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21話 結婚が現実味を帯びてきた日

「ぐぇ」

 喉から変な音が出た。

 食卓の上の淹れたてのコーヒーを、まだ口に運ぶ前で良かったと思う。


 コーヒーは1日1杯程度なら、妊娠中でも飲んでも良いことを知った。

 毎日の貴重な1杯。

 1滴たりとも無駄にはできない。


「何、?」

 スマホから怪訝そうな声が聞こえてくる。


 何って、何!

 私の誕生日っていったら、10月31日。

 もう1週間、切ってますよ!


「あまりにも、早すぎる!」

「そう? うちの母は年明けくらいにリホの体調が落ち着いてから挨拶したいって言ってたけど」

「えっ」


 知らない間に、どんどん話が進んでいた。

 途端に、結婚が現実味を帯びてくる。

 やばい。


「もしかして反対された?」

「……まだ、言ってない」

「は?」


 気まずい沈黙が流れた。

 いや、まさかそんな。

 意欲的に私と結婚しようとしてくださるとは思ってもみなくて、すみません。


「えーっと、2週間もあったはずなんだけど」

「………」

「結婚する気はあるんだよね?」


「本当にすみませんでした」と、私は秒で謝った。

 アオイくんの声は、いつも通り穏やかだったけど。

 逆に怖い。

 何か言わなくては、と気持ちが焦る。


「怒られるだろうなって考えたら、なかなか電話できなくて」と、自分で口にしながら。

 ものすごく言い訳がましいな、と思った。

 実際のところは、ずっと現実逃避をしていたのである。


「普段は強気なところもあるのに、リホは変なところで弱気なんだね」

 彼は呆れていた。

「ごめん」

 謝るしかない私。


「まぁ、俺も父親には折り合いが悪くて言えてないんだけど」

 さりげなくフォローが入る。

 基本的に、彼は優しい。

 が、どう考えても私は早く電話するべきである。


「今日、親に電話するね」

「うん」

「本当にごめんね」

「うん」


 やっぱり怒ってる?

 そう思いながらも、私は提案してみた。


「明日、会わない?」

「いいよ」

「親に電話した結果も含めて、いろいろ話そう」

「わかった。そっちに10時くらいに行くよ。……昼休み終わるから、またね」


 通話が切れた。

 早く親に言わなければならない。

 自ら電話しなくてはいけない状況を作り出して、追い込んでみたものの……。


 コーヒーを飲んでから電話してみよう。

 お昼ご飯を食べてから電話しよう。

 ちょっと部屋の掃除してから。

 ちょっと夕飯の準備してから。

 ちょっとお風呂掃除してから。

 ちょっとも、やることがなくなって親に電話するまで結局。

 約5時間もかかった。

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