キャラバン護衛編ⅣⅩⅠ
キャラバン一行と私たち冒険者は、保護した女性たちを引き連れ、王都、ハディーンへとたどり着いた。
思えば、ずいぶんと濃い旅路だった気がする。
当初の予定の片道三日とはなんだったのか……。結局一週間ほどかかってしまった。
リヴィちゃんは、あれから私と離れようとせず、私が別乗りしていた荷車にまで同乗しようとしてきて大変だった。
結局、ロア君にだけ、アレイスターさんやアーサー君のいる別の馬車に乗ってもらって、女性だけの空間を作ることでなんとか離れてもらった。
道中、魔物とか出たときに私が動けなくなっちゃうからね……。
年の功か、なんて直接は絶対に言えないけど、メルコさんや、見た目大人しめのアイちゃんに比較的懐いてくれたのも僥倖だった。ユニエラちゃんは少し悔しそうにしてたけど。
あと、アジトから早馬を出して、王都の騎士団へ連絡をしていたようで、途中でその騎士団の人たちとすれ違った。
彼らには、アジトに残された遺体の確認と片づけをしてもらうことになっているそうだ。なんか申し訳ないです……。
王都は、外壁からもうカンブリアの倍か三倍はあるんじゃないかというくらいの圧巻な造りで、私は上を見上げて首を痛めそうになった。シャルちゃんにもいつか見せてあげたいな。
全員で通行証を見せ、入ろうとしたが、救助した女性たちは、当然ながら、それを紛失していた。
ジークフリート隊長が門番の騎士に事情を説明すると、上の騎士団へとすぐに連絡の早馬が向けられ、一時間ほどで、騎士団長自ら、別の馬車と部下を引き連れて飛んできた。
「報告は受けていた。此度は、盗賊の討伐と生存者の救出、輸送と、お手数をおかけした。感謝申し上げる」
言葉は上から目線っぽいけれど、石畳に片膝をついた、最敬礼をジークフリート隊長に向けた騎士団長は、威厳と礼儀の両方を大事にしているのだろうと私は見た。
「女性たちは皆、暴行を受けております。早急に精密な検査と、必要ならば治療や処置も受けさせねばなりません。こちらの随伴医が紹介状を書いて皆に渡しております。騎士団長殿のサインを記入して、優先的に診てもらいたいのですが、構いませんでしょうか?」
「無論だ。今日、明日の予定をすべて断っても、最優先にさせていただく。これより、救助した女性たちは、騎士団が引き受けましょう」
「感謝します、騎士団長殿。検査や治療費については――」
「待たれよ。これは我が国の国民の問題だ。商業自治区のあなた方にそこまで手間をかけさせるわけには参らぬ。気になさらずともよい。自治区への大きい貸しにもなってしまうしな」
「は。出過ぎた申し出をしました。では、後をよろしくお願いいたします」
「任された」
騎士団長は、早速、部下の騎士たちに、女性たちを騎士団の馬車へ丁重に移乗させるように指示を出した。
本当にこれで完全に助かるんだと、安堵の表情と涙を浮かべて、女性たちが騎士団の馬車へと移っていく。
そして、リヴィちゃんのところにも騎士団の人が来たけれど、リヴィちゃんは、私の腰にしがみついて離れない。半べそもかいている。
「すみません、この子、今回のことで男の人が怖くなってしまって……」
「っ!? あ、ああ、そうですか。わかりました。すぐに女性の団員を連れてきますね」
今、私の盾を見て騎士さんが目を丸くしたのが分かった。顔に出さないでよね、そういうの。……私は人のこと全然言えないんだけど。
少しすると、別の騎士がやってきた。
「男性が怖い子がいるとのことで、呼ばれたのですが……あ!?」
「はい、この子です。よろしくお願いしま……あ!?」
シウスさんだった。思ったより再会が早かったけど、あれ? 一応、面識は無いことになってるんだっけ?
二人の間に変な間が生まれてしまった。やばい、何か言わないと……。
「シ、シウスさん! シウスさんじゃありませんの!? お久しぶりですわね、覚えておいでですか? 私です。ユニエラ=セイルです」
ユニエラちゃんからのナイスフォロー!! ありがとう!! 大好き!!
