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5話 欲深な異世界人に決別を1

 魔王軍に入ってからから2日後。

 映像で目的の人物を上空から監視していたところ、相手の方にようやく動きが出たらしい。


 予想されていた通り、魔王城攻略の第一歩である結界を解除するために、世界各地の冒険者パーティーが同じタイミングで、結界の解除装置を目指してダンジョンへと向かいだした。


 これが完了すると、ユウトたち勇者パーティーを含めた少数精鋭の冒険者が魔王城へと攻め入ってくることになる。


 それまでに、俺はユウトを含めた異世界人たちを元の世界へと送り返すための準備を終える必要があった。


 現時点でも俺が実力行使で、相手に触れることが可能な強さの異世界人を地道に異世界送還していくという手もあるが、今回はそれだと時間が足りない。

 そこで別の手段を用いることに決まった。


 そうするための下準備のため、クロエが魔王であるアギトさんに頼み事をしにいって、それを帰ってくるのを待っている()()()

 解析室には1つの宝箱と、赤いやわらかな生物が俺と共に居た。


 宝箱の方はギミックミミック、赤い方はブラッディスライムだ。

 この2体の魔物に今回の作戦に協力してもらうことになっている。


 ーー少し前に遡るが、作戦会議を行うということで解析室に来た時に無駄とは思いつつも、挨拶をしてみた時の事。


「俺はリアだ、今回はよろしく頼む」


 すると、やはり言葉は発せないようで声が帰ってくることはない。


 その代わりなのか、ギミックミミックはガチンガチンと宝箱の奥にある歯を噛み鳴らす。

 一方でブラッディスライムはその軟体から器用に人の手のような物を作り出すと、フヨフヨと手を振るような形で挨拶を返してくれた。


 始めは襲われないかとか思ってしまったが、どうやら意思疎通が出来るようで、そんなことは一切無かった。


 こんな機会はなかなかないと、2体の魔物に触ってみてもいいかと訊いたところ、いいという返事なのか足元に寄ってきた。


 そこでギミックミミックに触れてみると、金属的な冷たさはなく温かみを感じる。

 そうしていると、宝箱でいう開き口のところから手のようなものが伸びてきたので何かと思ったが、どうやら握手をしてほしいみたいだ。

 俺が手をだすと正解だったようで、それを握ってきた。


 こっちに寄ってくる時も、器用にその手のようなもので移動して来ていた。

 ダンジョンで出会う時は宝箱に擬態していて、動くところなんてまず見ない訳だから、あれには驚いた。


 次にブラッディスライムに触らせてもらったが、とにかくやわらかかった。

 触ってて飽きないし、柔らかさのなかに弾力もあって癖になりそうな感触だ。

 よく、スライムに飲み込まれると消化されると聞いたが、触る程度ならば問題ないようだーー


 そんな感じの事があって、多少は仲良くなれた……と思う。

 今は俺のひざの上にブラッディスライムを乗せて、一緒にクロエが戻ってくるのを待っている。


 それから少しして足音が聞こえてきた。

 それは扉の前で音が止まり、次の瞬間にはそれが開くと奥から犬耳の少女が現れた。


「おっまたせー! 許可を貰って宝物庫から適当によさそうなのを貰ってきたけど、こんなのでいいよね?」


 戻ってきた少女、クロエは赤い宝石のはめ込まれた、いかにも高価そうな金の腕輪を手に持って見せてきた。


「おお、それなら素人目に見てもかなり良さそうなものに見えるな」


「まあ実際に良いものだからねー。無くしちゃダメだからね?」


 そう念を押されると心配になるな。

 実際に使うことになるまで日が開くから、それまでは持っていてもらおうか……。


「……本番までクロエが持っててくれ」


「あははっ、そうするねー」


 この腕輪はエサだ。

 現状の俺ははっきり言って弱い。

 クロエの解析による評価では戦闘面での強さを10段階で表して、勇者であるユウトを一番上とすると、それに対して俺は下から2から3番目辺りだという。


 そういう事で準備段階の今は異世界人との正面衝突は控えて、密かに罠にはめる事に決まった。


 クロエが持ってきた腕輪で必要な人材や道具は揃え終えて準備は大詰め。

 最後に、今からその作戦を実行する現地の下見をしに行く。


「それじゃあ、隠者のダンジョンにいこっか」


 目的の冒険者がどこのダンジョンに向かうかは、その冒険者が加入しているパーティーをクロエのスキルによって、上空の映像から捕捉。


 ギルドに向かうと思われたタイミングを狙い、俺が転移で目的の冒険者の近くにある、街中の死角となる場所に移動。

