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10話 魔王城侵攻1

 俺が勇者パーティーを追い出されてから1週間。

 各地にあるダンジョンの仕掛けが解除され、ついにユウトたちが魔王城に乗り込んできた。


「ちっ、やっぱり魔王のところには飛べなかったか」


「ごめんなさい。中に結界があるのもそうだけど、他にも阻害魔法があるみたいで、ここまでがテレポートできる限界みたいなの」


 チサトさんって言ったか。

 彼女の言う通り、あくまで各地のダンジョンを巡って解除できる結界は一番外側のものだけ。

 ここから玉座の間に向かうには、4つの装置を解除する必要がある。


 それと阻害魔法と言っているようだが、実際には一定距離ごとに、広範囲に影響する魔法を妨害するマジックアイテムが設置されており、それに対応するマジックアイテムを持たない者は、対象の魔法に()()制限を受ける事になる。

 もちろん俺はそのマジックアイテムを渡されているために、それらの制限は受けずに済んでいる。


「つまり、戦闘でチサトちゃんのテレポートによる支援は期待できないってことかな」


「ううん、それは大丈夫みたい。遠距離のテレポートは阻害されてて無理みたいだけど、近くにテレポートするのは行けるみたいなの」


「確か、千里眼もダメだったって話だったよな?」


「そうなのマサトくん。最初に見た時もそうだったけど、魔王城はある程度まで先を見ると真っ暗になっちゃうみたい」


「ズルしないで来いってことか……面倒だな」


 そういった理由から、テレポート先を入り口のみに限定させることで、ユウトたちが魔王城内に入り込んだ時点でその居場所の捕捉に成功。

 俺は『隠遁』のスキル効果で姿を隠し、既に彼らのすぐ近くに潜んでいた。


「まあまあユウト。経験値稼ぎしながら進めると思えばさ?」


「それもそうだな」


 そう話しているユウトとマサトの近くには、スノーの姿もある。


「いきましょうか」


 そうして一行は城内を進み出す。

 ユウトたちの勇者パーティーを先頭にして、後から3つの勇者パーティーが後に続いていく。

 合計で4つのパーティーで、人数は俺を除いても全部で20人と大所帯である。


『冒険者が進みだした』


『はーい。それじゃリア、道中よろしくね』


『任せろ』


 俺はクロエの遠隔で会話のできる魔法、テレパスで脳内で会話を行う。

 今回の魔王城侵攻において、クロエがサポート役を買って出てくれた。


 おかげで、わざわざこれだけの人数の冒険者の顔と対象のスキルの記憶。

 また、異世界送還の対象かどうかを一致させる手間が省けた訳だ。


 しかし、その冒険者の中で俺が唯一、絶対に顔を覚えた上で注意をしなければいけない存在がいる。

 それはユウトでも異世界人でもない、こちらの世界の人間。


 その冒険者は、俺が『隠遁』によって隠した姿を見破ることの出来るスキルを所持しているために、俺はその冒険者の背後を取って、視界に入らないようにする必要があった。


 その事に注意しながら複数の勇者パーティーを見れば、彼らは固まりすぎないように、パーティー単位で散開する形で陣形をとっている。


 クロエの報告だと、『勇者の加護』をもった異世界人は6人来ているとのこと。

 最終的に、事前の調査で問題があると判断した異世界人は全員元の世界へと戻す手はずだが、第一目標はその6人となる。

 最初の目標は、そのなかでも一番の実力者であるユウト。


 だが、今はまだその時ではない。

 異世界人に触れて異世界送還まではいいが、発動までに少々の時間がかかる事と、何よりも数が多い。


 回避のための転移が行えなくなってしまう、異世界送還の魔法陣出現から経験値とスキルを獲得するまでの間に攻撃を受けようものなら、今の俺ではひとたまりもないだろうからな。


 そこで俺には、彼らを元の世界へと送り返すタイミングまでに別の仕事を任された。


 それからしばらく彼らの後ろについて行き、城内を進んでいくと、ユウトたちが魔物と遭遇する事になった。

 地面を響かせる足音を鳴らしながら現れたのは、牛の頭を持った巨人ミノタウロス。


「来たか、侵入者」


 ミノタウロスはその巨体に見合う、左右にそれぞれ刃がついた、巨大な1本の戦斧を両手で持っていた。

 建物の中では使いにくそうに思われるが、魔王城に関しては天井までが遥か高く、通路も広いため、特に制限もなく巨大な武器を振るうことができるのだろう。


『ユウトたちがミノタウロスと遭遇した。合図が来たら教える』


『りょうかーい』


 俺はクロエにそう知らせると、その武器の間合いに入らないように注意して、役目を果たすのに問題ない場所を見つけて潜むことにする。

 それも、例の冒険者に見つかりそうになった時に備えて、転移の準備は怠らずにだ。


「ミノタウロスか! これは手応えがありそうだな」


「スノーちゃん、今回は俺たちに頼むぞ」


「分かっています。守りの加護を、防御の盾(プロテクション)


