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23話 オークの村防衛戦3

 さて、ブレブも大丈夫そうだから次のオークはと。

 中央で戦っていたゴウガとブレブの右側遠方に目を向けると、既に冒険者たちが転がっていた。

 ああ、見る順番を間違えたか……。


 さっき光の柱で結界に向けて放たれた攻撃魔法をかき消したのはあいつらだったか。

 まあ終わってしまったものは仕方ない。

 もう片方は……まだやってるな。


 左側に向き直ると戦闘継続中のようだが、何やらあちらは冒険者の数が多く苦戦しているようだ。

 結界側を前衛の冒険者たちに陣取られていて、森の方からは魔法の集中砲火を浴びている様子。


 ゴウガとブレブはまだ目の前の冒険者を相手に忙しそうで手助けに行けなそうだし、右側の暇そうなオークをけしかけるついでに戦いを見させてもらうとするか。


「こちらは余裕でしたな兄者」


「そうだな弟よ」


 戦闘の終わった右側にいるオークに近づくと、そんな声が聞こえてきた。

 何やら辺りの地面が水浸しになっているが……。


「おや? 姿は見えませんがこの匂いはリア様が近くに?」


「確かに、リア様の匂いがするな」


 すると、どうやら正確な位置はわからないながらも、姿を隠している俺の存在に気づいたようだ。

 まさか『隠遁』を使っても匂いで近くにいるのがバレるとは……。


 人間相手だと問題なく隠れられているが、クロエといい、オークといい、思ったよりも隠遁は万能ではないみたいだな……。


 まあ、声の聞こえる範囲にいる冒険者は伸びているみたいだから、声を出しても問題はないか。


「ああ、今来たところなんだが、もう終わってしまったみたいだな」


「ええ、兄者が攻撃」


「弟が操作で」


「「華麗に勝利!」」


 そう言って兄弟オークがポーズを決める。

 そうだった、こいつらは最初に会った時もこんなんだったな……。


「そ、そうか。それで2人の活躍が見れてないのと、あっちが苦戦してるみたいだから手伝いに行ってくれ」


「あっち? ゴウガとブレブの方ですかな?」


「違うだろう弟よ。その奥だろう」


 そうだった、存在がバレてたから普通に話してたけど、指をさしても見えないから分からなかったな。


「すまん見えてなかったな。それで、こことは反対側がどうやら冒険者の数が多いみたいでな。特に魔法を連射されているせいか、身動きが取れないみたいだ」


「それは」


「大変」


「「我らで救援!」」


 そうして再び謎のポーズを行う兄弟オークに頭が痛くなってきた。


「いいから、早く行ってやれ……」


「そうですな。では森から攻めますので」


「リアさまは我らの勇姿を」


「「ご覧あれ!」」


 早く行けよ……。

 反応を返さないでいると、兄弟オークは互いに顔を見合わせて頷き合い、森の中へ進みだした。


 いちいち相手をしてたらいつまでも進まないと思ったからな。

 どうやら、それで正解だったようだ。


 兄弟オークを追う形で森の中に入ると、先程と同じように辺りが水浸しになっている。

 そこで魔法を唱えていただろう冒険者と見られる者たちが、背中を抑えて悶絶している様子だが……。


 何をしたのか訊こうと口を開きかけたが、またあのやりとりを聞くことになる未来しか見えないのでやめた。

 何が起きたかはすぐに分かるだろうしな。


 それから森の中を進むと、衝撃で杖を近くに落としたと見られる魔法使いが鎧を着た冒険者と共に寝かされているのが見えた。

 位置的に見て、ブレブが冒険者を投擲した先なんだろう。


 少々やりすぎ感は否めないが、まあ鎧を着た冒険者はともかくとして、魔法の規模からしても上級の魔法使いたちのようだし、見たところ問題は見られない。


「呼吸もしているし、死人は出てないな」


 あっ。

 つい声に出してしまった。


「そうですな」


「ブレブも頼もしくなった」


 んん?

