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21話 オークの村防衛戦1

 ギルドで発行されたオークの村の殲滅依頼。

 それもついに当日となった今、相当な数の冒険者パーティーがオークの村に向かって来ている様子が確認できた。


 その数は、魔王城の時とは違ってオークの村ということで、オークを倒せる実力のある冒険者。

 要するに初心者を除いた、デュオにいる多数の冒険者がこぞって集まったようで、少なく見ても100人以上の冒険者たちがオークの村へと迫ってきていた。


 俺とクロエは魔王城の解析室で、オークの村が隠されている森に冒険者たちが侵入したのを確認してから、村の中央付近にある集会所へと転移を行った。

 飛んだ先は転移地点として他の者の侵入を禁止しておいたので、特に問題なく転移が完了する。


 視線の先には集会所の中央付近に、結界のための準備を済ませただろうスノーの姿があり、その周りには非戦闘員のオークたちが集まっていた。


「みんな、冒険者たちが来たみたいだよ!」


「結界の方、早速頼んだぞ」


 クロエと俺は、冒険者が森に入ったことをスノーに伝えるために1度集会所寄って、それからブレブたちの近くで戦闘を見守るという流れになっている。


「はい、任せて下さいね」


 そうして、スノーが村全体を覆うための結界を発動させるための、長文詠唱を開始した。


「1より始まりし全ての礎、ここから続きし血脈の道よ。2に繋ぐはーー」


 スノーが結界の詠唱を始めたところで、ブレブたちの居場所を確認しておかないとだ。


「なあ村長、ブレブたちはどこにいるんだ?」


 今日は基本的に、オークたちに任せて防衛戦を行うことになっているために、その辺りは一切聞いていない。

 村の防衛に関してはスノーに任せておけば問題なかったために、冒険者の撃退について、自分たちで解決できるかどうかという事に重点を置いたからだ。


 そこで、問題が出なければ同じように他の場所に関しても育成を行っていく。

 他に改善点が見つかった場合は、そこを修正しつつ、次に活かすことが出来るという訳だな。


「それでしたら、冒険者がこちらに向かってくると予想されている地点の、村と森の境界線の手前にある、一番外側にある建物の辺りに待機しているとの事です」


「わかった。そういうことみたいだからクロエ、さっそく向かうとしようか」


「うん」


 それからクロエと共に集会所の外に出て、すぐの事だった。


 集会所の天井から突き抜けるように、空に向かって細い光の線が伸びていった。

 それは空高くまで登った後、その先端から外側に光の膜を作るようにして、村を覆う形で広がっていく。

 そうして最終的に大きな半球となって、村を丸ごと包み込んだ。


「どうやらスノーが結界を完成させたみたいだな」


「これで自由に出入りできるね」


 ちなみに結界にはいくつか種類があって、それぞれ特徴がある。


 魔王城のように、マジックアイテムを使用して作り出されるものもその1つでるが。


 それに対して今回の結界は魔法によるもので、相手の侵入を拒む魔王城のものと比べると、魔法の盾としての役割のほうが強い。

 これは発動時に結界内部にいた対象であれば、以後は出入りが自由。

 結界は攻撃による損傷での破壊、もしくは任意での解除が可能となっている。


 そういうことで、これ以降は俺たちとオークは結界の内外問わずに自由に移動が出来るようになった。


「ああ。これであとはブレブたちの様子を確認するだけだな」


 それから俺達はブレブたちのいる、村と森の境界付近を訪れていた。

 すでに配置についているのであろうブレブは、その体に似合わない大きめの棍棒を抱えている。


 一方でゴウガは育成を行った時の体の変化で予想はできていたが、素手での戦闘のようで、見る限りでは武器は持っていないようだ。


「あ、リア兄ぢゃんたちだ!」


「やっほー2人とも」


「クロエ姫に、リア殿。本日はよろしく頼む」


 ここに来る前に仮面を被ってきていたのだが、どうやら匂いで正体が分かっているらしく、誰かと尋ねられる事なく名前を呼ばれる。


「ようブレブ、ゴウガ。よろしくといっても、俺とクロエはしばらく様子を見てるだけだけどな」


 しかし、それにしてもこの場所にはブレブとゴウガしかいないようだが。

 それを疑問に思って辺りを見回したところ、ここからそれぞれ左右の方向に位置している少し離れた場所に、ペアになっているオークの姿を発見する。


