20話 発覚
オークたちの育成を行ってから数日が経った。
「お帰りリア。今日もおつかれさまー」
俺はというと、日課になった問題を起こす異世界人の襲撃、もとい異世界送還を行ってきたところだ。
外しておいた仮面と黒衣を放って、ベッドに腰を下ろす。
ちなみにここは解析室ではなく、俺の部屋なわけだが。
いつの間にかクロエが俺の部屋に入り浸るようになったのは、もう何も言うまい。
「ただいま」
そうして頭を差し出して来て、まだか、まだかと待ち構えているクロエの頭を撫でるというのも、日課の1つになっていた。
「わう〜」
魔王の娘がこれでいいのかと思いつつも、撫でるのはやめない。
これから用事ができたが、まだ時間はあるだろうから、急ぐ必要も無いか。
とりあえずは何人か集める必要があるから、それだけ訊いておくか。
「ところでスノーは今日、どこで何してるか分かるか?」
「んー。確かスノーなら訓練場で、訓練で怪我をした子の治療をしてくれてるはずだよ。なんで?」
「えーと、ちょっと待ってくれ」
スノーは魔王軍に入ることを保留といいつつも、色々と魔王城で手伝いを行っているようだ。
食事の手配に、掃除、他にも亜人や魔物の治療と、日々勤しんでいる。
それで今日は訓練場で面倒を見ていると。
そういった行動のおかげか、もうずいぶんと魔王城の人たちとも打ち解けて来ているようだ。
孤児院でも面倒見がよかったし、場所が変わってもスノーはスノーなんだな。
ああ、そういえば孤児院の件どうしようか。
金はともかくとして、スノーの無事を知らせるべきか。
知らせるにしても、どう説明するべきなのだろうか……。
まあ思いつきそうにないし、しばらくは保留か。
俺はそんな事を考えつつ、デュオで配布されていた紙を取り出すとクロエに見せる。
「あった。これだ、これ」
クロエはそれに目を通すと、顔を青くさせた。
「え? これってまずいんじゃあ……」
「確かにまずいかもだが、試すにはちょうどいいかもしれない」
「試すって……もしかして、オークたちがどれだけやれるかってこと?」
「そういうことだな。一応戻ってくる前にオークたちに事前に話を通してみたが、あいつらはやる気みたいだぞ」
ゴウガを始めとした7人の育成済みオークたち。
あれからオークたちは強くなった自分たちの力に慣れるため、集中訓練を行っているとのことだが、どうなっただろうか。
自信はあるようなので、その実力が実際に冒険者を退けることが可能かどうか、試すには今回の事はうってつけな訳だな。
「いつの間に……。それでも強化してないオークたちは危ないよ!」
「そのためのスノーだ。他のオークたちは結界の中だから、怪我をする心配もない」
「あ、それでスノーのこと訊いたんだね」
「そういうことだ。行けるにしろ、駄目にしろ、見極めた時点で俺も出ることにする。これなら冒険者への宣伝にも、もってこいだろ?」
そう言って、放っておいた仮面を拾ってクロエに見せる。
それで察したようで、うんうんと頷いて嬉しそうに尻尾を振る。
「わー。それならオークたちの実力も図れるし、私たちの目的も一緒にこなせるね! それに、リアが出るなら安心だよっ」
「このあとスノーと合流して、アギトさんにも報告をしておこう」
「はーい」
ーー遡ること20分ほど前。
魔王城に帰る前に、地上に暮らしている亜人や魔物の発見情報がないかと、デュオのギルドに寄ろうとした時のことだった。
なにやらギルドの前に人だかりができていて、やたらと騒がしい。
人の列とそこから発せられている声はギルドの中へと続いていて、どうやらギルドの中で何かが起きているようだが。
そこで俺はギルドの中に入ろうと人混みの後ろについて、そこにいる1人の冒険者に話を訊いてみることにした。
「なあそこのあんた。ギルドに人が集まっているが何かあったのか?」
「あん? なんだ知らずに来たのかよ。だが、あんた運がいいな! 稼ぎ時が来たぞ!」
「稼ぎ時ってダンジョンでか?」
稼ぎ時というと、ここ最近は聞かなかったダンジョンでの、魔物の大量発生とかだろうか。
だが、おかしいな。
それならクロエ経由で俺にもその事が知らされるはずだが。
「違う違う、聞いて驚け! なんとオークの里が見つかったらしいぞ!」
「なんだって?」
「聞き間違いじゃないぞ、オークの里だ!」
俺は里、実際は村だが、それが見つかってしまったことに対しての言葉だったが、どうやらこの冒険者は別の意味で取ったようだな。
まあ、都合がいいので訂正はしない。
ちなみに遠視や千里眼などのスキル由来の魔法には、魔王城にあった遠距離の魔法阻害と同系統のマジックアイテムで見た目を誤魔化している。
