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11話 魔王城侵攻2

 それからしばらく進んでいき、これで5度目の戦闘。

 相手は石像の魔物ガーゴイル。

 今、翼が破壊されてしまい、もう間もなくの決着というところ。


「よし、次で終わ……またか」


 直後にガーゴイルが合図を出したところで、転移を発動させて救護部屋に送り飛ばす。


「だー! どうなってやがるんだ!」


 それを見送ることになったマサトが地団駄を踏み、ユウトがため息をつく。


「さすがに魔王城ともなると、一筋縄じゃ行かないって事かな?」


「ここまで1体も倒せてないよね」


「こちらに成果を上げさせずに、一方的に体力の消費をさせる。そんなところでしょうか……」


 スノーの言葉通りそれもあるが、実際は可能であるならば全員生き残るというのが魔王軍の目標だからだな。

 まあ、ミノタウロスみたいな戦闘狂はそのあたりの優先順位がおかしかったりもするのだが。


 魔王軍は悪と教えられてきた俺たちや、そういうものと理解している異世界人では、人よりも仲間意識が強いなんて、まず気づけないだろうな。


「だけど、ようやく何かありそうな場所にたどり着いたね」


「ガーゴイルといえば門番だからな。他にも結界があるみたいだし、扉の先はそれを守る中ボスか?」


 ガーゴイルが守っていた背後には金属製の巨大な扉があり、この先にはマサトの言う通りで、結界を解くための試練が存在している。


「扉、大きいねー」


「どうやって開けるのでしょうか……」


「ここは、俺に任せとけ!」


 マサトが武器をしまうと、腕を数回ほど回してから扉に手のひらを付けて押し出す形で踏ん張りだした。

 その見た目からは信じられないが、巨大な扉がゆっくりとだが音を立てて開き出す。


 これはおそらくマサトの所持している『剛力』のスキルのおかげだろう。

 力に特化してかなりの補正が入るもので、武器が鈍器なのもそれを活かすためと、前にマサトが話していたな。


「おー、開いた開いた」


「ふー。ま、俺にかかればこんなもんよ!」


「マサトくんは力持ちなんだねー」


「なになに。チサトちゃん、俺に惚れちゃった?」


 そんな事を言って、腕の筋肉を見せびらかすマサトに、チサトさんは困惑した様子だ。

 正直言ってスキルの補正が大きいせいか、他の冒険者ほど大して体は出来ていないように見えるが。


「えーと」


「早く行きましょう」


 それを見かねたからか、スノーが助け舟を出して、一行は扉の奥へと進んでいく。


「ちっ、邪魔しやがって。全部終わった後のお楽しみで絶対泣かせてやる」


 近くに居たから聞こえたが、マサトがそう小さくつぶやいてスノーを凝視していた。

 さて、最後に泣くのは果たして誰になるんだろうな?


 扉をくぐった先は、通路の数倍ほどの幅がある巨大な部屋があり、その奥には4つに別れた扉が存在している。

 部屋の中心には石版があり、そこまで移動したところでユウトが石版に書かれた内容を読み上げた。


「えっと、『魔王の玉座にたどり着きたければ、この先にある試練の間にて、4つの扉の奥で待つ強者と戦い勝利し、仕掛けを解除せよ』か、強者って書いてあるし、やっぱりボスかな」


