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4話 追放と新たな出会い3

 どうやら俺の名前も知っているようだが、転移について俺よりも詳しい理由もあわせると、やはりスキルに由来したものから知ったというのが妥当か?

 そうであるなら聞いても教えてはもらえなさそうだな。


 ……それにしても、亜人や魔物が安全に暮らせる世界を作るか。

 つまりは人間側を裏切って、魔王軍に手を貸す。

 そういうことだよな。


「俺に人を裏切れと?」


「うーん、これって裏切りに入るのかな。別に私たちに協力して人を滅ぼそうってわけじゃないよ? ただ、自分たちの身を守れるように助けて欲しいってだけ」


 あくまで、自分の身を守れるようにと来たか。

 確かに、今の魔物や亜人との戦いは一方的に人間側が被害を与えているといった感じではあるが。


 ダンジョンと言った、比較的難易度の高いところでも、そう苦戦はせずに攻略されるからな。

 しかし……。


「方法は分からないが、仮に身を守れるようになったとして、そっちが今までやられてきたように無害な人間にもやり返さないという保証は?」


「口約束でいいのなら」


「信じられないな」


 やはり、その辺りの保証がないのはな。

 亜人の女の子は俺のその言葉に対して苦笑いをする。


「あはは、だよねー。でもさ、魔王軍って言葉で括られた私たちが君たち人間に何かしたのかな? 人間が襲ってきて、亜人や魔物のみんなが身を守る以上のことをしたかな?」


 そう言われて思い出してみるが、それ以上の事は記憶にない。

 俺が冒険者として勇者パーティーに入ってから、魔物や亜人たちは自分を犠牲にして仲間を助けるという、その光景ばかりを思い出す。


「……いや、見たことはないな。俺が知る限りではどの記憶も仲間を助けるために、誰かが耐えて時間を稼いでいた。それに戦いになってもこっちに犠牲者がでた、なんて話は聞いたことがない、か」


「うん、それが魔王軍のモットーだから。魔王城のみんなはともかくとして、地上の仲間は自らの身を守る力さえ無いのがほとんど。だから誰かを犠牲にして、他の誰かを助けるしか無いんだ」


 記憶に新しいオークが仲間に逃げろと言っていた事。

 確かにやり返さない保証はないが、俺の記憶と彼女の言っていることを照らし合わせても、嘘だとは思えない。


 となると、あとは俺が信じるか否かという話になってくるが、最後に1つ。

 小さい頃に教わっていた事が引っかかる。


「だが、魔王軍は血も涙もない悪いやつらだから、倒して世界を平和にしないといけないと」


「そう教えられた?」


 そう。この世界の人間であれば、それが常識。

 俺はうなずくことで答えを返す。


「でも、リアはそれに疑問を感じたからこそ、亜人や魔物を密かに逃がすって事をしてくれてたんだよね?」


 それも間違いではない。

 冒険者になって実際に魔王軍を相手にしてきた。

 それらはどれも、目撃情報があったから現地に向かって討伐しろというもの。


 俺の知る限りではあるが、魔王軍が人間陣営に被害を与えたという事も聞かない。

 そうして思った。

 本当に魔王軍は悪いものなのかと。


 そんな疑問を持った俺は、つい亜人を転移で逃してしまった事がある。

 初めは単に出来心だった。


 やってしまった。

 すると、そう考えていた俺に助けた亜人が言ったのだ。

 ーーありがとう、と。


 本当に血も涙もない連中であれば、そんな事は言わずに、俺も襲われていたはず。

 亜人や魔物を逃がすというのはそれから始めることになった。


 そうして今までで、彼らに俺が何か嫌なことをされたということはない。

 今では彼らの住処に送り届けたところ、そこで歓迎されるということまであったりもしたな。


「ああ、そうだな。聞かれて考えてみたが、今はもう魔王軍を血も涙もないやつらだとは思えない」


 むしろ、今の人間のほうが血も涙もないのではないか、とユウトやマサトたちを始めとする異世界人を見ているとそう思う。

 同時に、それに不快を感じる自分がいた。


 そして、俺自身もその枠組みの中にいる。

 だから彼らを逃がすことで、そうではないと思いたかった。


 それからは彼らを逃がすたびに、その不快感が薄れて行く気がした。

 結局の所は自己満足だな。


「だけど、逃してきたのは俺自身の自己満足の結果だ」


 それを聞いた亜人の女の子はこちらににこりと笑顔を向けてくる。


「自己満足でもいいよ。私たちはそんな君の行動を見て、リアに助けて欲しいってそう思ったんだ。そして、私たちも行動で示してきた。だから保証はないけれど、リアに信じてもらえたら嬉しいかな」