例えば周りが森であれば対象の住処も森に見えるといった擬態性能を持っていて、魔王城の物のように阻害先が何もないからこそ、その先になにかあると思わせないようにするためらしい。
同系統ということもあって、対になるマジックアイテムで効果の相殺が可能であり、魔王城侵攻の時に貰ったマジックアイテムで大丈夫との事で、俺は問題なく村の中に直接の転移が可能だったりする。
そういう事で、今まではそれらが見つかること無くやり過ごせていた。
だから、人に見つかるなんて事はほとんどないのだが……。
もちろん地上にいる魔王軍の住処が知られていない事は冒険者も分かっている。
それで、その事実に確信を持たせるために言い直して来たのだろう。
「ちなみに、どういう経緯で見つかったんだ?」
「ああ。なんでも森でオークの子供を見た冒険者がいてな、それをギルドに報告したらしいんだが」
そのおかげで初心者研修が開かれて、ブレブがあんな目にあったわけだな。
しかも、話はそれで終わりではなかったらしい。
「オークの子供単体なんて珍しいだろ? それを疑問に思った冒険者はもう一度森に戻って、子供が歩いてきた方向に向かってみたんだよ。そうしたらどうだ? 森の奥にオークの里があったんだよ!」
なるほどな、経緯はわかった。
それにしても、こいつやけに詳しいな。
「なんかやたらと詳しいが、そいつは知り合いか何かか?」
「知り合いも何も、その冒険者っていうのは俺の事だからな!」
お前かよ……。
通りで詳しいわけだ。
というかブレブがあんな目にあったのも、オークの村が見つかったのもお前のせいか。
そうして、ようやくギルドの入り口のところまで来た俺たちは、人混みに押されて体が接触した。
そこで異世界送還を準備してみたが、移動先がでない。
残念ながら異世界人ではないようだが、顔は覚えたぞ。
中へと入ると、ギルドの職員が忙しそうに訪れた冒険者たちに手持ちの用紙を次々と渡していく姿が見える。
おそらくは、あれがオークの村をどうにかする依頼書なのだろう。
「あれみたいだな。取りに行こうぜ」
「ああ」
ギルド内に続く人の波に乗って進んでいくと、すぐにギルドの職員のところへたどり着いて用紙を受け取る。
やはり依頼書だったようで、そこにはこう書かれている。
「オークの村の殲滅、実行日は今から3日後か」
「これは準備をしっかりしておかないとな! あんたも行くんだろ?」
その冒険者の問いに、俺は首を横に振る。
「いや、残念ながらこの日は予定があってな。俺の分まで存分に稼いできてくれ」
「マジかよ、さっき運がいいって言ったが、どうやら間違いだったようだな」
「そうだな」
運は関係ないが、情報収集はして正解だったな。
とりあえずはオークの村の連中に連絡しておくとして、あとは期日までにあいつらがどれだけ力に慣れることが出来るかによるだろうな。
「まあ頑張れよ。俺はもう行く」
「そうか、まあ、今度美味しい話があれば俺が教えてやるからよ!」
俺は片手を上げて返事として、ギルドの出口へと向かう。
「……そういえば。あいつ、オークの村って言ってた気がするが。まあ、言い間違えだよな」
背後からそんな声が聞こえてきたが、細かいところによく気がつくやつだな。
そういう性格だからオークの村を見つけたのかも知れないが、今回は有効活用させてもらうとするかーー
こうしてオークの村が冒険者たちに見つかった事を知る事になった。
あれから、俺とクロエはスノーと合流した後、魔王城の玉座の間にてアギトさんを交えて、デュオで知り得た話と今後の対応について話していた。
「ーーなるほど、話はわかった。そういうことであればスノー嬢の外出も許可しよう」
「ありがとうございます、魔王様」
それを聞いて、スノーがお辞儀をして言葉を返す。
日頃の行いもあってか、かなり信用されているみたいだな。
「なに、聖女の結界にも興味があったのでな。私も直に見たかったところではあるが……」
アギトさんは横目にクロエを見ていたが、
「駄目だからね。ま・お・う様!」
「分かっておる。だから妥協したではないか!」
初めての事だからと、自分も見に行くと言ったアギトさんだったが、クロエに魔王なんだから魔王城で魔王らしくしてなさいと止められていた。
どうやら別の手段で戦いを見るようだが、実力はともかくとして、娘であるクロエには強く出れないみたいだな。
「絶対だからねー!」
「ええい、しつこいぞ! それではリア殿」
そうして、アギトさんはクロエとの話を強引に終わらせようとしたのか、俺の方へと向き直って、締めの言葉を口にした。
「オークの村防衛戦、楽しみにしているからな!」