28話 ユウトとマサトの災難2
ーーぺったん……ぺったん……ぺったん……ぺったん。
ーーぺったん……ぺったん。
ーーぺったん。
俺が異世界から元の世界に戻ってきてしまってから、3週間ぐらいが過ぎた。
留置所に入って、ひたすら暇な時間と、取り調べの日々が続いている。
しかも、取り調べは難航していて進む気配がない。
やれ、あの凶器はどこで入手しただの、全身についていた血は誰のものだの。
馬鹿にされるのがオチだろうが、試しに異世界で入手したもので、血はスライムのものと、そう一度言ってみた事がある。
すると、案の定の反応だった。
それ以外に話せることもなかったため、ひたすら無駄なやり取りが続いていた。
おそらくは別の場所でマサトも同じような目にあっているんだろう。
そういえば、何故かは分からないが、俺が異世界に行っている間の、この世界での俺という存在は切り取ったかのように無くなっていた。
異世界に来る前に適当に捕まえた財布くんと共に3人で銀行に入ったはずが、異世界から戻ってきた時の剣と装備を着用した状態で銀行に入り、騒ぎを起こしたとそういう事になっていた。
意味がわからないし、考えても答えはでなさそうだから、余計なことは考えずにさっさと寝るか。
明日も早いしな。
そうしてすぐに、また次の日の朝が来た。
短い時間で朝の作業を一通りやった後の、点呼の時間。
「点呼用意!」
同室のやつらと腰を下ろす形で横に並び、いつものようにそれが始まる。
……ん?
そのはずなのに、いつまで経っても1人目のやつが番号を言わない。
何してんだ、早くしろ。
担当官にどやされるだろうが。
だが、そうなる気配もない。
ふと担当官の顔を見れば、その目が虚ろなものに変わっていて何も反応がない。
おかしいと思い、顔を傾けると両脇に並んでいるやつも同じだ。
誰もが死んだような目になっている。
確か、前にもこれと同じような事があったよな。
この世界に戻って、マサトが俺のすぐ近くに現れた時だ。
まさか、また誰かが異世界から戻ってくるのか?
もしくは……。
そうしてそれが起こった。
元の世界に戻ってきて、一気にどん底へと突き落とされた時に願ったおかげなのは知らないが、それが叶ったらしい。
俺の足元に黒い魔法陣が突如浮かび上がり、俺の体が黒い靄のようなものに包まれていく。
それを見て自然と笑いがこみ上げる。
「はっ、はははっ、あはははは。いいぞ! 今からコンティニューだ!」
そうして全身が黒に飲み込まれた次の瞬間。
前回の召喚時にも見た、薄暗い境目の見えない巨大な空間に移動していた。
「おかえりなさい勇者。2度目の召喚は初めてだったから、少し時間がかかってしまったの。ごめんなさいね」
現れたのは、長い白髪を床に付くほどに伸ばし、両目を黒の帯のようなもので覆っている女性。
1度目に来た時は声だけだったが、こんな姿をしていたのか。
「へえ、女神様はそんな姿をしていたんだ」
「……え? 私の姿が見えるの?」
「うん、前は見えなかったけど、今ははっきりと見えるかな」
「そう……。まあいいわ、すぐにあなたのお友達も連れてくるから少し待っててね」
それから、少しして人が現れた。
もちろんそれは、かつて一緒に異世界を冒険したマサトだった。
「おお……って、そこにいるのはもしかしてユウトか?」
「ああ、また俺たち一緒みたいだ。それにあれ見なよ」
「え? ほー、あれがもしかして女神……えっと、そうだアーリアか?」
「多分そ」
「アアァアアアアァァァァ!」
すると突然女神アーリアが甲高い声で絶叫し始めた。
「な、なんだ!?」
「うお!」
しばらく続いたその声だが、やがて収まると女神アーリアが口を開く。
「……あぁ、ごめんなさいね。ちょっとびっくりしてしまったの。それと勘違いしているようだけど、私はそんな名前の女神じゃないわよ」
「違うのか? 俺たちはてっきり……」
あの世界の女神と言えば、一神三徒教で崇められている女神アーリアだ。
それ以外は聞いたことがないから知らないし、前回ここに来た時は女神とだけ言ってたから、てっきりアーリアだと思っていたんだが。
「ああ。あの世界じゃ、その女神が崇められてたからな」
「確かにそうよね。基本的に私の姿は見えないはずなのだけれど、あなた達には見えているみたいだから名乗るわ。私の名前は女神オルタナ。ここにいる時はそう呼んでくれて構わないけど、有名な女神じゃなくて恥ずかしいから、あちらの世界では私の名前を口にしないでね」
女神オルタナか。
有名どころは女神アーリアだけど、そうじゃない女神もいたんだな。
「わかった。それで、女神オルタナ様。俺たちは2度目の異世界転移をされるってことでいいんだよな?」
「……そうだ。またあの世界に行けるのか!?」
「ええ、もちろん。この後きちんと神殿に送るわ。……でもその前に。あなたたち2人に少し訊きたい事があります」
よし、異世界転移確定だ。
それを聞いて俺とマサトは共にガッツポーズをする。
「おお! それに、女神様とお話か。前回とは違ってそれっぽくなってきたな!」