 もしかして自分たちのことじゃなければ、あれはやらないのか。

 一安心しつつ、さらに先に進むと前方にかなりの数の魔法使いの姿がある。


 その姿を兄弟オークも捉えたのだろう。

 今度は勝手にやりだした。


「それでは」


「魅せます」


「「我らが妙技!」」


「横からオーク共が来たぞ! 火球放て!」


 案の定、冒険者たちが声を出した兄弟オークに気づいて火球を連打してきた。

 それにしても、こいつら森の中でも遠慮なく火を放つとか、何を考えているんだ……。


 そう思っていると、冒険者に相対するオークの兄弟のうち、多分兄だと思われる方が拳を構えて前に突き出す。


「兄の水拳(すいけん)!」


「ぎゃあ!」


 その言葉と共に拳の先から水柱が召喚されて、放たれた多数の火球がそこに吸い込まれるようにして消えていくと共に、魔法使いをその水量で押し出した。


 結果として、空を舞うことになった魔法使いはそこら中にそびえ立つ木の幹にぶつかって、地面に落ちると背中を押さえて悶絶し始める。

 だが殆どの魔法使いはその難を逃れて、更に魔法を準備し始めた事で大量の魔法陣が浮かび上がる。


「後ろに注意、弟の操作!」


「ぶへぁっ!」


 そう言って弟だろう方が腕を振り回すと、それに呼応するように水柱が曲がってこちらに返ってくる。

 それと同時に曲がった地点に、急な回転をしたせいなのか水がばら撒かれる。


 背後を取られたために、先程よりも多くの魔法使いが水柱に襲われて、今度は正面から木に叩きつけられていた。


「「これぞ我らが水龍なり!」」


 この動きと口上は鬱陶しいが、合わせ技なだけになかなかに強い気はする。

 おそらく最初に見た時に、辺りが水浸しだったり、悶絶した冒険者が転がっていたのはこれのせいだな。


 まず、兄オークには『魔法拳』のスキルを欲しがっていたので、それを譲渡した。

 文字通り、拳に魔法を乗せて打ち出すことの出来るものだが、見ている限りでは真っ直ぐにしか飛ばないようだ。


 今は水属性のものを使ったようだが、さっきの魔法使いの攻撃の弾幕をまとめて消し飛ばしたのは、多分光属性のものだよな。

 譲渡前にスキルの内容を確認した限りでは、適正さえあれば各属性が使えるとあったか。


「まだまだ」


「いくぞ」


「「お覚悟を!」」


 そして弟オークには、兄と同じく頼まれて『操作』のスキルを譲渡した。

 これを元々持っていた異世界人は、相手の動きを鈍らせる能力低下としての使い方をしていたが、弟オークは兄の魔法拳を有効活用する使い方を思いついたみたいだな。


 今も真っ直ぐにしか飛ばないはずの魔法拳を生き物のように動かしている。

 その予想のつかない水龍と名付けていた魔法の奇天烈な動きで、立っている冒険者たちの数をみるみるうちに減らしていく。


 攻撃もでき、防御にも使える。

 2人合わせて、まさに攻防一体のものに仕上がったようだな。


 感心していたところ、ついに最後の1人が地面に沈む。

 兄弟オークはそれを確認して、それぞれ懐から小さな薬瓶を取り出すと、一気にその中身を口に流し込んでいた。

 あれは俺たちが魔王城から持ってきて、オークたちに渡した荷物の中に入っていた魔力回復薬だな。


 あれだけの威力があるからか、それなりに魔力消費も激しいみたいだ。

 ちなみに俺自身は異世界送還による消費よりも、その際に得る経験値による能力増加の方が大きかったせいか、今のところ魔力回復薬のお世話にはなっていない。


 さて、これでこの兄弟についても終わりでいいな。

 どの属性が使えるかは後で他のオークに聞けばいいよな。

 またあれが始まりそうだし……。


「2人ともおつかれ。後はブレブたちが苦戦しているようなら助けてやってくれ」


「我らが」


「活躍ーー」


 俺は姿が見えないのをいいことに、早口でそう言い終えるなり、さっさと森の中から抜け出ることにした。

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