 そのまま尾行して、直接依頼を受けるところを目撃して行き先を突き止めた。


「わかったわかった」


 早速とクロエに急かされたので、普段は隠者のダンジョンを担当しているというギミックミミックに触れて転移を使い、隠者のダンジョンにやって来た。


 転移で移動してきたのは、解析室と同じように映像を映し出す画面が置いてある部屋だった。


 しかし、解析室にあるような機械は無く、画面もシンプルな長方形の厚みのある透明の板が何個か壁に立てかけられているだけのようだ。


 そして、その透明の板にはダンジョンの入り口から通路、各部屋の内部と思われる風景が映し出されている。


「無事についたのか? なんだかダンジョンって言って良いのかわからない部屋だが」


 あとは不思議なことに、この部屋は外に出るための通路や扉がない密室だった。


「うん、そうだよー。ここは監視部屋で、入ってくる冒険者とあまりにも実力差がある子たちに、逃げられるように指示を出したりする場所かな」


「こんな部屋があったんだな」


「みんなが少しでも生き残るためにね」


 なるほどな。

 ダンジョンでは手強い敵ばかりと出会うと言われてきたが、そういう仕掛けがあったからなのか。

 通りでユウト率いる勇者パーティーでダンジョンに潜った時は、ボスフロアまで素通りできていたわけだ……。


「よくぞいらっしゃった客人。私は霧の魔物スモッグ、この隠者のダンジョンの守護を務めさせて貰っている。クロエ様もお久しゅうございます」


「スモッグさんこんにちはー」


 そして、スモッグと名乗ってきた魔物は黒い人型をしてはいるが、本人の言うように、薄い霧状の体の持ち主のようで、その背後が透けて見える。


「リアだ、よろしく頼む。ところで、ダンジョンの守護ってことは……」


「うん、スモッグさんはここ、隠者のダンジョンのボスなんだよ」


 一緒に転移してきたギミックミミックやブラッディスライムとは違って、このように魔物でも会話の出来る種類も存在する。

 俺の知る限りではあるが、ダンジョンボスは全て言葉を話す。


 そして、それらは倒した後で例外なく一定の時間を経て復活を果たす。

 そうなると結界を消すための仕掛けが解除されてしまうというのは有名な話だ。


「現在はダンジョン内部に冒険者はいないため、罠は解除しておいた。安心して内部を見て回るとよい」


 するとスモッグさんが何かしたのか、壁の一つが音を立てて、通路が現れる。


「ありがと、早速見て回ろっか!」


「ああ、行こうか」


 そこを2人と2体で通って外に出る。

 出口はどうやらボスフロアの脇に通じていたようで、広間に出た。


 奥に結界を解除するための仕掛けが置いてあるから、ボスフロアであることは一目でわかる。

 部屋の中には霧が立ち込めていて、ボスが戦うのに有利な場所となっているようだな。


「こんなところに隠し通路があったのか」


「これなら、わざわざ冒険者が来るまで待ち構えなくても済むからねー」


 確かに。

 いつもボスフロアに来ると、決まってボスが待っていたぞという雰囲気を見せているが、毎回そんな事をしていたら待ちくたびれそうだしな。

 そうそう、毎回と言えばだ。


「そういえばボスって何で復活するんだ?」


 ダンジョンの不思議の1つだな。

 他には何故か復活する宝箱とか、消えたり現れたりする部屋とかもあったよな。

 ちょうどいい機会だし、知っておきたい。


「えっとねー、それは冒険者が戦うボスは偽物っていうのかな。本体じゃないの」


「本体じゃない?」


「うん、生き物で言う心臓が魔王城にあって、その他の部分が倒されても時間はかかるけど、少しすると復活できるんだよー」


「そういうことだったのか」


 それでボスはいくら倒しても復活するのか。

 つまりは弱い魔物は戦闘を避けつつ、復活できるボスが冒険者の相手をすることで被害を最小限にできるということか。


 どうも魔王軍側は人間側も含めて、極力双方に被害を出さないようにしているみたいだな。


 それから俺たちはダンジョン内部を練り歩き、中盤あたりにある部屋に当たりを付けて、ギミックミミックとブラッディスライムと共に、当日の予行演習を行った。


 ーーそして2日後、目的の異世界人を含む冒険者パーティーが隠者のダンジョンに到着。


 彼らがダンジョン中盤に差し掛かったところで、俺たちは配置について作戦を開始する。

 俺は息を思い切り吸い込んだ後で、予め決めていた言葉を大声に乗せて、ダンジョン内に響かせた。


「うわああああ! 誰か助けてくれええええ!」

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