「それで、見たところ3つに分かれて戦う感じか」


「我々は数が少ないのでな。最低限相手を補い合うことのできる人数で対処を行うことにした」


「もう1人補助の子が居たよね。その子はどこにいるのかな?」


 クロエの言う通り、強化したのは全部で7人。

 となると、もう1人は別の場所か。


「あっぢにある家の屋根の上だよクロエお姉ぢゃん!」


 ブレブが指差す方向には弓を持ったオークの姿があり、結界の内側にある家を足場にして、高所からの援護を行うようだ。


「へー、確かに。あの場所なら3箇所まとめてカバーできそうだね! 私もあそこからみんなの様子を見てよっかなー」


「それはいいが、先に頼むぞ」


「あー、うん。それじゃリアお願いね。記録する目(レコード)


 クロエが俺の仮面に取り付けられた彩石に対して魔法をかける。

 防衛戦当日にオークの村に戦いを見に来ると言ったアギトさんに対して、クロエがそれを止めた際に出した交換条件がこれだ。


 これで俺が目を通して見た映像が彩石に記録されて、防衛戦が終わった後で魔王城にある玉座の間で映像が流される予定となっている。


「……これでよしっと! 後は出番まで後ろから見てるから、2人とも頑張ってねー」


「うん、がんばる!」


 ブレブの言葉の後でゴウガが会釈で返すと、クロエは着ていた外套のフードを目深にかぶり、弓を持ったオークのいる場所へと向かっていった。

 それを見送って、俺はブレブに最終確認をする。


「さてと、ゴウガはともかくとして、ブレブ」


「なに、兄ぢゃん」


「前にも言った通り、ブレブに与えたのは守るための力だ」


「うん」


「だから、殺すのは無しだ。それに、もし冒険者たちが逃げ出し始めたとしても、それを追うことはしない。約束できるな?」


 今回以降に関しても、その魔王軍のやり方は変わらない。

 詳しくは教えてもらっていないが、理由があってそれは遵守して欲しいとのことだ。

 時が来れば分かる、とだけ言っていたが……。


 しかし、その俺の問いにブレブは悩む様子を見せる。


「それは分かってるけど。でも、もし父ぢゃんを倒した人間が来たら我慢できるかな……」


 ユウトとマサトか……。

 まずこの2人が来ることはないが、どう言うべきか。

 それに俺の事も最初は覚えていなかったみたいだし、あいつらのことも分からないんじゃないのか。


「そいつらのこと覚えてるのか?」


「ううん。母ぢゃんは覚えてるみたいだけど、ボクは覚えてないよ」


 やっぱりか。

 それならば、騙すようで悪いが……。


「それなら、そいつらがいた場合は俺が教えるから、それ以外の冒険者たちに関してはさっきの事を約束してくれないか?」


「本当? ……そういえば、兄ぢゃんはその人間に仕方なく言うこと聞かされてたんだよね」


 ……あの母親、そんなことを吹き込んでいたのか。

 金のためにという言葉を付け足せば、その通りではあるのだが。


「まあ、そうとも言える」


「うん、それなら約束するよ!」


 すると、どうやら分かってくれたようだ。

 あとはゴウガのフォローに期待しよう。


「それじゃあゴウガ、ブレブの事任せたからな」


「わかっている。もっとも、その必要はないとも思うがな」


 ブレブを見る限り、やる気は十分。

 最初に出会った時に見た、あの震えた姿を思えば違いは明らかだ。


「危なくなったら結界の中に戻るんだぞ」


「はーい」




 そんな会話から数分ほど経った後だろうか、冒険者たちが森の奥から姿を現す。


「ようやく来たか。俺は姿を消すが、近くで見ているからな」


「ああ」


「うん!」


 それを聞いた俺は『隠遁』のスキル効果を使って姿をくらませる。

 そうして森の先を見ていると、次第に冒険者の数が増えていく。


 うまくオークたちの目に入らないように移動をしてきているようだが、俺からは丸見えだ。

 それでも俺が手を出すことはしないが。


 そして、すぐにその時はやってくる。

 パーティー単位で散開した冒険者たちが準備を終えたのだろう。

 空に向かって一斉に魔法が放たれた。


 おそらくは結界の存在に気づいて、破壊を試みたと思われる。

 それらが結界に命中して轟音を響かせると、それを戦いの合図と言わんばかりに、冒険者たちが一斉に姿を現して、村に向かって押し寄せて来る。


 そうしてオークの村防衛戦が始まったのだった。

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