15話 シミュレーション
しばらく、私は黙っていた。
頭のなかで思考が巡る。
まず、産まないことにした場合。
結論は、わりと簡単に見える。
『もう1度、産婦人科を2週間後に受診。
→紹介状をもらって、その病院に行く。
→中絶同意書に2人でサイン。
→中絶手術費用を彼と半分ずつ出し合う。(たぶん7万ずつくらい)
→日帰りで中絶手術をする。
→そのあとは中絶手術のことを誰に話すでもなく、表面上は普通に過ごす。
もちろん、平気で日々を過ごせるはずがない。
想像もできないような喪失感に苛まれて、死にたくなるかもしれない。
でも、数年後。十数年後。
時間が経つうちに傷は癒えて、たぶん普通に笑える日が来てしまうのだろう。
END』
アオイくんが問題にしているのは、「平気でいられない」という部分だ。
どのくらい、喪失感や罪悪感などに耐えられるのか。
自信がない。
妊娠が発覚したとき、「人生が終わった」と思ったくらいだ。
本当に死にたくなるかもしれない……。
だから、アオイくんは私に「産んでよ」と言っている。
じゃあ、仮に産むことにしましょう。
産むことにした場合。
結論がイマイチ見えてこない。
『・産婦人科は普通に受診する。
・両親に妊娠したことを話す。
→怒られる。
→本気で「産みたい」と言ったら、なんだかんだで援助してくれる。
→脛をかじりながら、もはや両親と子どもを育てる形になる。
・結婚生活が始まる。
→相手は自分のことが好きかもわからない、仮面夫婦。
→子どものために、仲の良い夫婦を演じる。
・金銭的苦労を強いられる。
・内定は辞退。
社会には出られない。
いわゆる、私は専業主婦』
大きく違うのは、子どもが生まれるのか生まれないのかという点。
でも、生まれたとして。
はたして、上記のような状態で幸せな家庭が築けますか?
いや、違う。
ここで必要なのは「自分たちは絶対に幸せな家庭を築いてやるんだ」という決意だ。
そのためには手段も選ばないくらいの、断固たる決意……。
考えがまとまった。
ずっと待ってくれていた彼に向かって、私は口を開く。
「2つだけ、質問があります」
「何でしょう」
「貯金はいくらありますか?」
「……120万」
悪くない数字だった。あとは——、
「絶対に幸せな家庭を築いてやる、という覚悟はありますか」




