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2話 追放と新たな出会い1

 ギルドに行き、オーク討伐の報告を済ませた後で約束の酒場に到着すると、中には既にユウトとマサトに、スノーの姿があった。

 すると、同じタイミングでユウトもこっちに気づいたようだ。


「リア、こっちだぞ」


 そうして席に近づいていく途中で、知らない顔が1人増えていることに気づく。

 その女性は、何故か申し訳無さそうな顔で俺の顔を見て来ているが。


「リア……」


 声をかけてきたのは、何やら浮かない顔をしているスノーだ。

 何かあったのだろうか?

 考えられるのは、この新顔の女性と何か関係がありそうだという事あたりだが。


「待たせたな……って、その人は誰なんだ?」


 ユウトとマサトはそんな俺の反応を見て、ニヤニヤと嫌な笑いをし始める。


「リア、俺たちにとって嬉しいニュースだ。この人のおかげで、ついに魔王城に攻めることが出来るぞ!」


「へえ。ということは、特殊なスキルを持った人か」


 現状、人間以外の魔物と亜人をあわせた、通称魔王軍との戦いはかなりの優勢な割に、魔王城には攻めあぐねていた。


 その理由は、各地のダンジョンにある結界装置を同時期に解除しなければいけないというのもあるが、最たる理由は、単純にそれが空中にあるからという一点に尽きる。


 一度、飛行系のスキル持ちを集めて試したみたいだが、上空からの砲撃でもれなく撃ち落とされて終わるという結果になった。


 どうやらそれが解消されたみたいだが、その知らせの割に集まっているメンバーの反応がそれぞれ違っている。

 共通しているのは全員が俺をやたらと見てくるという所だが。


「そうそう。召喚の注文してから思ったよりも早かったよな」


 召喚の注文?

 マサトの言葉からして、最近現れたこちらの要望に近いスキルを持った異世界人を召喚できる、『指定召喚』を神殿に頼んだという事だよな。

 そんな話、俺は聞いてないんだが……。


「どういうことなんだ?」


「いやあ。リアの転移は自分か触った相手の行ったことのある場所にしか飛べないから、魔王城には飛べないって話だったじゃん」


 マサトの言う通り、俺の転移はそういう条件があるから一度は自分の足で向かうか、相手に許可を得て一緒に転移をすることで転移先を登録できるが。


 さっきの視線といい、俺の転移についての話といい、何だか嫌な感じがしてきたな……。


「そこで俺様、思いついちゃったんだよ。それなら別の方法で転移できるやつを探せばいいじゃん、ってな!」


 マサトがユウトに視線を送って、再びニヤニヤとした表情でこちらを見てくる。

 なるほど、そういう事か……。


 今の話でこれから何を言われるか、大体理解した。

 だが、俺の思い過ごしという事もありえるし、一応は最後まで聞くとするか。


 それからユウトが立ち上がって、俺の肩に手を軽めにポンと置く。


「それでマサトと俺で『指定召喚』の注文をしたところ、千里眼で見える場所なら自由に転移できる、複合スキル『千里眼テレポート』持ちのチサトさんが来てくれた、という訳さ」


 どうやら新しくパーティーに入る、いま俺に向かってペコリと軽く頭を下げた女性。

 この人はチサトさんというらしい。


 ……まあ、俺にはもう関係ない話だろうがな。

 スノーと新しく入るチサトさんという人の様子、俺のスキルを話題に上げた理由からして、俺の思い過ごしという事にはならなそうだな……。


「俺らを異世界召喚の第一世代とするなら、指定召喚で召喚されたチサトさんは第二世代! これからはどんどん便利なスキル持ちが増えて、リアみたいな現地人スキル持ちは、もう化石みたいな感じになるな!」


 そのマサトの言葉に続いて、ユウトが決定的な一言を俺に告げる。


「まあ、つまりはさ。リア、今日でお別れだ」


 もう用済みとばかりに、あっさりと軽い感じで、その声が俺の耳へと入ってきた。

 続けてマサトが馬鹿にしたような顔を向けてくる。


「今までアッシー君お疲れ〜、後はユウトと俺で魔王やっつけとくから、安心して路頭に迷ってくれ」


 どうやらユウトとマサトにとって、俺はとりかえの効く駒としか思われていなかったみたいだな。

 敵を執拗にいたぶる2人の性格からして、そんな感じはしていたが。


 だけど、勇者パーティーを追い出されたからといって、次のパーティーを探すのに問題はないだろう。

 転移スキル持ちは、引く手あまただ。

 マサトの言うように路頭に迷うなんて事はまず無い。


 こいつら自身ははっきり言って嫌いだったし、スノーをパーティーに残していくのは気がかりだが、こうなってしまった以上は仕方がない。


「……まあ、そういうことなら次のパーティーを探すさ」


「いやいやいやいや。だから無理なんだって!」


 無理とは、どういうことだろうか。

 何をもって無理だと言うのか。


「何でだ? すぐに見つかると思うが」


「あのな、話聞いてた? 『千里眼テレポート』みたいなのは珍しいかもだけど、リアの転移みたいなのに追加で効果が付いたスキル持ちは、俺らが他の奴らに教えて回ったから、予約が殺到してるんだよ」


「だからもう、リアをパーティーに入れてくれる人はいないだろうね。良くても短期でおさらばって感じじゃない?」


 マサトとユウトが順番にそう言った後で、ゲラゲラと不快な笑いを酒場内に響かせる。

 おいおい、冗談だろ?


