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3話 追放と新たな出会い2

 異世界人を元の世界に戻す……?

 確かに出来なくはないが、どうしてこいつがそれを知っているんだ?


 今まで一度も試したことはない上に、『異世界送還』ついてはスノーを含めて誰にも話した事はないというのに。


「どうして俺にそれが出来ると思ったんだ?」


「んー、今はまだ教えられないかな」


「そうか」


 一応疑問を口に出してはみたが、やはりというか、それを俺に教えるつもりはないらしい。

 しかし、今はまだとは。

 まるでこの先があるような話しぶりだが。


 まあ十中八九スキルによるものなんだろうけどな。

 そう思考を巡らしながら、フードを取った男に視線を移す。


「それで、そこの異世界人を元の世界に戻せ、だっけか」


「ああ。お願いだ、俺を元の世界に戻してくれ! 金なら俺の所持している物を全部出す!」


 額を聞けば、多くはないがしばらくは生活に困らなそうなだけの金額ではあった。


 だが、どういうことだろうか。

 異世界人といえば、好き放題出来るからこっちの世界は最高、などと言ってのけるやつらばかりだというのに。


 まあ多数がそうというだけで、全員が全員そういう人間というわけではないのは分かってはいるが。

 あまりにもそういうのが目立ちすぎるせいで、異世界人と言えばそんなイメージばかりが浮かんでしまうのは否めない。


「俺の知ってる異世界人なら、そういうことは言わないと思うんだが」


 そうして男からその理由を聞く事になる。


「実は俺のスキルは『育成』で、戦闘にはまるで向かないスキルなんだ。最初は経験値を分け与えられるおかげで皆からちやほやされてたんだが。しばらくして力が付いてきたら、もう足手まといだからいらないって言われてな」


 過程は違うけど、最後は俺と似た感じで追い出されたって事か。

 ちょっと親近感を覚えるな。


「それでもう何度も同じ事があって、今じゃ指定召喚のせいで第一世代呼ばわり。勇者や戦士みたいな戦闘職ならいくらいてもいいんだろうけど、俺はそうじゃないし、もう嫌になったんだ」


 共感できる部分が多すぎて、何とも言えなくなった。

 俺はともかくとしても、この人には元の異世界という帰る場所があるだろうからな。


「それで元の世界に帰りたいと」


「そうなんだ!」


 そうして男は頭を下げた。

 ……まあ金は入るし、こちらとしては構わないか。


「わかった、やってみよう」


「本当か! ありがとう!」


「おい、まだこっちに来るな!」


 男が近付こうとしてきたので、声を上げて静止を促す。

 すると、男は足を止めると慌てて元の位置へと戻った。


「え、えっと、何かまずかっただろうか」


 この暗がりで何がまずくないというのだろうか。

 暗い路地には他に人の気配はなく、何かが起きても誰も気づかないだろう。

 だから警戒は怠らない。


「少し、そこで待っているんだ」


 俺は2度転移を行い、元の場所へ帰ってくる。

 それから3度目の転移で男女の2人組も含めて転移を行った。


「わわっ!?」


「うわっ、眩しい!」


 準備をして飛んだ先。

 それは俺がお世話になっている宿屋にある、借りている自分の部屋の中だ。


 部屋は事前に明かりを点けておき、相手から十分距離がある状態で転移を行った。

 急に飛ばされた2人は景色が一瞬で変わったことに驚いたようだが。


「ここなら人目も気にならないだろう? 外套を脱いでくれ。ちなみに周りには他の冒険者がいるからな。下手に騒ぎを起こすのはおすすめしないぞ」


 あの暗闇で近づかれて、外套の下に隠した武器でやられるなんてのはごめんだからな。


 それにここで騒ぎでも起こそうものなら、周辺にいる冒険者たちがすぐに集まってくる。

 これなら多少は安全だろう。


 すると、男が俺の言葉に従って外套を脱ぎ出す。

 ……特に武器になりそうなものはなし、か。

 だが、女は動く気配がない。


「どうした? そっちのあんたも脱いでくれ。じゃないと俺はあんたを警戒しながらやるハメになる。下手をすると、そっちの異世界人がとんでもない場所に飛ぶことになるかもしれないぞ?」


