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1話 勇者パーティーでの日常

 街から遠く離れた街道沿い。

 俺を含めた4人の勇者パーティーは、ギルドでの発見情報を元にオークと遭遇した。


「お前だち、早く逃げろ!」


 リーダーと思われるオークが俺たちを見るなり、他の仲間を逃がし始める。

 それに従って、2人のオークが街道わきの林へと逃げていった。


「ほら、防御魔法早く!」


「ちんたらしてたら逃げられるだろうが!」


 そんな様子を見て、俺の目の前でそう言った勇者ユウトと戦士マサト。

 攻撃の要である彼らは、それぞれ剣と先端にトゲのついたモーニングスターを構えて、魔法を要求している。


「……はい。守りの加護を、防御の盾(プロテクション)


 そうして法衣に身を包んだ、背中まで伸びる長い金髪をした聖女であるスノーが防御の魔法を、この場に残った()()()()()()にかける。

 それを確認し、ユウトとマサトがゆっくりとオークに近づいていく。


「よし、やるぞマサト!」


「さ〜て、魔法かけてやったんだから、頑張って耐えてくれよ?」


 目の前のオークはその言葉を聞くなり、逃した仲間とは反対方向に逃げ始めた。

 おそらく今の今まで動かなかったのは、俺たちを引きつけるためだろう。


「だのむ、見逃してくれ!」


 相手の背中越しに聞こえてくるそんな声に、ユウトとマサトは気にすることなく相手の速度に合わせて走りだす。


「なんか聞こえた?」


「さあな……っと、おらぁ!」


 2人はすぐに逃げたオークに追いつくと、最初にマサトが背後から蹴りを入れた。

 それによってオークは膝を地面にぶつけると、そのままうずくまってしまう。


「どうしたどうしたぁ、そんなんじゃすぐに死んじまうぞ?」


「やめて、止めて!」


「ははっ、お前が動かなくなったらやめてやるよ」


 2人は何度も何度も、オークに向かって武器を振り下ろし続ける。

 それに対してオークは頭を腕で守るようにして地に伏して身を固めている。


 勝ち目がないと分かっているのか、このような戦闘風景は日常茶飯事だ。

 まともな戦闘になったことなんて、このパーティーになってからは数えるほどしか無い。


「うぐっ、ぐぅ……」


「ああっ、きっもちいいぃいい!」


「ほらっ、もっと鳴けよ! 豚らしくブヒィ、ってさあ!」


 オークはスノーの魔法で体が頑強になったとはいえ、2人の攻撃によって傷を増やしていく。

 このまま行けば、防御魔法で死までの時間が伸びた分だけ長く苦しめられた後、最後を迎えるのだろう。

 見慣れたとはいえ、未だに不快感を覚える光景だ。


 俺は幼馴染のスノーに目配せをして、いつもの行動に移る。


「それじゃあ、俺はいつも通りに残りのオークを倒してくるよ」


「おう、落下ショーか。リアも好きだよな」


「こっちはゆっくりオークで楽しんでおくよ」


 2人はオークに顔を向けたまま俺に言葉を返し、武器を握る手を動かし続けている。

 俺は早々にその光景を視界から外して、他のオークが逃げていった林の方へと足を向ける。


「……リア、気をつけてくださいね」


 スノーも極力その光景を見ないようにするためか、目線を下げつつ俺を見送る。


 そうして、リアと呼ばれた俺は街道をそれて、林の中へと入る。

 林の奥の方を見れば、残りのオークが走っている様子が目に入ってきた。

 こうなれば後は早い。


 俺は一瞬でオーク達が走るその先へと空間転移を使って移動を行う。

 景色が瞬間的に切り替わり、目の前にこちらへと走ってくるオークの姿が現れる。

 すると急に現れた俺の姿に、オークが目を見開いて足を止めた。


「あ、あんだはもしや……」


 それに対して、もう片方の小さなオークが先に足を止めたオークの服の袖を引っ張っている。


「何やってるの、早く逃げないと!」


「いいえ、この人はだぶん大丈夫よ」


 そう言って、先に足を止めた方のオークが手を差し出してくる。


「ああ、もう逃げる必要はない」


 こんな風に相手の方から手を出してくるのは、もう何度目になるだろうか。

 この行為を繰り返してきたおかげで魔王軍では周知になったのか、ここ最近はいつもこんなやりとりが続いているので話が早い。


 俺がオークに差し出された手を掴むと頭の中に候補地が浮かび上がる。

 ……これだな。


「母ぢゃん……」


 その様子に、小さなオークが震えながらこちらを見てくる。


 子供の方は俺がどういう存在なのか、反応を見る限りは分かっていないな。

 それにしても、この2人のオークは家族なんだな。

 ……ということは、体を張って逃していたのはおそらく父親か。


「私だちはもう安心だからね」


