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19話 オークの育成4

「「「オオー!」」」


 すると、俺たちを見るなりオークたちが歓声をあげた。

 おそらく、すぐ外にある扉のところでブレブが騒いだのが聞こえたのだろう。


 歓声の中に混じって、よくブレブを連れ戻してくれた!

 さすが!

 なんて声も聞こえてきた。


 俺たちはその歓声を浴びつつも、オークたちの前までやってくると、その声もやんで静かになる。

 そうなったところで、老齢のオークが静かになったオークたちに呼びかけた。


「皆の者。先程、外からブレブの声が聞こえた通り、この御三方によってブレブが無事に連れ戻された事は周知の事だろう」


 すると何を思ったのか、そこでクロエが村長に近づいていき、その肩をつつく。

 それによって村長の言葉が中断される。


「おや、クロエさま。どうかいたしましたか?」


「えっとねー」


 そうして村長に耳打ちして、何かを吹き込んでいる様子。


「な、なんと!」


 それからすぐに驚きの言葉をあげた村長がオークたちに向けて、おそらくクロエに聞いただろう内容を伝えだした。


「皆の者、信じられないかもしれないが聞いて欲しい。実はリアさまが助けに入った時にはブレブは重傷を負っていたそうだ」


 途端にオークたちがざわめき出すが、それに構わず村長が言葉を続ける。


「しかしだな。そちらの方は聖女様で、奇跡を起こしてブレブを死の縁から救ったのだという」


 どうやらさっきの耳打ちでスノーがブレブを救った事を教えたようだ。


「聖女といえば、魔王城にて魔王様が捕虜にしたと、この前の映像で言っていたが……」


「まさか、我々の味方を?」


 そんな風に、魔王軍加入の外堀が埋められていく様子に、スノーが困り顔をクロエに向けているが、クロエはそっぽを向いてそれをごまかしている様子。


「クロエさまの話では、そのまさかのようであるぞ。つまり、ここにいる御三方がいたおかげでブレブが元気な声を皆に届けられたという事になる。……皆様方には本当に、本当に感謝を申し上げます」


 そう言って老齢のオークである村長が俺たちに向かって頭を下げてきた。

 すると、それに合わせて周りのオークたちが地面を一斉に踏み鳴らし始める。


 クロエがうんうんと頷いていることから、おそらくは人間で言う拍手みたいなものなんだろう。

 村長が頭を上げ、地面からの音も鳴り止むと、続けて村長が口を開く。


「さて、色々とお手数かけてしまったおかげで、クロエさま方がこちらに来られた理由をうかがっていなかったのですが、それについてお訊きしても? 確かリアさまが我々を強くするなどと仰っておりましたが、それと関係が?」


 確かに。

 俺とスノーについての紹介はしてもらったが、本題の方は話しそびれていたからな。


「うん。それじゃあ私から説明するねー」


 そうしてクロエからオークたちに、村に来た目的を話しだす。


「リアのことはさっき紹介したと思うけど、実はリアは転移の他にも育成ってスキルを持っていて、他の人を強く育てることができるの。そこで初めにこの村の人たちを強くするために、私たちが来たってわけ」


 それを聞いたオークたちがざわめきだした。


「静かにせい!」


 そこで、村長の一喝が飛び静かになる。

 それからオークたちが再び耳を傾けた始めたところでクロエが話を再開する。


「だけど、勘違いしないでほしいのは、強くするのはあくまで自衛のため。一部の異世界人みたいにその力で他の無害な者に危害を与えない、っていう魔王軍としてのモットーは変わらないから、そこは注意してね」


