表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

29話 ユウトとマサトの災難3

 その後、俺たちが一神三徒教の施設を出ると、久しぶりにデュオの街並みを見る事になった。


「おおー、懐かしー」


「ずっと雑居房の中だったしな」


「ああ、本当に俺たちを再召喚してくれたーー」


 するとそのマサトの言葉の途中で割り込むようにして、俺たちに話しかけてくるやつがいた。


「あれ、お前らって確か勇者パーティーのユウトとマサトだよな? 確か魔王城で消されたって話じゃ……」


 こいつの事は知らないが、俺たちは冒険者の中じゃ有名だから、まあ知られていても不思議ではない。

 そのモブ冒険者の言葉にマサトが答える。


「ああ、一度消されたが戻ってきてやったぜ」


「魔王城にいる敵の強さは把握したから次は大丈夫だ」


「へー、って事は他の消されたやつも戻って来れるのかもしれないのか。……ん? 消されたのに戻ってきたってどういう……?」


 何やら考えているようだが、説明が面倒だな。

 こいつの話にでも持っていけばいいか。


「それで、あんたは神殿に用事か?」


「そうそう。そうだった、今日ようやく順番が回ってきてな。衛兵からの伝言で、転移系統が使えるのと上位魔法使いの異世界人を呼ぶから神殿に来るように言われたんだよ」


 それは残念だな。

 どうやら俺たちが変わりに来たみたいだから、そいつらは来ないぞ。

 ついでだし、こいつから何か情報を得られればいいが。


「それは良かったな。ところで、俺たちがいない間に何か変わったことはあったか?」


「敵の目撃情報とかな!」


「敵か、いるにはいるんだが」


 お?

 あまり期待しないで聞いたが、まさかの当たりか。


「どこだ?」


 俺は装備と一緒に手に入れた地図を取り出して、モブ冒険者に見せる。


「えっと、ここから少し遠いけど、北東に行ったここの森の奥地……確かこの辺りのはずだ。上空からの映像じゃ確認できなかったのに、そこにオークの里が隠されてたんだ」


 おいおい、当たりどころか大当たりじゃないか。

 これは急ぐべきか。


 ……ハヤク、イコ、ダレカニトラレルマエニ、ハヤク、イコ!

 そうだな善は急げとも言うしな。


「オークの里か! それなら今の俺達でも行けるな。いいことを聞いた。さっさと行こうぜユウト!」


「ああ、まずは経験値稼ぎだ」


「あっ、おいちょーー」


 何やら焦っている様子だったが、大方俺たちがサンドバッグどもを全部狩り尽くしてしまうとでも思ったのだろう。

 まあ、その通りなんだが。


 少し遠いが軍資金も一神三徒教からもらった事だし、さっさと準備をして向かうとするか。

 里なら相当稼げそうだし、今までの鬱憤を晴らすのにも十分な数のサンドバッグがいそうで、実に楽しみだ。




 情報を元に森に入った俺とマサトは、モブ冒険者に聞いた辺りの場所に来ていた。

 それからマサトと共に、少し離れた状態で探索範囲を広めて探したところ、本当にオークの里が見つかった。


「うおお、滅茶苦茶いるじゃん!」


「今はあまり騒ぐなよ。様子を見てるんだから」


「わかってるって!」


 それにしても、あのオークの里を覆っている赤い半透明の膜はなんだろうか。

 まさか、あれのせいで空から探せなかったのか?


「あの赤いやつがもしかして空からの目をごまかしてたのかな」


「あー、なるほど。ユウトは相変わらず頭いいよな」


 いや、そうと決まったわけじゃないんだが、まあ他に考えられないしな。

 形状から見たら結界に見えなくもないけど、あんな色の結界は見たこと無いからな。


「じゃあ、さっそく行こうぜ。……おらおら、オーク共! お前らこんな所に集まってやがったんだなー!」


 あっ、マサトが先に行きやがった。

 まあオーク程度ならなんとでもなるか。


 マサトに追いつくと、里の奥からわらわらとオーク共が集まってくるのが見える。

 おいおい、どれだけいるんだよ。

 これだけいるなら、1匹をちまちま痛めつけなくて済むどころか狩り放題じゃないか。


 そんな中、俺たちを見た1匹のオークが腰を抜かして、震えた様子で俺たちを指さしている。

 サンドバッグが生意気にもだ。

 決めた、まずはあれからだ。


「あ、ああああ! あの2人の人間はあの時の!」


 あ? サンドバッグに知り合いは居ないが……ああ、前にボコった時にいた他のサンドバッグかな、もしかして。

 ……なんだ、やっぱりあの偽善者タクシー君は魔王軍のやつらを逃していたのか。


 じゃないと俺はあいつらを逃した覚えもないから、俺の事を知っているサンドバッグがいるわけないし、それだと説明つくからね。


 ん? なにやら腰を抜かした奴にそれぞれ大小サイズの2つのサンドバッグが話しかけてる?

 ……と思ってたら、その2つがこっちに向かって来たな。


「お、やる気か……なんだこれ、硬えぞ」


 するとマサトが相手をしようとしたらしく前に出るが、一応警戒してなのか赤い半透明の膜に武器で触れるとガンガンと固いものをぶつけるような音が聞こえてくる。

 あれ、視覚阻害の何かじゃなくて、赤い……結界なのか?