 それを聞いて異世界人が慌てだす。


「頼む、言う通りに早く脱いでくれ!」


 それでも動く気配のない女が、気乗りし無さそうに声を出す。


「えーと、どうしても脱がないとダメ?」


「ダメだ。脱がないのならこの話はなしだ」


 姿を見せないような相手は信用できないからな。

 脱がないのであれば、お帰り願おう。


 女は俺の言葉を聞くと少し考える素振りを見せ、


「んー、わかった。でも、絶対に声は上げないでね?」


 そう念を押してから外套を脱ぎ始めた。

 出てきたのは、すらりと短パンから伸びる足に、半袖の軽めのシャツから主張する立派なものが2つ。


 それよりも視線を奪われたのは、黒い尻尾と、上に尖った犬のような耳。

 そう。彼女は、


「……亜人だったのか」


 それで脱ぐのをためらっていたのか。

 こんな街中で姿を見られた時には、まず間違いなく生きてこの街を出ることは難しいだろうからな。


 そうまでして、この異世界人を元の世界に戻したいのか。

 疑問はあるが、まあ異世界人が減ればその分、襲われる側としては楽になるだろうから理屈は通っているな。


 そんな俺の反応を見てか、尻尾をぱたぱたと振りながら笑顔を向けてくる。


「うん。やっぱり君は私のことを見ても、襲いかかって来たりはしないんだね。それで、君の言う通りに脱いだわけだけど、これでやってもらえるのかな?」


 どうも言葉の端から、俺について知っているフシがあるようだが……。

 まあ姿も見せたし、あの軽装なら武器も持ってなさそうだから、とりあえずはいいだろう。


「わかった。準備をするから異世界人のあんたはこっちに来て、手を出してくれ」


「助かる!」


 男が近づいてくると、言った通りに手を差し出してくる。

 俺はそれを握手をする形で手を取って、異世界送還の準備を行う。

 すると空間転移と同じように、候補地が1つだけ頭の中に浮かんでくる。


「ニホンのトウキョウって所でいいのか?」


 その言葉に男の目が見開かれる。


「……! ああ、そこで頼む」


 転移させるのに特に問題は……ないな。


「よし、行けるみたいだぞ」


「これで戻れるんだな……じゃあこれを」


 男は約束通りに、袋ごと金を取り出して俺に渡してくる。

 それを受け取って、男に最後の確認を取る。


「確かに。俺が転移を発動させたら、もうこっちには戻ってこれないと思うが、本当に送っていいんだな?」


「ああ、もうこの世界に未練はないし問題ない。あんたには感謝している」


「わかった。それならいくぞ」


 俺は異世界送還を発動させて手を離すと、男の足元に白い魔法陣が浮かび上がって、男が光に包まれていく。


「おお、これはこの世界に来た時と同じ……! この事を教えてくれた、そっちの人も本当にありがーー」


 全身が光に飲まれて、次の瞬間には男の姿が部屋の中から消えていた。

 そうして、


「なんだこれ……」


 男が消えた場所に、金色の淡い光の集合体と白い大きな光の塊が浮いていた。

 金色の淡い光の方は見覚えがあるな。


 魔物や亜人を倒した後に出現する、異世界人が経験値と呼びだしてから世間一般に広まったものに似ている。


 異世界人が出現し始める以前は力の元なんて呼ばれていたよな。

 由来は確か、これを集めることで魔力や身体能力の強化が行われるからだったか。


 それはいいが、もう片方の白い大きな光の塊は初めて見るな。

 これは一体なんだろうか?


 そう思っていると、その2種類の光が俺の方向に向かってきて、そのまま体の中へと入って来てしまう。


 金色の方はやはり経験値のようで、力を増したのがわかった。

 同時に、経験値と一緒に入ってきた、白い方の光が何なのかを理解する。

 これはスキルだ。


 得たのは『育成』スキル。

 自分で得た経験値やスキルを他のものに譲渡できるというもの。

 これは確か、さっき元の世界に送った異世界人が持っていたのと同じものだよな?


「むふふー」


 すると、黙って異世界送還を見ていた亜人の女の子がニンマリとした顔で、そう声を上げ、その背後からは左右に揺れている尻尾が見える。


「スキルも増えて、うまく行ったみたいだねっ。……そこで私からもお願いがあるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」


 ーースキルも増えて、うまく行った。

 つまりは何が起きたのか理解している上、ここまで想定内というように聞こえるな。


 こうなった理由はわからないが、金を得た上にスキルも経験値も習得できて俺に損はない。

 しかし、一体なにを企んでいるんだ?


「とりあえず、話は聞こうか」


 その言葉にうんうんと元気に頷いてから、亜人の彼女はまさかの言葉を口に出した。


「それで、私のお願いっていうのはね。君、リアに私たち亜人や魔物が安全に暮らせる世界を作って貰いたいんだ」

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