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6話 欲深な異世界人に決別を2

 ーーおれっちはシノブ。

 スキルの恩恵で敵から隠れながら偵察したりするのが得意で、それを活かしてパーティーの役割的にはスカウトをやっている。

 戦士みたいに活躍することは無いけれど、この系統のスキルを持っている人はあまり居ないせいか、パーティーを組むのには困った事はないかな。


 今回は、どうやら勇者パーティー同士が組んで魔王城に挑戦するみたいで、そのための前準備として、結界を解除しないといけないとか。

 そこでギルドからのクエストを受けたおれっちたちは、結界装置の1つを解除するために、隠者のダンジョンにやって来た。


 残念ながら、おれっちたちのパーティーに勇者は居ないから、魔王城に行くメンバーには入っていない。

 それでも、この割の良いクエストをこなせば当分は遊べそうだ。

 ついでにダンジョンでお宝でも見つかれば最高なんだけどなー。


「そろそろ中盤に入った頃だよね」


 そう言ったのは、俺っちの後ろにいる金髪の子で、剣を持っているのが戦士のレイラちゃん。

 同じ地球から来た異世界人だけど、おれっちとは違って外国の人だ。

 俺は日本語、レイラちゃんは英語で話してるみたいだけど、互いに自動翻訳されているのか、不思議と会話が成立しているんだよね。


「いやあ、ここまで敵も居ないし楽でいいッスねー」


 それに続くのがグローブをはめている、同じく戦士のクロウくん。

 彼はこっちの世界の人で、最近一緒にパーティーを組むようになった青年だ。


「でも、この霧ちょっと不気味かも……」


 最後に、一番後ろからついてきているおさげの髪型に、魔女の帽子を被っているのが、同じくこっちの世界の人で魔法使いのミリアちゃん。

 彼女の光魔法で、比較的暗いダンジョンの中でも遠くまで見渡せる。

 おかげでここまでは戦闘もなくて、安全に進んでこられた。


「む、何か気配が」


 そう思った矢先に、敵のお出ましのようだ。

 もしかして、おれっちがフラグを立てちゃったかも。

 まあ出会ってしまったものは仕方ないよね。

 そんなことよりも、相手は布切れを被った中身の見えない魔物、ファントムだ。


「グルルル……」


「ひっ」


 ミリアちゃんがおばけに見えるそれを見て、小さく悲鳴を上げた。

 でも実際のところ、こいつは見えないだけで実体がある生き物なんだ。

 隠者のダンジョンという名前の通り、ここはファントムといったような姿の見えない魔物が多いと言われている。


「ファントムだね。シノブ、ミリア頼むよ!」


 そこで相手もこちらに気づいたのか、被っていた布切れを脱ぎ捨てる。

 すると途端に、どこにいるのかがわからなくなる。

 こうなった場合は普通のパーティーだと苦戦を強いられることになるという。

 勇者パーティーなんかだと実力差もあって、カウンターとかで楽々倒してしまうみたいだけどね。


 だけど、ここにはおれっちがいるから大丈夫だ!

 おれっちの持つ『隠遁』スキルの効果で隠れている敵の姿を視認することが可能だからだ。

 そのおかげで、消えたファントムが天井に張り付いているのが見えた。


「ミリアちゃん、上のあそこに張り付いてるよ!」


 指を指すことで教えた場所に向かって、ミリアちゃんが杖を構えてから魔法を放つ。


「うんっ、瞬間誘導魔法(マーカー)! からの氷の弾丸(アイスショット)!」


 すると誘導魔法のマーカーによって、透明になった相手の体に二重丸の的のようなしるしが浮かび上がると、そこに魔法によって作られた円錐の形の氷が吸い込まれるように突き刺さる。


 攻撃が命中すると、その部分が凍って、それが目印になった。

 これで前衛の2人にも敵の位置が分かるようになったはずだ。


「よし、あとは私たちに任せな!」


 攻撃を貰ったファントムはたまらずといった感じで、天井から地面へと音を立てて落下した。

 そこへ向かって、レイラちゃんとクロウくんが素早い動きでファントムに接近していく。


「行くッスよ!」


 先に相手の懐に潜り込んだクロウくんが乱打をお見舞いして、レイラちゃんに向かってファントムを蹴り飛ばした。

 そうして飛んできたところで、レイラちゃんが剣を振るう。


「さ、これで終わりよ!」


 振った剣が見えなくなるほどのスピードで、多分何回か切りつけたんだと思う。

 地面に崩れ落ちた音がした後で、金色の粒である経験値が浮かび上がっておれっちたちに吸収される。

 これで戦闘は終了。

 姿が見えてしまえばこんなものだ。


「怖かったぁ〜」


「なーに、こっちにはシノブがいるんだから平気平気!」


 そう言ってレイラちゃんがミリアちゃんの頭を撫でている。

 ああ、おれっちにもしてくれないかなあ……。


「そうそう、現にラクショーだったッスもんね」


「おれっちにお任せよ!」


「……うん! 便りにしてるね」


 ここはおれっちのために用意されたと言っても良いダンジョンだから、ここでポイント稼いでおけばあわよくば……なんて!

