16話 最後の最後は、また演技。
「覚悟……、覚悟ときたか〜」
超絶なイケメンは明らかに面白がっていた。
優雅にコーヒーを飲む彼は、降りかかってきた状況さえも楽しんでいるように見える。
「とても君らしいけどね。肩肘張らなくても大丈夫でしょ」と、相変わらずの形の良い唇で言葉が続けられる。
「君となら上手くやれるっていう予感が、俺にはあるよ」
ぱっちり二重の目力の強い瞳が、私を見つめていた。
一瞬でも、かっこいいと思ってしまった自分が辛い。
想像以上に答えが、ふわっとしているくせに。
予感って何だ!
予感で飯が食えるかー!
若干の照れがあるのも否定はしない。
でも。
ちゃぶ台があったら、ひっくり返しているような心境であるのもまた事実。
根拠のない自信は、どこから来るのか。
どうして、余裕をもっていられるのか。
小一時間、問い詰めたくなる。
「上手くいかなかったとしても最悪、上手くいっている演技くらいはできるしね」
荒ぶる私の心模様とは裏腹に、穏やかな表情で彼は笑う。
呆気にとられてしまった。
肩の力が抜けすぎている。
アオイくんなら本当にできるのかもしれないけど。
器用かつ高度な演技の技術は、私には使いこなせませんよ!?
ちょこっと学生生活をエンジョイしている女の子を演じたこともありますが、私は演劇部ではありません。
というよりも。
日常生活のなかで必要があれば自然と演技を行い、自分すらも騙していける。
演劇って、そんなチートスキルでしたっけ?
ものすごい勢いで、演劇部が嫌いになりそうなのですが。
……あなただけなのでは?
「わかった」
もういいです、と私は心のなかで付け加える。
話を聞いていると、どうも覚悟が必要なのは私だけだったらしい。
本当は、とっくに気がついていた。
あれもこれもできない、では通用しない。
堕ろせないなら覚悟を決めて、意地でもお腹の子のために幸せな家庭を築くしかない。
いつものように深呼吸をする。
それから、私は大見栄を切った。
「たとえお互いに好きではなかったとしても、お腹のなかの子のために協力して幸せな家庭を築こう」
自然に笑え、と自分に念じながら。
とびっきりの笑顔を私は作る。
「演技はしてもいいけれど、不倫はやめようね」




