われないはず。
むしろ、本当に猫とか犬とかの話ならば良かった。
迷うことなく「捨ててこい」と、母は言うタイプだけど。
それでも、お互いに傷は浅く済む。
耳元でコール音が鳴り続けている。
このまま出ないでくれ、とベッドの上で寝そべりながら思っていたら繋がった。
タイミングが悪い!
「あれぇー、久しぶりぃ」
能天気な声が聞こえてきた。
どこか懐かしい。
もう、やっぱり話すのは止めておこう。
よほど思ってきたことだが、諦める。
問題を先送りにしても何にもならない。
覚悟を決めろ。
母との関係が崩れるのと、お腹のなかの子の存在と。
どちらが大切か。
「元気ぃ?」
「元気だよ、お母さんは?」
「元気、元気」
まるで英語の初回授業のような言葉を交わす。
お決まりのパターンである。
「どしたの?」
ずいぶんと気楽に、母は聞いてくれた。
いつものように、私は深呼吸をする。
それから。
一気に、まくし立てた。
「妊娠したの。来週、籍を入れることにしたから」
いろいろ伝え方は考えたつもりだ。
どうしたら、衝撃を少なくして伝えられるか。
どうしたら、さらっと聞き流してもらえるか。
でも、無理だ。
「妊娠」なんてパワーワードすぎる。
伝え方どうこうの問題ではない。
だから、奇襲作戦。
何が起こったのかもわからないうちに、話を終わらせる!
一瞬、作戦は成功したかのように思えた。
母は訳もわからないまま。
「あ……、そうなの。おめでとう」と言ったのである。
でも、上手くいかなかった。
当たり前なのだが、母は質問を繰り出してくる。
「お相手の方は、社会人?」
「来年から社会人」
「……アンタ、何言ってんの?」
そして、私は質問攻めにあった。
「大学はどうするの」
「就職はどうするの」
「新居はどうするの」
「どうやって生活するつもりなの」
「どうやって育てるつもりなの」
ひとつひとつの質問に、それほど意味はない。
だから、私には答える間も与えられていない。
ただ、母は「無理」なのだと。
わからせるためだけに、質問をしてくる。
まともに答えたところで、私に勝ち目はない。
突っぱねるしかなかった。
「わからん! それでも、産む!」
「はぁー!?」