 そうして思う。

 人間側に付くか、魔王軍側に付くか。

 重要なのはそこじゃなかったんだ。


 俺が今までに見てきた現実に対して、どう思ってきたか。

 その上でどうしたかったのか。

 答えは既に出ていたんだ。


 それに今となっては、俺を縛るものは何もない。


「……その上でもう一度言うよ」


 そうして、彼女。


「私は魔王の娘クロエ」


 クロエはこちらに手を差し伸べて続ける。


「リアに私たちを助けてほしいんだ」


 気がつけば、俺は自然と彼女の手を取っていた。

 こうして俺の冒険者としての日常は一旦終わりを告げて、魔王軍として動くことになったのだった。




 ーーこれは少し前の記憶。

 パーティー脱退を言い渡されて、ユウトに話があると酒場の裏手に同行した時の事だ。


「それで、話ってなんだ」


 2人きりということで、どうやらユウトは他のパーティーメンバーに聞かせたくない話があるようだ。


「少し確認したいことがあってね」


「確認したいこと?」


 今さら何を確認するというのだろうか。


「どうも気になっててさ。単刀直入に聞くけど、リアさ、戦闘の時にいつもサンドバッグ共を高所から落として潰してるって、あれ嘘だろ?」


 それを聞いた瞬間、ドクンと心臓の鼓動が早まった。

 落ち着け。

 確証はないだろうから、ハッタリだろう。


 それにしても、敵とはいえ相手のことをサンドバッグ呼ばわりとは、ユウトにとって彼らはそんな認識だったのか……。


「ちゃんと倒してるが、どうしてそう思う?」


「それは簡単だよ。あれだけ倒して経験値を稼いでいるはずなのに、一向に強くなった気配を見せないからさ」


 それはそうだ。

 実際に倒してないんだから強くなるはずもない。

 まあ強さが視認できるわけでもないし、適当に誤魔化すことにする。


「俺は転移能力者だからな。少しずつだが転移の能力が向上しているぞ」


「ふ〜ん。まあ、リアがそう言うならそれでいいんだけどね。仮に本当に逃していたのだとしても、その分だけ後からじ〜っくりとお楽しみの回数が増えるってだけだからさ」


 やっぱりこいつは気に食わない。

 それに、これを聞きたいがために俺と話をしたかったのか?

 もしそうなら不快なだけだし、さっさと切り上げてしまいたい。


「話はそれだけか。それなら俺はもう行くぞ」


 しかし、そうではなかったらしい。

 ユウトに回り込まれて、道を塞がれる。


「いやいや、今のはちょっと気になることを聞いただけ。言っておきたかったのはさ、スノーちゃんについてだ」


 スノーについて?