 母親オークは空いている手で、子供と見られるオークの震えた背中を撫でている。

 その様子を目に焼き付けながら、俺は転移で彼らを()()()()()に送り届けた。


 それから数分して、元の場所に戻ると既に戦闘は終わっていた。

 戦闘と言うよりも蹂躙と言った方が正しいだろうか。


 オークはひどい状態で横たわっていた。

 動く気配もないし、あの状態ではもう生きてはいないだろう。


「ただいま」


 声をかけるとユウトとマサトがこっちを見てくる。


「戻ったみたいだね。こっちも今終わったところだよ。あー、スッキリした」


「俺はまだ殴り足りないな」


 マサトがそう言い、動かなくなったオークを蹴りつける。

 それを見たスノーは青い顔をしていて、口を抑えながら顔をそらした。


 すると、ユウトがニヤニヤとした表情をして俺に近づいてきた。


「そっちもそっちで楽しそうだが、どうだった?」


「どうだったも何も、いつも通りさ。高い所から落として終わりだよ。今頃は他の生き物の餌にでもなってるだろうよ」


 まあ、これは嘘なんだけどな。

 残りのオークは彼らの村に怪我なく送り届けたからな。


「潰れるところを見てみたい気もするけど、空中だと俺らも落ちちゃうのがな〜。まあでも経験値的にもストレス解消するにも、泣きわめくこいつらをボコるのは楽しいから別にいいけどね」


 そんなユウトとマサトの戦い方に疑問を持った俺は、魔物や亜人を密かに逃がす、ということを繰り返していた。

 互いに戦う意志を見せた上での結果ならまだしも、現実はそうではない。


 しかも、こんな戦い方をしているのは俺達だけという訳ではないらしい。

 全てとは言わないが、他のパーティーでも同じような事は日々行われていて、これらは特に異世界人の加入しているパーティーに多く見られる光景のようだ。


 そこで、マサトもこちらに近づいてきて会話に入ってくる。


「本当、異世界さまさまだよな」


 ユウトとマサトは異世界人で、ニホンという国から『召喚』のスキルでこちらに呼ばれたようだ。

 今となっては珍しくもない異世界人。

 特にここ最近その数も増えたのか、街でもよく異世界人の姿を見かける。


 こんな一方的な戦闘になったのも異世界人が来てからだ。

 それまでは普通に戦うといった感じで、そちらのほうが冒険者らしい生活だった。


 そういえば不思議な話で、以前の戦闘では人間側に死者は出てないのではないか、というものがあったな。

 中には負けたのに、亜人に励まされて帰ってきたなんて話もある。

 今では人間側が負ける事がほとんど無いために、それを聞く機会もないが。


「……さてと、オーク狩りも終わったし帰ろうか」


「リアよろ」


 ユウトとマサトがいつものように街に帰るため、俺に転移を要求してくる。

 だが、その前にスノーに転移の有効範囲内に来てもらわないとな。


「わかった。スノーもこっちに」


「……ええ」


「スノーちゃんもいい加減慣れなよ」


 そう言ったユウトは、青い顔のまま近づいて来るスノーを見てなのか、呆れた表情をしていた。


 正直、俺もユウトたちの感覚は理解できないな。

 俺もスノーもこちらの世界の住人だからか、異世界人とは感覚が違っても仕方ないとは思うが。


 それにしても、最初から無抵抗の相手を執拗に痛めつけるのは明らかにおかしいと感じるがな。

 前にユウトとマサトが『げえむみたいな世界だし、こんなもんだろ』なんて事を口にしているのを聞いたが、それと関係あるのだろうか。


「それじゃ転移するぞ」


 そんな疑問を抱きつつも、転移で俺たちが本拠地にしている街、デュオへと戻る。


 いつものように街のすぐ外へと転移してから街の中に入ると衛兵が話しかけてきた。

 どうやらユウトとマサトに用があるようで、あとで酒場で落ち合う事を約束して、一旦別れる。


「それでは、私は一度いつもの場所へ行きますから、報告お願いしますねリア」


 顔に血色の戻ってきたスノーはそれだけ告げると、孤児院のある方に向かって歩きだす。


「ああ、俺の分までみんなによろしく」


 俺もスノーも、特殊なスキルを持った子どもたちが集められる孤児院の出で、スノーはいつも通りに子どもたちの面倒を見にいくようだ。


 スノーは回復や結界、光属性の魔法が使えるようになる『聖女』のスキル。

 俺は人や物を移動させる事ができる、レアな『転移』のスキルを持っていたおかげで、そこの孤児院でお世話になった。

 もちろん今では院を出て、勇者パーティーとして生活をしているわけだが。


 ーーそうして、この時の俺は、今の生活がこの後すぐに終わる事になるとは露知らず、ギルドへと向かうのだった。

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