「四天王とかだったりしてな」


「普通に出てくる敵も結構強めだし、ちょっと心配かも」


「頑張りましょうね」


 そしてこの先の戦い次第で、俺もようやく動き出すことが出来るようになる。

 俺にとっても、彼らにとっても、ここが勝負所になるだろう。


「それに『扉は一度通ると、全ての戦いが終わらない限り開くことはない』か。昔の勇者が攻略したまんまってことかな」


「そのための4パーティーだしな」


 それから各々のパーティー同士で話し合いを行って、それぞれどこの扉を通るか決めた様子だ。

 各パーティーはすぐに動き出し、補給や装備の確認をした後、扉へと入っていく。

 ユウトたちは右から2番目か。


 全ての冒険者が扉の奥に消えたのを見届けた後、俺は()()の転移を行う。

 そうしてユウトたちの行き先である部屋に、先回りする形でユウトたちが相手をする人物と共に、到着を待っていた。


「ふむ、アイテム無しで飛べるというのもなかなかに便利であるな」


 そう言った人物は黒い立派な尻尾を左右に1往復だけ振って、俺の転移で移動した感想をそう述べた。


「一度自分で足を運ばないと行くことができない、という条件がありますけどね」


「そうか。ところで、今度は本当に腕輪をクロエに贈ったそうだな?」


「お土産に欲しいと頼まれたので。スノー……幼馴染の状況について、教えてもらったということもあったので、そのお礼にプレゼントしましたね」


 それを聞いて、少し考える素振りを見せた後に、口を開く。


「とどのつまり、一方通行というわけであるな」


「え?」


「いや、こちらの話だ。どちらにしてもリア殿が我の認める強さになれば、の話であるからな。今話しても仕方のないことよ」


「そう、ですか」


 前も腕輪の話が出てたが、魔王軍にあるしきたりか何かだろうか。

 まあ今は教えてくれる気がないみたいだから訊き返すことはしないが、強さに関係がある話か?


「とりあえずは、これから始まる我と彼奴の戦いに巻き込まれて死ぬ、なんてことが無いようにな。我はともかく、あちらの攻撃には特に注意せよ」


 すると、どうやら心配してくれているらしく、そんな言葉をかけてくれた。

 ユウトの攻撃はほとんど知っているし、俺を狙って直接攻撃されるとかでもない限りは大丈夫だろう。


「いざとなったら転移で避けますよ」


「それがよいだろう。さて、ようやく到着したようだな」


 言われて、扉を見るが変化はない。

 俺には分からなかったが、それからすぐに扉が動き出した。

 何かのスキルで気配とか存在あたりを感知したというところだろうか。


 俺は扉が動いた時点で、即座に『隠遁』のスキルで姿をくらませる。

 そうして扉が開ききると、奥から4人の姿が現れた。

 ユウトにマサト、チサトさんに、スノーの勇者パーティーだ。


「やっと着いたか」


「やられそうになると消える魔物とかもそうだけど、無駄に長い通路は嫌がらせかっつーの!」


「それに、攻撃の届かない天井にいるブラッディスライムからの粘液の雨も、ダメージは無いけど鬱陶しかった」


 ユウトの言うように、粘液の雨に振られたのだろう。

 4つに分岐した扉をくぐるのを見送った時とは違って、ユウトたちの武器や衣服の一部に、血しぶきでもかかったかのうような赤い染みがいくつも出来上がっていた。


 なんでも、あれは演出らしい。

 試練の間の4つの部屋での出来事はそれぞれ映像が記録されて、後日各地にいる亜人や魔物といった魔王軍の仲間に俺の存在を周知させるために使われるとか。


 それで異世界人の凶暴さをアピールするために、あのような姿になるようにブラッディスライムを配置したとのこと。


「あっ……あの人が四天王かな?」


「そうみたい、ですね……」


 俺は静かに移動を行って、攻撃が来ないだろう勇者パーティーの後衛付近に潜む。

 あとは戦いを見守って、時が来るのを待つだけだ。


「あんたが俺たちの相手かな?」


 ユウトの声に、相手の人物は立ち上がってそれに答える。


「よくぞ来たな、()()()()()よ」


「……どういう意味だ」


「言葉のままよ」


「こんなやつの言うことなんて気にするなよ。どうせ俺たちに倒される相手だ」


 その言葉に対して、相手の人物は鼻で笑いながらマサトに言葉を返す。


「はっ、勇ましいじゃないか。なり損ないにすらなれなかった戦士よ」


「なんだと!」


 ユウトには気にするなと言いつつも、自分が言われると途端に怒りだすマサト。

 それを見てユウトは少し冷静になったらしい。


「確かにマサトの言うとおりだな。『勇者の加護』を持った勇者である俺、ユウトがお前を倒そう」


 すると、その言葉を聞いてなのか、相手の人物は可笑しそうに鋭い牙を見せて、笑い声を出しながらユウトに答える。


「フハハハハ! 勇者、勇者か!」


 その笑い声もすぐに収まり、言葉を続ける。


「よかろう。相手になろうではないか。……だがその前に」


 その目線をユウトの背後に送る。

 見ているのは俺ではないだろう。

 ユウト以外のマサト、チサトさん、スノーの方を見て手をこちらに向け、次の瞬間。


「お前たちには止まっていてもらおう、固定(ストップ)