「はーい!」


 横から不意にそんな声が上がったが、声の主はブレブ。

 どうやらお説教も終わったようだ。

 ずいぶんと早い戻りだが、まあ説教も長ければいいという訳じゃないしな。


 それにブレブに一瞬で俺らのことを理解させただろう、あの母親だからな……。

 この短時間で理解させたのも頷ける。

 それに対して、父親の仇に関して説得できず、ブレブが村を飛び出したのは、それだけ根が深いということにもなりそうだが。


「ここからは実際に、みんなをこの場で強くしちゃうリアに代わるね」


「この場で? それは一体……」


 村長が疑問を口に出すと、静かに聞いていたオークたちもそれが気になったようで、その視線が俺に集中する。


「そうだな、先に言っておくと全員の強化は無理だ。そこで、予めクロエや魔王であるアギトさんと決めた強化対象は戦闘を行える者だ。そこでだ、今言った中で初めに強化されてもいいって勇敢なやつはいるか?」


 俺は試すような言い方で志願者を募ると、しばらくは誰からも反応がなかったが、やがて他のオーク達と比べて一回りは体の大きなオークが手を上げた。


「……俺がやろう」


「ならこっちに来てくれ」


 その言葉に従ってそのオークが立ち上がると、その大きな体が通れるように周りにいるオークたちが道を開ける。

 そうしてできた道を通ってこちらへやって来たオークに対して、俺は見上げる形で向き合う。


「名前は何ていうんだ?」


「名はゴウガ」


「リアさま。ちなみにこの者は村一番の戦士と言われている者ですぞ」


 ゴウガか。

 村長が言うにはこの村で一番強いやつみたいだが。


「ゴウガ。先に断っておくが、このスキルは初めて使う。本当に最初で良いんだな?」


「問題ない。俺は村長の言うように村一番の戦士などと呼ばれていて、そのために村の守りを任されている」


 俺の質問に対してゴウガはそう言うと、視線をブレブの方へと動かしてから、さらに言葉を続ける。


「だが、そのおかげで補給のために外に出て、犠牲になったブレブの父親のような者を守ることは叶わない。だから、せめて初めに名乗りを上げ、次にこれを行う者たちにこれは安全だと示してやりたいのだ」