「スノーがどうかしたのか」


 こいつらの元に残しておきたくはないが、スキルの特性のおかげで彼女が何かされるということは、まずないだろう。


「スノーちゃんはさ、『聖女』の特性で俺たちがスノーちゃんの体に手を出したりなんかすると、汚れたとみなされて全ての力を失うのは知ってると思うけど」


 そう。スノーは回復に結界、それに加えて光属性の魔法を1人で使う事が出来る貴重な存在。

 いくら指定召喚でも、これだけのスキルを探し出すことは難しいとされている。


 その代わりにユウトが言った通りの制約があって、それを破るとスキルは失われる。

 そんな分かりきったことを、なぜ今さらになって話すのか。


「何がいいたい」


「いやね。ここだけの話なんだけど、1週間後に魔王城への侵攻が決まった」


 移動手段も確保して、俺に言う前に魔王城に攻め込むところまで決まっていたんだな……。

 まあ、どちらにしてもパーティーを外された俺が行くことはないのだろうが。


「それも済んで、残党狩りを終わらせるとどうなるか」


 途端にユウトが下卑たような、嫌な笑いを見せてくる。


「世界は平和になって、ご褒美タイムだ! 『聖女』もお役ごめんで、その後は美味しく俺たちがスノーちゃんをいただくよ!」


 その意味を察して、頭に血が上った俺はユウトに掴みかかるが、勇者に敵うはずもなくーー


 この後も、地に伏した俺にスノーをどうするのか下衆な言葉を並べていたが、思い出したくもない。

 だが、クロエのおかげで目が覚めた。

 魔王軍に付いた以上、容赦をするつもりはない。


「そういうことで、今から1週間前後のところで魔王城に勇者たちが来るみたいです」


 そうして俺は魔王城の玉座の間にて、玉座に座る魔王様、アギトさんに魔王城侵攻の話をしていた。


「そうか。私は魔王としてここを守る責務があるからな。クロエ、任せてよいな?」


 魔王のアギトさんは、親子なだけあってクロエと同じ黒髪の犬耳を持つ、大柄の男性だ。


 あれから俺たち2人は、相手に触れることで俺の行ったことのない場所でも転移が可能という特性を利用して、クロエ経由で魔王城へと来ることになった。


「もっちろん、任せてお父さん!」


「こら! ここでは魔王様と呼びなさいと……」


「あ、ごめんね魔王様ー」


 クロエはアギトさんに叱られるも、軽い感じで謝罪の言葉を返す。

 なんだかんだ、叱ったアギトさんもお父さんと呼ばれて、言葉とはうらはらにまんざらでもない様子をしているから、単に俺の目を気にしてのことなんだろうが。


 2人のやり取りを見ていると、世間一般で言われているような魔王の雰囲気は全く見られず、何処にでもいるような親子にしか見えない。


「まったく……こほん。それではリア殿、娘ともども我らの事をどうかよろしく頼む」


「出来る限り、やらせてもらいます」


「それじゃリア、早速だけど解析室までよろしくねっ」


「ああ、任せとけ。……魔王様、それではこれで失礼します」


 俺は転移を発動させて、魔王城の最奥にある玉座の間から、事前に案内してもらっていた解析室へとクロエと共に移動する。

 移動した先は大きな機械じかけのある部屋だ。


 中には黒くなっている、何も映し出されていない画面が何十個も配置されている。

 その画面の操作盤の手前にある椅子にクロエが座る。

 そんなクロエはアギトさんの前で見せた顔とは違って、今は怒ったような表情をしている。


「それにしてもユウトって勇者、仲間にまでそんな事考えるとか最低だよ!」


 どうやらスノーのことで怒ってくれているらしい。

 彼女たちにとっては、被害を与えてくる敵でしか無いはずなのに。


「それも今回の件がうまく行きさえすれば、起こることはないけどな」


「うんっ、そのためにも頑張らないとね! まずはその準備だけど、確か目的の人間がいるのはあの街だったかな……ちょっと待っててー」


 そう言って、クロエが自分の唇をペロリと舐めながら操作盤に触れると、画面郡にある中で一際大きな画面から映像が映し出された。

 それははるか上空から映し出された、俺達の住んでいる世界の姿だ。


 クロエから聞いた限りだと、これは異世界人がスキルを用いて作った、あちらの世界の技術の物である、人工衛星なんていうものから見える景色のようだ。


 それをクロエの持つ、見た物の機能を瞬時に理解、それに加えて相手の情報を読み取ることが出来る『解析』のスキル効果によって、異世界人の情報を読み取り、作り出したのがこの機械。


 結果、人間の打ち上げた人工衛星を借りる形で、様々な情報が得られるようになったという。

 更にこれを逆手に取って、人間には仲間の住処が判らないようにしているとも。


 俺が亜人や魔物を助けていた事、本人ですら知り得ない俺自身の持つスキルの詳細、そしてパーティーを追い出されてすぐに声がかけられた事。

 これらは、解析のスキルと人工衛星をあわせることで得た情報だという。


 俺の名前に関しては単純に、助けた亜人に名前を教えた事があったので、そこから知ったと。


 そうして聞いた俺の『転移』スキルによって使用が可能な、異世界送還の詳細。


 ーー異世界送還の使用時、対象の異世界人が現在までに稼いだ経験値と保有していたスキルの取得。


 これをクロエの連れてきた異世界人を送還することで得た『育成』スキルと合わせる。


 異世界人の中でも好き放題に暴れている連中を対象に、強制的に元の世界へと戻す事で得られた経験値とスキルを使って、各地に暮らす亜人や魔物を強化。


 そうやって、異世界人による脅威から身を守れるように育て上げるのが俺の役目となった。


 機械の操作を始めたクロエは、あとから映し出された他の小さな画面に視線を走らせていくと、一点を見たところで止まって、笑顔をこちらに向けてくる。


「いたいたっ、この人がそうだよ!」


 そうして俺は、1週間後に控える魔王城侵攻に備えるための、最初の仕事を始めることになるのだった。

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