「あ、ああ! オヒサシブリデス! ユニエラ様。オゲンキソウデ、ナニヨリデスゴザイマス!! マサカー、コンナトコロデ、オアイスルトワー」
シウスさん、下手か!? 前はもうちょっと出来る人だったでしょう!? 事態が咄嗟過ぎたか……。あと、無駄に声が大きいよ。
その声に反応したのか、ガシャガシャと鎧の音が近づいてきた。騎士団長だ。
「セイル家のご息女か! ご立派になられて。誘拐にあったと聞いたが、その様子ではもう大丈夫そうですな。ユーザリス殿は息災で?」
「ぇ、ゆうかい? ……ぇ、ええ! 誘拐! 騎士の娘ですので、そのくらいでへこたれてはいられませんの! お父様は、息災も息災、元気すぎるのが小五月蠅いくらいです、相も変わらず。……今の発言は、父には内緒でお願いいたしますわ」
今、一瞬、洞窟でのカバーストーリーの設定忘れてたよね、ユニエラちゃん……。
「うむ、子煩悩のアレには黙っておこう。ショックで寝込まれてはかなわん」
「あの人の本性バレバレじゃありませんの……」
「それはそうと、なぜこちらに?」
「社会勉強もかねて、冒険者になりましたので、その依頼で」
「ということは、此度の盗賊の件も関わっておいでで!?」
「ええ、まぁ。なかなかに骨が折れました。斬っても斬っても出てくるものですから……」
「なんとなんと! それは! 美しくだけでなく、お強くもなられていたか!! 実に喜ばしい!! きっと殿方も引く手数多でしょうなあ! いやぁ、セイル家の将来も安泰ですな!」
「おだて過ぎですわ、イージス様。兄も姉もいるのですから、私が無くとも安泰に変わりありません」
「何を仰るか。正妃の子は貴女だけではありませんか」
「家督は長兄、ユリウスに継ぐと、父も決めております。そういう言葉は、我が家への干渉になりますわよ?」
「いや、これは失礼した」
「父ぅ――騎士団長、邪魔です。男性恐怖症の子がいると言ったじゃありませんか、離れて離れて」
「おっと、済まないシウス」
シウスさんが騎士団長を迷惑そうに押し退けると、それらしからぬ態度で騎士団長がシウスさんにペコペコと頭を下げた。あ、親子なんだ、この二人。
「仕事中に娘に気を使わない! 立場を弁える!」
「うむ……すまな……そうだな」
いや、シウスさんも邪魔だとかさっき言ってたよね!? そして、この騎士団長も子煩悩。娘に甘いようだ……。
騎士団長が少し寂しそうに去ると、シウスさんが咳払いをして、改めて話を始めた。
「すみません、お見苦しいところを。それでは、その子もこちらでお預かりしますね、ディティ――じゃなくて、ユニエラ様」
それ、ほとんど言ってるよね、名前。言い直しはしたし、まぁいいか……。
「リヴィちゃん。ちゃんとした病院で診てもらうから、このお姉さんと少しの間一緒に行ける?」
リヴィちゃんは首を横に振った。
なら行くしかあるまい!
「一人になりたくないみたいです。シウ――じゃなかった。騎士さん、私が一緒について行ってもいいですか?」
あ、だめだ。これで私もうっかりさんの仲間入りだ……。
「あーもう! なんだか面倒くさいですわね! 私、ちょっと馬車を借りてきますわ! シウスさん、御者はできますわよね? 一緒に来てくださいまし! ディティス様はリヴィさんとここでお待ち下さいな!」
まくし立てるように言うと、シウスさんの手を取って走り去ってしまった。
数分待つと、小さめの馬車を駆ってシウスさんが戻ってきた。隣にはユニエラちゃんが座って腕を組んでいた。ドヤ顔で。
「安い買い物でしたわね!」
「借りるって話じゃなかった!?」
到着して馬車から降りるなり、前言とだいぶ違う話が聞こえてきたので思わず突っ込んでしまった。
「馬は借りましたわ」
なるほど。なるほど?