「おらっ! ……痛ってぇ、ヒビすら入らないぞこれ?」


 どうなっている。

 あのマサトが思いっきり殴ったというのに、ヒビの1つも入らない?

 魔王城の扉ですら1人でこじ開けたマサトがか?


 疑問を抱いていると、こっちに歩いて来ていた大小2つのサンドバッグが赤い半透明の膜の前に立つ。

 すると、その正面が消えるようにして穴が開くと、そこからサンドバッグ共が出てきた。


 そのうちの、なにやら体に対して大きすぎる棍棒を持ったチビの方が今にも襲いかかってきそうだが、それをデカい方が手で制している。

 マサトも得体の知れないものを感じ取ったのか、俺のそばまで戻ってきた。


「なあユウト、なんだかおかしくないか?」


「ああ、俺もそう思っていたところだ」


 嫌な予感がしつつも、俺とマサトが武器を構えた時だった。


「一応訊くが。人間、ここに何をしにやって来た? 少なくとも、詫びを入れに来たという訳ではなさそうだが」


 俺たちが武器を構えているのを見たデカい方が、そう話しかけてきた。

 警戒した俺たちが反応しないでいると、再びデカい方が口を開く。


「なんだ、言葉のわからない猿だったか」


「あ?」


 その挑発を聞いた瞬間、マサトが声で威圧しながら前に出る。

 が、そこで俺は信じられない光景を見た。

 デカいのが動いたと思ったらその場から消えて、気づけばマサトを地面に押し付けていた。

 そして、その直後にマサトが声を上げる。


「は? 何っで……」


 いや、そんな事よりも……勇者である俺が、その速さを目で追えないだと?


「どうやら人間たちが学習せずに、またやられに来たようだ。もう片方は約束通り任せるぞ、ブレブ」


「うん。父ぢゃんの分まで、俺があの人間から母ぢゃんとみんなを守るんだ!」


 その瞬間、チビの方が急にでかくなった。

 は? 意味がわからない。

 それに、またやられにだって?


 そんな事よりも、チビだったやつがこっちにやって来る。

 逃げ……いや、あり得ないだろ。


 ……ユウシャハニゲナイ。

 そうだ、勇者である俺がオークから逃げる?


 ……あいつらは俺の経験値だ。

 多分マサトをやったあいつが化け物みたいに強いだけだろう。

 どうやらマサトを抑えてこっちには手を出さないみたいだし、いくらなんでもこいつなら行けるだろ。


「マサト、ちょっと待ってろ」


「ああ……」


 ……イマダ、メノマエノヤツヲブッコロセ!

 ああ、もちろんさ。

 俺は剣を構えて、地面を蹴って一気にサンドバッグの後ろに……。


「え?」


 前と同じ感覚で攻撃しようとしたはずなのに、動きが鈍い!?

 鈍いどころじゃない。

 これじゃあまるで最初に異世界に来たばかりの頃の動きじゃないか。


「帰れ人間!」


 そう思ったのと同時に頭上に影がかかる。

 どうやら後ろに回るどころか、相手の攻撃が届く範囲に入って来てしまったらしい。


 さっきまで体のサイズに合っていなかった棍棒が今はちょうどいい大きさになったようで、それが片手で振られた事によって俺に迫ってきていた。


「あ……」


 しかし、気づいた時には遅かった。

 足を動かすが、思うように体が動かず避けられそうにない。

 すぐにその衝撃が脳天に走り、俺は地面に叩きつけられて、


「え? 弱ーー」


 そんな声が聞こえたと同時に意識がーー

 途切れたかと思ったら、目の前に棍棒を振りかぶっているオークの姿が。


「帰れ人間!」


「え?」


 そう声を上げたのと同時に頭上に影がかかる。


「は?」


 何が起こった? 俺はいつの間に立ち上がったんだ?

 混乱している頭に衝撃が走り、俺は地面に叩きつけられて、


「え? 弱ーー」


 意味がわからないうちに意識がーー


「帰れ人間!」


「はっ!」


 気がついた瞬間、頭上に影がかかる。


「待て待て待て!」


 その願いは叶わず衝撃が脳天に走り、俺は地面に叩きつけられて、


「え? 弱ーー」


 俺をしつこく雑魚扱いしてくる声が聞こえた直後に意識がーー


 そうして同じシーンをひたすら繰り返す。

 何度も何度も。

 ……ぺったん。


 意味がわからない。

 どうしてこうなってしまったのか。

 ……ぺったん。


 考えろ、考えるんだ……あっ。

 ああ、まさかっ、そのまさかなのか!?

 ……ぺったん。


 俺が貰ったスキルで前と違う部分は致命傷を負うと傷を負う前の状態に戻る……。

 何で何で何で何で何で!

 ……ぺったん。


 どうみてもバグじゃないか、ふざけんな、ふざけんな!

 魔王や仮面のやつに復讐しないといけないのに、何でこんな!

 ……ぺったん。


 サンドバックも毎回毎回俺に向かって弱いって言うんじゃねぇえええ!

 あぁあああぁぁぁぁああああ!

 ……ぺったん……ぺったん……ぺったん。




 もうどれだけ繰り返してきたのかも分からなくなった。

 そうだよ、俺は弱かった。

 それでいいから誰か、誰か助けてくれよ……。

 ……ぺったん……ぺったん……ぺったん。




 ……びりびり……あかるくて……まっくら。




 ……ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒィー! ウマクイッタ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