 オークの時とは違って、スノーが防御魔法を自分のパーティー全員に付与する。

 同様に、他のパーティーでも補助魔法をもらったであろう近接戦闘を得意とする者たちが、各々武器を持ってミノタウロスに向かっていく。


「ゆくぞ侵入者共」


 それを確認したミノタウロスは、向かってくる敵めがけて、戦斧の腹で横なぎにその巨大な武器を振るった。

 巨大な武器から描かれる黒い軌跡に、たまらずといった感じで冒険者たちが回避行動を取る中、ユウトだけが赤い剣をもってそれを受け止めた。


 普段、経験値稼ぎと称して外にいる亜人や魔物を狩る時の武器とは違った武器をユウトは手にしていた。

 あれは、強敵に挑む時にだけ持ち出してくる魔法剣。

 それだけあっちも本気って事のようだな。


「おいおい。手加減するとか俺達じゃ役不足だというのか?」


「む」


 赤い剣は戦斧を受け止めた直後に、刀身が燃え上がり始める。

 そうなった事で、剣に触れていた戦斧がその色を黒から赤に変え始めたのを見るなり、ミノタウロスが跳ねるようにして後退を行う。


「なるほど、手応えの有りそうな敵もいるようだな」


 それから大きく息を吸い出して、巨体に空気を取り込み始めた。

 おっと、これは咆哮か。

 でも、あらかじめどんな事をするのか聞いていたから回避は余裕だな。


 俺は一度待機していた場所から離れて、ミノタウロスの背面側にある壁面に配置されている石像の物陰へと転移すると、そのまま耳を塞ぐ。


「咆哮が来るぞ!」


 そんな声が塞いだ耳からかすかに聞こえた後、空気を震わせるようにしてミノタウロスの咆哮が響いてくる。

 背後にいてもビリビリと響いてくるのだから、前方にいる彼らはたまったものではないだろう。


 それでも、防御や補助魔法を受けた彼らはどうにか耐えきったようだ。


「っへ、どうした。そんなんじゃ戦士の俺でも倒せないぞ?」


 何故なら、耳から手を離した後でマサトのそんな声が聞こえて来たからだ。

 再び元の位置へ転移して戦況を見れば、誰一人ひざをつくことなく、戦闘態勢を維持していた。


「よし、斧の攻撃は俺に任せて、お前らは攻撃に回れ!」


 それから、そう指示したユウトが、先んじてミノタウロスに向かって走り出す。


「っしゃあ、いくぜ!」


 そんなユウトの後を追うようにして、声を上げたマサトやその他の面々の前衛職だろう冒険者たちも、ミノタウロスに向かっていく。

 一方で、ミノタウロスは刃の部分が相手に向かうように戦斧を持ち直す。


「ふむ、あまり余裕は無さそうだ」


 そうして戦斧を肩に担ぐと、向かってきたユウトめがけて全身の力を使うようにして振り下ろした。

 だが、その攻撃も先ほどと同様に受け止められてしまう。


「残念、まだまだこっちは余裕だぞ」


 それによって生じた隙を見逃すはずもなく、他の者たちがミノタウロスへと斬りかかる。


 元々の強靭な体躯とはいえ、相手の冒険者も手練ばかりのようで、致命傷とまでは行かないが、裂傷が刻まれる。

 同様に後衛の魔法使いが魔法を放って、ミノタウロスの体に傷をつける。


 何度も巨大な武器を振るっていくものの、その全てをユウトによって受け止められてしまう。

 そのたびに体に傷を増やしていくミノタウロスだが、それでもその巨体が倒れるということはなかった。


「だー! こいつ硬すぎんだろ!」


「面倒だな。火力を上げるか」


 すると、なかなか倒れない敵にしびれを切らしたのか、ユウトがそんな事を言い出す。

 その直後、炎を纏っていた剣が大きく膨れ上がって、その熱量を増した。


 火力を増した剣は、受け止めていた戦斧を焼き切るようにして、刃の上半分を切断してしまう。


「おのれ人間め、……ならば!」


 それを見たミノタウロスは一気に後退すると同時に、持っていた戦斧をユウトの頭上を通過するようにして前方へと投げつけた。

 戦斧は勢いよく水平に回転しながら飛んでいく。

 直前に居た前衛は、飛び上がることでそれを回避するのだが、戦斧は後衛のいるこちら側に迫ってきていた。