「ちょい乗りにちょうど良さそうなサイズで、値段もお手頃だったので、ここの別荘を利用するときのお買い物にも便利だと思いましたら、これは買いだと閃きましたわね!」
こういう大物の衝動買いのできる、貴族の金銭感覚が、私にはまだよくわからない。分かる日が来るとも思えないけど……。
ちなみにいくらだったのか金額を聞いてみると、少なくとも、私にとっては、ユニエラちゃんの言うお手頃とは到底思えない額だった。キャラバンの馬車より二周りは小さいのに、それでもこんなにするんだと目が点になった。
アイちゃんも誘って、馬車に乗ると、私たち四人でちょうどくらいのスペースだった。(私の盾は、キャラバン道中で私が乗せられていた荷車をそのまま借りてそれに乗せ、この馬車で牽引している)
病院に着くと、入口の前で騎士団長が、女性の持っていた紹介状を受け取っては、自身のサインを書いて返すという作業をせっせとしていた。
病院側も、診療終了時刻間際だというのに、女性の看護師さんが、一人一人丁寧に応対していた。
私は、リヴィちゃんを連れて、騎士団長のもとへ向かう。当然、目の前まではリヴィちゃんが怖がってしまうので、その手前まで。アイちゃんたちに少し預けて、リヴィちゃんの代わりに私とシウスさんとでサインをもらいに行った。
私達の順番になるまでそうかからなかった。仕事の早いことだ。
「ん? シウスか」
「団長、男性恐怖症の子の分を代理で持ってきました。サインお願いします」
「承った」
私がリヴィちゃんの紹介状を渡すと、流れるような動作で一番下にサインと拇印を押して返ってきた。
「それで、今日から七日の間、騎士団御用達の病院で、いつでも優先的に診療が受けられる。もちろん、診療時間内、急患以外の話だがな。今日はもう遅いので、全員は受けさせられないのは申し訳ない」
「いえ、ありがとうございます」
「宿泊施設については、騎士団側ですでに部屋を借りている。本人らの生家もこの街にあるだろうが、鍵もないし、入れぬだろう。送り迎えもしやすいしな。役場の方にも、通行証の再発行手続きがすぐできるように通達済みだ」
対応があまりにも早くて驚いた。この国の中でも、特に上の方の地位にいる人間なだけはある。
そうか、通行証の再発行か。
私がリヴィちゃんを引き取るから、カンブリアに連れて行くってことになるわけだけど、この街の市民権があるのだから、リヴィちゃんには再発行はしてもらってもいいだろう。貰えるものは貰っておこうの精神。カンブリアに着いたらまた買わなきゃだけど。
「すみませーん! 本日の診療は、今、待合室にいる方々で終了になりまーす! 大変心苦しいですが、残りの方は明日以降にまたお越しくださーい!」
看護師さんが本日の受付終了をアナウンスした。リヴィちゃんは明日以降ということになる。
なら、私たちもまだやることが残っているし、退散しよう。
「シウス」
「はい?」
「お前はこのまま直帰だ。明日は非番だったな?」
「ええ、まぁ」
「なら、ユニエラ嬢たちに付いていなさい」
「それは命令ですか? 休日出勤手当は?」
「歳の近い娘とたまには遊んでこいと、親の気遣いだろうが!」
「そういうのを余計なお世話っていうんですよ、父上」
「ううむ……」
「言われなくてもそのつもりだったので」
「!? そうか! なら、確かにいらぬ世話だったな! 仲良くするんだぞ!」
パッと少年のような笑顔を娘に向ける騎士団長であった。
シウスさんが、はいはいと雑に手を振りながら私の背中を叩いた。もう行こうという合図なのだろう。あとの人もいるし、あんまり長居しちゃいけないからね。
待っていたみんなのところに戻って、リヴィちゃんに紹介状を返した。明日また来ようねと言うと、小さく頷いた。
それじゃあ、今度は私たちの仕事の番だと馬車に乗り込んだ。
出発すると、まず、ちょっと野暮用をと、馬車の御者もしてくれているシウスさんが、騎士団長さんの言う通りに一度、私たちを乗せたまま自宅に向かい、着替えてから戻ってきた。
「流石に、騎士団の鎧姿のままで遊びに行くわけにはいかないので……」
そりゃそうだ。
少しだけ出鼻をくじかれた気分だったけど、気を取り直して――
そして、私たちは一路、王都の冒険者ギルド、つまり、この国の冒険者、冒険者ギルドの総元締めへと向かったのでした。