 空中に赤黒い魔法陣が浮かび、ストップと唱えられた魔法が発動する。

 もちろん俺はその効果の対象外だ。

 そして、その効果は……。


「なんだこれ! 首から下が動かねえぞ!?」


「私も動かないよ!?」


「これはーー」


 動きの停止、時間魔法の1つだと言っていたな。

 聞いた通りのものであれば、もう3人は魔法が解除されるまでは動けない。

 そしてついに全身に効果が現れたのか、3人の動きが完全に止まり、会話すらも中断される。


「ほう。貴様にも魔法をかけたつもりだが、やはり加護持ちは動くか」


 ユウトは『勇者の加護』を持つだけあって、動くことが出来るようだ。


「3人に何をした!」


「目と耳は機能させたまま止めて、そこでゆっくりと見物してもらおうと思ってな。なに、これ以上危害を加えるつもりはないから安心せよ」


「信用できないな」


「そんなことはどうでもよいな。どちらにしろ貴様には1人で我と戦ってもらうだけよ」


「上等だ!」


 そう言ってユウトが剣を構えると、その刀身が赤く燃え上がると同時に、地面を蹴ったのだろう。

 ユウトの姿がブレて、気がつけば相手の懐に潜り込んでいた。

 明らかにさっきまでの戦闘とは違う動きを見せている。


 そのまま燃え盛る剣は相手の皮膚へと入り込み、傷をつけた。

 俺にはそう見えたが、結果は違っていた。

 実際には手から伸びる爪によってその攻撃が防がれていた。


「何っ!」


「ほう、魔法剣か」


「ならばこうだ!」


 すると、刀身からほとばしる炎の量が目に見えて増える。

 ミノタウロスの時はこれで武器を一気に焼き切っていたよな。


 しかし、今回はそうなってもなお、結果は変わらない。

 普通に考えて熱いはずなのに、なんでもないかのように、それを受け止めたまま動こうともしない。


「どうなっている!?」


「使い方が甘いな。単に火力を増せば良いというわけではないぞ? 静寂たる魔(アンチマジック)


 すると、燃えていた炎剣から炎が急に失せて、元々の刀身の色である赤すらも消えて、黒い剣に転じてしまう。


「なっ、俺の剣が! ……くそっ、どうして炎をまとわないんだ!」


 どうやら黒くなった剣に再び炎が灯ることは無いようだ。

 するとユウトは諦めたのか剣を使って、己の剣を防いだ爪を押し出すようにしてその場を離れる。


「どうした? 剣が使い物にならなくなったら、逃げるのか?」


「黙れ!」


 その言葉からすぐに、再びユウトの姿がかき消えて、金属がぶつかり合うような音が連続して聞こえてくる。

 数秒をかけて幾重にも響いたその音の後で、ユウトの姿が現れる。


「はあ、はあ。四天王がこんなに強いなんて計算外だぞ……」


 現れたその姿に負傷した部分は見られないが、肩で息をしているところを見ると、かなり疲れている様子だ。

 一方でユウトが戦っている相手は、一切疲れた様子もなく涼しい顔をしている。


「四天王? 何を勘違いして……ああ、そう言えば名乗っていなかったか」


 その次の瞬間、空気が明らかに変わる。

 空間全体が威圧感に包まれて、急に周りの温度が下がったかのように感じられる。


 そうしてようやく、ユウトと対峙していた人物がその正体を相手に明かす。


「我が名はアギト、魔王城の主である魔王とは我のことよ!」

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