マサトが言うように、前回は簡単な説明とスキルを貰ったら、それであっさりと異世界に送られたからな。
「それで、訊きたい事とは何でしょうか」
「ええ。それはね、あなたたちが元の世界に送られた時の状況を知りたいの。もしかしたら私の方で対策できるかもしれないから」
それを聞いた瞬間、あの時のことが脳裏に浮かぶ。
魔王に、あの仮面のやつ。
すぐに魔王城へ向かいたいところだが、じっくりと準備してからだ。
「分かりました、それはですねーー」
そうして、あの時の状況を細かに女神オルタナに聞かせる。
あの屈辱的な状況は脳裏に焼き付いていたために、説明をするのにそう苦労はしなかった。
「ーー白の魔法陣の直後に元の世界に戻された。……そう、私が見えるのもそういう事だったのね。そちらの戦士様も同じだったのかしら?」
「ああ、だいたいユウトと同じだ女神様」
「わかったわ。少し待って頂戴」
女神オルタナはそう言って、祈るようなポーズで両手を合わせる。
すると、俺とマサトそれぞれの頭上に光が降りてきて、俺たちを包むようにして当たる。
「おお?」
「これは、新しいスキルか」
俺が新しく得たスキルは復活の幽者……。
「……ん?」
頭を振ってもう一度スキルの詳細を確かめてみる。
復活の勇者の加護とある。
なんだ、どうやら勘違いだったようだな。
「どしたユウト?」
「いや、何でもない。俺の方は復活の勇者の加護で、前と同じ能力に加えて、致命傷を負うと傷を負う前の状態に戻るみたいだ」
「へー、それいいな。俺のは復讐者だとさ。基本的には前の剛力と同じみたいだが、さらに倒した敵の数に比例して能力補正がかかるらしい」
どうやら、どちらも上位互換のスキルみたいだな。
そういえば前に魔王が俺の事を■■■■■って……あれ、なんだっけか。
確か勇者の加護は勇者に与えられる……そうだ、勇者に与えられる加護だから勇者の加護だ。
何を当たり前のことを考えているんだ俺は。
「気に入っていただけましたか? それともう一つ。先程聞いた話の対策に、今急いで作ったものです」
そうして、さらにさっきと同じように光が落ちてきて、スキルを追加でもらう。
何をもらったのか確認すると頭に浮かん出来たのは『&>QUの加護』というスキル名。
スキルの基本説明は異世界転移を阻害する、とある。
「なんかバグってるんだがこのスキル」
「俺のもだ」
「スキルには本来私の名前が入るのだけれどね。あなたたちの話から少し思うところがあって、念には念を入れて隠させてもらったのよ。効果はきちんと発動するから心配しないで」
まあこれで元の世界に戻されないって事だし、問題はないか。
あっちの世界に戻ったところで、前回と同じであるなら雑居房に逆戻りだし。
そう考えたら、もう元の世界には戻る必要もないな。
「そういうことであれば、助かります女神オルタナ様」
「感謝するぜ女神様!」
「いえいえ、女神として当然のことをしただけです。……ではそろそろ下界へ送りましょう。再びのあなた方の救世の旅に幸あらん事を」
女神オルタナがそう言った途端、足元に巨大な白い魔法陣が浮かび、そこから出る光が俺とマサトを飲み込んでいく。
そうして俺とマサトは再びの異世界にやって来た。
「ーーおお、やっと来た。なんか今回は召喚するのに時間がかかったな」
そんな声が聞こえて来て、すぐに光が失せると、俺たちが現れた先は見覚えのある建物の中だった。
「よく来いらっしゃいました異世界人、ここは」
「知ってる。一神三徒教が運営している神殿の中だろ」
「さっさと行こうぜユウト」
「あっ、ちょっと!」
もう2度目だし説明は必要ない。
俺とマサトはそのまま神殿の外へ出て、ある場所を目指す。
「ちょっと、待ってくださいよ!」
すると、さっき俺たちを出迎えていた一神三徒教の関係者が追いついてきた。
そういえば、一応目指しはしたけど、俺たちが異世界転移してきた時から結構時間が経ってるし、場所が変わってる可能性もあるか。
「ちょうどいいや。ねえそこの君、異世界人用に装備を見繕ってくれる所ってこっちだったよね」
「はい、そうですが。というよりも何故それを?」
「なんでもいいだろ」
ちょっとは察してくれないかな。
しかも、こっちが場所を聞いてるのに、俺たちを案内するよりも自分の疑問が優先なのかよ。
「それよりも、ついてくるんだったら案内してよ」
「あ、はい。案内いたしますね」
そうして、案内させた先で装備を勝手に見繕い、前と同じように鎧に篭手とブーツ、それに加えて俺は剣、マサトは鈍器を選択。
装備を終えたところで外へ向かう
「あ、あれ? あの、お2人はゲートと大魔法使いのスキルを持った異世界人でしたよね。それだとその装備は合わないかと……」
「いや違うが、俺は勇者でそっちは戦士」
「え?」
呆けた顔しているが、本当にこいつ察しが悪いよな。
そう思っていると、マサトが小さな声で聞いてくる。
「もしかして、割り込んだ感じか?」
「そうみたいだ」
ということは本来、この世界に来るはずだった2人の転移は無くなったてことか。
まあそのおかげで俺がこっちの世界に戻ってこれたし、感謝してやるか。