「敵わないと見て、後ろを狙ったか!」


 遅れるようにして、それに気づいたユウトがさすがともいえる速度で、戦斧を追いかけるように一気に駆け出す。


「結界だ! チサトちゃんはまだ使うの待って!」


「皆を守り給え、空間よ(フィールド)りいでし盾(プロテクション)


 直後にユウトが指示をだすと、その意図を察したスノーが即座に結界を前方に展開する。

 その様子を見ながら、俺は任されていた仕事の準備を行う。


『クロエ』


『はーい』


 そうして戦斧に追いついたユウトは、そのままそれを追い抜くと、戦斧と後衛との間に飛び蹴りのような体勢で潜り込む。

 勢いそのままに、空中に貼られた結界を足場として着地すると、その体勢のまま飛んできた巨大な武器を受け止めた。


「チサトちゃん、あいつの頭上に!」


 そう言いながら、ユウトは戦斧を受け止めた事による衝撃を逃がすようにして、剣を頭上に振りかぶる。


「りょーかい! ……あっ」


「って、何でーー」


 それから、チサトさんがテレポートでユウトをその体勢のまま飛ばしたみたいだ。


「座ってるんだ!」


 そうして、相手よりも高い位置にテレポートしてしまったユウトは、その原因となるおかしな行動をしたミノタウロスに向けて、そう声を上げた。


 どうしてこのような結果が生まれたのかと言うと、ユウトが仲間に迫る戦斧を防いでいた時の事。

 俺がその様子を見ていたさらにその奥で、ミノタウロスは武器を投げた事によって生じた時間を使い、懐から透明の玉を取り出した後、ユウトがテレポートを指示したタイミングで地面に腰を下ろす、という行動をしていたからだ。


 そのため、チサトさんがテレポート先の位置を修正するのが間に合わなかったのだ。


「それでよい。よくぞ仲間を守ったと言えよう」


 それにより生じた高低差が埋まるその合間に、ミノタウロスは目の前のユウトを褒めると共に、手に持った透明の玉を掲げた後、それを潰して砕いた。


 俺は()()()()()()()()()()()()ので、その瞬間を見ることは出来なかったが、ミノタウロスがその場から忽然と消えていなくなったために、結果としてユウトの剣は敵に届くことはなく、空を切ることになったのだろう。


「消えた!?」


「倒した……わけじゃないよな」


 その後、しばらく警戒は解かずにいたようだが、一向に何も起きないので危険は去ったと判断したのか、構えを解いて一旦集まっていた。


「経験値の光も出てないし、消える直前に何かを砕いていたよね」


「マジックアイテム、でしょうか……」


 実際は何の変哲もない、ただのクリスタルなんだけどな。

 クリスタルゴーレムに協力してもらって、いくつも作ったやつだ。


「ああ、くそっ! タダ働きかよ」


 ちなみに、ミノタウロスが突然いなくなった理由だが、それはマジックアイテムに見せかけて俺が転移で逃していた、というのが答えになる。


 合図であるクリスタルをミノタウロスが取り出した時点でクロエに連絡し、俺の姿が見えるだろう冒険者の死角である座ったミノタウロスの背後へと、ユウトをテレポートさせるタイミングに合わせて転移を行う。


 その後、その巨体の背後からクリスタルが砕かれたのが見えた時点で、再びの転移によりミノタウロスと共に救護部屋へ移動。

 そこから、俺だけ元の場所へと戻って来たという訳だ。


 今ごろは事前に待機してた救護班によって、ミノタウロスの傷も癒やされていることだろう。


 それにしても、限界ギリギリまで戦いたいというミノタウロスの意向があったとは言え、最後の連続転移の所は結構危なかった……。

 俺としては武器が壊れた時点で、石像の近くまで後退して合図を出してくれれば楽だったのだが。

 まあ、うまく行ったみたいだし良しとしようか。


 こうしてとりあえずの仕事をこなした俺は、引き続き彼らの背後について魔王城を進んでいく。

 順調に行けばこの先で、ユウトたちには試練が訪れるだろう。

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