 なるほどな。

 そこまで決心がついているのなら、俺がこれ以上なにかを言うのは野暮だな。


 ……それにしても、あの時ブレブ達オークに遭遇したのは、補給に来ていたからか。


「ゴウガについては了解した。それで少し聞きたいんだが、補給ってのは狩りも含まれているのか?」


「ああ。自然の実りや野生の獣を狩るというのがそれに当たる」


 ここからはブレブたち親子に聞こえないように声を落として、ゴウガに再びの質問をする。


「それなら、それにブレブが同行してたのはどういうことだ? そういう風習とかか?」


 すると、それを聞いたゴウガは一度目をつぶり、何かを考えるような様子で数秒過ぎた後、目を見開いてそれに答えた。


「それは狩りを教えるためだ。もちろんこれは、全員が教えを受けられるわけではない」


「つまりはそういう素質があるということだな」


「そうなるな」


 これでやることは決まった。

 後は本人次第だが、果たしてどうなるか。

 まあ、とりあえずはゴウガの強化を成功させるところからだ。


「ゴウガ、参考になった。早速お前の強化を始めるが、覚悟はいいな?」


「いつでもいい」


「そうか、わかった。クロエ、補助の方頼んだ」


「はーい、任せて。情報開示(リサーチ)……ん、こっちは準備できたよー」


 そうしてクロエの目の先に小さな魔法陣が浮かび上がる。

 あれは『解析』のスキルによって使用が可能な、調査の魔法。

 対象の能力を暴くことが出来るというもので、所持している本人ですら知り得ないスキルの詳細を知ることも可能だという、とんでもない魔法だ。


 クロエにはこの魔法で、強さの基準を図ってもらう。

 最低の基準でも、ユウトと同等の強さにまで引き上げる必要があるからな。


 俺はといえば、普通の手段でおよそ可能だとされている、人として到達できる強さは既に超えているようだが、魔王のアギトさんと比べるとまだまだのようだ。


 これからオークたちに力を振り分けるから弱体化はするが、人を相手にする分には影響はないだろう。

 何せ、ここに来るまでの間にこれから強化する人数以上の異世界人を、元の世界に送り返してきたからな。


『ちなみに筋力強化のスキルを持っているみたい』


 するとクロエが周りに聞こえないように追加で魔法を使ったらしく、唐突にテレパスで話しかけてきた。


 俺の転移みたいな、目視で分かるスキルは仕方ないが、能力に補正を行ってくれるスキルは基本的に秘匿される事が多い。

 その辺りに気を使って、こっそりと教えてきたのだろう。


『わかった』


 テレパスで返事をして、今度は口頭でゴウガに向けて合図を出す。


「よし、それじゃあ開始する」


 ゴウガに手のひらを向けて『育成』のスキル効果を発動させる。

 すると、俺の手のひらから金色の光の粒が発生して、それがゴウガに向かって流れていく。


「おお……これは……」


 それをゴウガも感じ取ったらしい。

 おそらく今は経験値を得た時のように、力がみなぎっていく感覚なんだろう。

 俺は逆に、体から力が吸い取られている感覚がしている訳だが。


 それから力を注ぎ続けてしばらくすると、ゴウガの体に変化が起こった。

 大きかった体が突然縮みだして、他のオークと同じぐらいのサイズになってしまう。


「あ、もう止めてもいいぐらいかも」


 そこでクロエがそう教えてくれたので、力の譲渡を中止する。

 さて、どうなったのか。


「クロエが止める直前で体が縮んだみたいだが……」


「うーん。私が解析で見た限りでは、勇者の加護を持った冒険者より強くなったはずなんだけど……」


「実際のところ、どうなんだゴウガ」


 本人に訊いてみるも、反応がない。

 なにか問題でもあったのだろうか?


「ゴウガ?」


「……む、申し訳ない。凄まじいまでの力の変化に戸惑っていただけだ」


「そうか。体は縮んだみたいだが問題はないか?」


「特に無い、むしろ可動域が広くなった。極めつけにはこれだ」


 ゴウガが腕を横に上げて、手を握りこぶしを作った時だった。

 細かった腕が突然膨れ上がり、巨大な鈍器のような腕と化している。


「うわー」


「腕が大きくなりましたね……」


 その様子をクロエとスノーが少々引き気味に見つめていた。


「俺の意志でこうなるようだ。ふふ、このあと訓練で力を試すのが楽しみだ」


 そうしてすぐに腕は元の大きさに戻る。

 どうやら、攻撃に特化して強くなったという事か?


「つまり成功、でいいんだな?」


「ああ、リア殿には多大なる感謝を。この力、皆を守るために使うと約束しよう」


 ゴウガが片膝をついて、俺に向かって頭を下げてながらそう言ってきた。

 それからは同じようにして、戦える者を順番に強化して行った。


 ここまででゴウガを含めて6人。

 少ないように思えるが、ユウトクラスが6人いると考えれば、よほどのことがない限り問題ないだろう。


 ちなみに、見張りはいざという時に戦える者の体力を温存するために、村の男手で持ち回りをしているということで、強化の対象には入っていない。


「むふー、これなら十分みんなを守れるよね!」


 クロエもオークたちの仕上がりに興奮気味のようだ。

 が、これで終わりにはしない。


「ああ、だけど最後にもう1人」


「え? ですが、もう戦士の方はいらっしゃらないと思うのですが……」


 これまでに勇者パーティーに数を減らされてきたせいで、戦士の数は激減。

 そのせいというか、おかげで数を絞って強化を行えた訳だが……。


 最後にもう1人、力はないが心に牙を持ったやつがいたからな。

 俺は横でこっちを見ていた1人のオークの方へ顔を向ける。

 それから、その小さなオークに向けて問いかける。


「ブレブ、みんなを守るための力が欲しいか?」

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