 そんな感じで探索を再開した時のことだった。


「うわああああ! 誰か助けてくれええええ!」


 急に助けを求めるような、叫び声が聞こえてきた。


「きゃっ」


「叫び声!? 誰か先に来てたのかい!」


「どうするッスか?」


 どうやら誰かが襲われたみたいだけど、声は1人分しか聞こえてこない。

 まさか1人でダンジョンに来たのか?

 もしくは他のメンバーは既に……。

 どちらにしても様子を見る必要があるかな。


「ここはおれっちが偵察に行くよ」


「……任せて良いのかい?」


「ああ、姿を隠しながら先行してみるよ。何かあったらすぐに戻ってくるから、ゆっくり進んできて!」


 さっそく良い所が見せられそうだ。

 叫んでたのは男みたいだけど、まあ生きてるようなら助けてやってもいいかな。

 レイラちゃんとミリアちゃんも見ていることだしね。


 女の子だったらいい感じに助けて、おれっちに惚れちゃうなんてこともあったんだろうけどなあ。

 そこはちょっと残念だな。


「了解ッス!」


「わ、わかった。気をつけてね」


 3人に見送られてから、『隠遁』のもう1つの効果を発動させて姿を透明にする。

 これは足音と気配も消えるおかげで、ボスにも見つかることのない優れものだ。

 実体はあるから触るとバレちゃうけど、不意打ちをするのには凄い便利だよね。


 あとは、ちょっとしたイタズラなんかにも、へへへ……。

 今日も帰ったら、こっそりと姿を隠してレイラちゃんとミリアちゃんと一緒にお風呂に入っちゃおうかな。


 っと、だめだだめだ……偵察に集中しないと。

 足早に進んでいって、しばらく行くと通路の先に部屋が見えた。

 スキルの効果があるから心配無いけれど、つい癖で、そーっと部屋の壁から中を覗き見る。


 すると、人が倒れているのが確認できた。

 でも、あれはもうダメっぽいかな。

 さっき叫んでたらしき人は、ダンジョンの浄化装置であるスライムに飲み込まれていた。


 奥には宝箱……ということは罠か何かにやられたのかな?

 冒険者がダンジョンで死んだなんて最近聞かなかったけど、いよいよ魔王軍が本気を出して来たってことかな。

 おれっちも死んだらあんな風になっちゃうのか……ぶるり。


 もう助けられないみたいだし、一応拝んでおこうか。

 なむなむ……。


 ……って。あれ?

 よく見たらこの人、腕に大きな赤い宝石が付いた、高そうな腕輪を付けてるな。

 幸いと言って良いのか、まだ腕はスライムに飲み込まれていない。

 このままだと溶かされちゃうだろうし、もったいないから貰っちゃってもいいよね?


 高値で売れたら、みんなで分け……いやいや。

 こっそり売ってレイラちゃんとミリアちゃんに何かプレゼントするってのも良いかも知れない。

 すごーい!

 なんて言われて、おれっちの彼女になってくれるかも。


 それじゃあ早速失礼して……。

 名前の知らない人、腕輪は有効活用しておくから安心して眠るといいよ。


 そうして腕輪を取ろうとすると、死体の指に引っかかった。

 あんまり触りたくはないけど、おれっちの未来のためだ!

 そう思って、引っかかった指を剥がそうと触れた瞬間。


「かかったな」


 死体から出るはずのない声が聞こえて、指に触れていた手を掴まれる。


「あぎゃ!」


 反射的にそんな声がでてしまい、掴まれた手を必死に剥がそうと手を引いたところ、あっけなく相手は手を離した。

 すると次の瞬間、おれっちの足元が突然光りだす。

 な、何が起こってるんだ!?


「さらばだ、強欲な異世界人」


 混乱した頭を落ち着かせるヒマもなく、そんな声が聞こえてきたのを最後に視界が白く染まる。

 そして気づけば元の世界、日本に戻っていた。


「え? え? 何が……」

 

 こうして、おれっちの異世界生活はゲームのプレイ中に急に電源を落とされたかのようにして、唐突に終わってしまったのだったーー

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