「なんだその顔、嘘だと思うなら聞いてみるか? ……おーい! ここにいるやつで、転移スキル持ちのリアをパーティーに入れてくれるとこあるかー?」


 マサトの声に一瞬だけ酒場内が静かになるが、誰もそれに答えずに再び店内が騒がしくなる。

 少し前まではこちらから声をかけずとも、他パーティーへの引き抜きの勧誘とかも結構あったんだけどな……。


 声がかからないという事から、どうやら悪い冗談ではなさそうだ。

 冗談どころか最悪に近いが。


 それを確認できたところでマサトが俺を見てくる。


「ほらな、誰もいないだろ?」


「そういうことだから。あ、そうそう。最後にリアとは2人で話がしたいんだけど、いいか?」


 ユウトに逃さないとばかりに肩を組まれて、酒場の外へ行くよう促される。


「……ああ」


 すると、終始黙っていたスノーが椅子を引きずるように音を立てて、立ち上がると俺を見てくる。


「あの、リア……」


 その顔はなんて声をかけていいのか分からない、そんな表情をしていた。

 幼馴染だからな。声に出さなくても、そのぐらいは顔を見ればわかるさ。


 スノーには負担をかけることになるだろうから、それは本当に済まないと思う。


「孤児院のみんなに謝っておいてくれ。俺はみんなにあわせる顔がないから……」


「そんなことは! ……いえ、分かりました」


 俺が言葉の途中で手で制すると、スノーは目を伏せがちにそう言ってくれた。

 そうして俺は、勇者パーティーから追い出されることになった。




 酒場の裏でユウトと話した後、砂埃を付けられた事によって汚れた服を気にすることもなく、途方に暮れながら暗くなった街の中をさまよっていた。


 あの後すぐにギルドへ行ってパーティー募集がないか見に行ったが、見事に全滅。

 ユウトに言われたように、予約中の上位の転移持ちが来るまでの間の加入なら、というパーティーもあったが、保留ということにしておいた。


 本当にどうしたものか……。

 一時的にはそれで食っていけるかもしれないが、その先はないだろう。

 今さら孤児院に顔を出してお世話になる、なんて訳にもいかない。


 いっそのこと1人で冒険者を続けるということも考えたが、どう考えても厳しいだろうな。


 離れた所から、転移で高所から敵を落とすなんてことが本当にできれば、まだそれもありだったのだろうが。


 実際には高所への転移なんて無理だし、崖の近くに転移して突き落とすにしても、地の力が足りずに逆に突き落とされるだろう。

 まあ、その場合は転移でなんとかなるから死ぬ心配はないが。


 それに酒場裏で聞いたユウトの言葉。

 俺の力じゃユウトには敵わないが、最悪事が済んだ後に転移でスノーを連れて逃げてしまおうか……。


 答えが出ずに途方に暮れていると、石畳の地面を鳴らす足音が複数聞こえてくる。

 そうして、そこでようやく自分が暗い路地の中を歩いていたことに気づく。

 ずいぶんと人の少ないところまで歩いてきてしまっていたらしい。


 どうやら足音はこちらに近づいて来ている様子だが。

 足音の先を注視していると、すぐにその音を鳴らしていた原因が姿を現す。

 それはフードのついた外套をまとった2人組。


 2人組は光る目をこちらに向けて、少し離れた所で足を止めた。


 ……なんだ、こいつらは。

 顔を見ようとしたが、フードの下は暗闇に紛れて確認できない。


 こんな人気のない場所で、俺の目の前で足を止める理由……まさか、物盗りか?

 だが、こっちには転移がある。

 怪しい動きを見せたのなら、すぐに移動してしまえばいい。


 警戒をしていると、2人組の片方がふぅーっと息を吐いてから、こちらに話しかけてきた。


「ねえねえ、そこの魔物や亜人を助けている、優しい転移使いの君にお願いがあるんだけどいいかな?」


 声からして2人組のうちの1人は女性のようだが。

 どうやら物取りの線は消えたが、それよりも悪いかもしれない。


 スノー以外には誰にも知られていないと思っていた魔王軍を逃がす行為。

 それを知った上で、狙って声をかけてきたわけだからな。

 警戒度はこちらのほうが上になる。


「内容にもよるが、それ以上近づかずに話すんだ。もし近づいた場合、話は無しだ」


「わかったよ。それじゃあ用件を話すねー」


 外套を着た2人組は顔を見合わせると、話しかけて来た方とは別の人物が、外套のフードから顔を出す。

 暗闇の中に薄っすらとだが、男の顔が見える。


「それはね。この異世界人を君の転移のスキルを使って、元の世界に戻してあげて欲しいんだよ」

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