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シデリアン洞窟編Ⅳ

2025/2/8 改行や細かな表現の改稿

 荷物の回収で一悶着あったけど、無事回収できたので、ロア君たちのところに戻って、パーティーを組まないか提案してみる。幸い、二人は二つ返事でこの提案を受けてくれた。

 やったね、これでもう寂しくない。シャルちゃんには会えないことは変わらないけど。

「あ、あの、ぶ、武器を、な、直しても、い、いいですか?」

 怖ず怖ずと、アイちゃんが私に了承を求めてきた。

 何故私に?

「え? うん。いいけど。でも、直す? それ、棍棒じゃないの?」

「こ、棍棒では、な、ないです。こ、これは、か、鎌の、つ、柄です……」

「鎌? 農具の?」

「は、はい。つ、使い慣れているので、う、受付で、む、無理を言って、か、貸してもらいました」

 見た目ただの木の棒に見えるけど、なるほど、鎌の柄か。

「いやさ、ディティスが来る前に、柄から刃の部分がすっぽ抜けちゃって、それで仕方なく柄で殴ってたんだよ、アイは」

「そうだったんだね。でも意外、アイちゃん、結構アグレッシブな感じなんだ。この、小人みたいなのガンガン殴ってたし」

 地面に転がる魔物の死体を足で小突く。

「ゴブリンな」

「これ、ゴブリンっていうんだ」

「ゴブリンも知らなかったのか」

 普通の人はまず知らないのでは? と思ったけど言わないことにした。

「すみません、田舎者で……」

「田舎者の方が知ってると思うんだが」

 そうなのか。魔物退治は完全に自警団任せだったからなぁ。

「村の外に出ることも稀な村だったもんで、えへへ」

「村から出ないし、たまに出ても同行してる自警団に魔物は完全に任せっ切りって感じか。質の高い村だな、ディティスんとこ」

「そうなの?」

「普通の村は魔物止めの手入れが行き届いてなくて、村の中で魔物が出たりするんだよ。うちがそうだったからな。だから、みんなある程度戦えるように鍛えられるし、魔物を見る機会もそれなりだった」

 そうだったのか。魔物止めの手入れのためだけに外から人雇って住まわせてるのが普通だと思ってた。村長、すごかったんだなぁ。

「そういう事情は分かったけど、それはそれとして、アイちゃんの積極的な感じはやっぱり意外だよ」

「あー、まぁ、初対面の人は、みんなそう思うよな。アイはご覧の通り、喋るのは苦手だけど、大体、顔か行動に出るから。喧嘩とかするともう手やら足やらで雄弁に語りかけてくるよ」

「――!」

 無言で頬を膨らませながら、アイちゃんはロア君の横腹を、鎌の柄で小突いた。結構な強さで。余計な事言わないでと言っているんだって、私でも分かった。なるほど『顔や行動に出る』確かに。私は、アイちゃんとは喧嘩にならないようにしようと心の中で誓うのだった。


「えーっと、それで、鎌を直すんだよね? そういうの出来るの凄いよね」

 とりあえず話を戻そう、大元まで。

「俺たちの実家、鍛冶屋でさ、よく手伝わされてて、そういうのは覚えちゃったんだよ。アイは母さんと近所の人の家の農作業手伝ってたけど。……あ、あった。こんなとこまで飛んでたのか」

 鎌の刃は、私たちが合流した箇所から十メートル程離れたところに飛ばされて、そこに偶然いたと思われる小人――ゴブリンに突き刺さっていた。運が無かったね。


「アイ、柄、見せてみ」

 アイちゃんは柄を手渡し、ロア君はよく観察する。

「あー、締め付け用の金具が緩んでる。歪みは、無いな。良い木使ってんな」

 アイちゃんが後ろから、不安気に直りそうか聞くと、兄ちゃんに任せとけと、ロア君が返した。

 その微笑ましい兄妹のやりとりに、数日ぶりの人の暖かさを感じる私なのであった。

「何、生暖かい目で見てんだディティス。気持ち悪いなぁ。アイ、火を起こしてくれるか? あと、そこらのゴブリンの死体から荷物漁って金属集めてくれ」

「う、うん」

 気持ち悪いとは失敬な。さっき知り合ったばかりの人に言うことかね、まったく。

 まぁそれはそうと、パーティーらしくお手伝いはしないと。この数をアイちゃん一人にはさせられないしね。

 ロア君が出した簡易的な炉に言われるまま備蓄の燃料を注いで、火を点け、ゴブリンを漁りに行く。だけど、リーダー以外は持ち物と呼べるほど物を持っていなかった。

 ゴブリンたちから拝借した剣を持って報告に戻る。

「剣くらいしかなかったよー」

「ベルトの金具とかもなかったのか?」

「うん。ベルトはみんな革製だった。革に穴あけて、蔦で結んでるの。あ、でもリーダーは鎧着てた」

「持ってこなかったのか?」

「皮鎧に銀色の塗料塗ってあるだけだったけど、それでも良いなら持ってこようか?」

「いや、それならいいっす……」

「剣結構あるし、鎌捨てて二人とも剣にするの?」

「それも少し考えたけど、ここまで来て得物変えるってのはちょっとリスク高いかなと思って止めた。そもそも借り物だし、アイも嫌がるだろうし。だから、鎌を直す方向でちょっと頑張る。兄の威厳を見せてやるよ」

「おー、頑張れ、お兄ちゃん」

「棒読みやめろ」

「だって私の兄じゃないし」

 クスクスと隣で、一緒に戻ってきたアイちゃんが笑っている。

 今日のところは、このままここで過ごすことになりそうだなぁ。死体転がってるのは寝覚めが悪いし、片付けよう。

「アイちゃん、周りのゴブリン片付けようか。今日はここで寝ることになりそうだし」

「は、はい。わ、分かりました」

「私に敬語とか使わなくて良いよ、もう仲間なんだから」

「は、はぃ。……う、うん」

 少し表情が和らいだアイちゃんはやっぱり可愛かった。

 違うよシャルちゃん。シャルちゃんは常に天上にいるから、比べるべくもないよ?

 脳内でシャルちゃんに言い訳しながら作業を始めた。


 二人で穴を掘って、ゴブリンを中に放り、燃料を撒いて火を点ける。

「臭い……」

 鼻を突く、食用のそれとは違う、肉を焼く臭いにむせ、私たちはそそくさとその場を離れた。

「鼻曲がりそう。ね?」

「う、うん」


 鎚を振るうロア君を横目に、二人で野営の準備を整えて、食事だよと伝えに行くと、先に食べていてくれと作業をしながら返されて、少しイラッとした私でしたが、アイちゃんは、作業中のロア君のことをよく理解しているようで、いつものことだからと、はにかみながら笑って私を宥めた。

「へ、返事してくれる方が、め、珍しい。きょ、今日は、つ、ツイてる」

「そうなんだ」

「で、でも、へ、返事するってことは、しゅ、集中できてないかも? だ、だから、す、少し、ふ、不安」

「そう、なんだ……」

 大丈夫かね、ロア君。妹さんが心配されてるよ?


 二人だけで先に食事を済ませて、特にやることもなくなったので、ロア君の作業を見学することにした。

 カンカンと鎚を振るう子気味のいい音が響く。

 こういう作業はあんまり見たことが無いから新鮮だ。まさに職人技って感じ……よく分からないけど。


「アイちゃんもこういうのできるの?」

 ただ見ているのもなんなので、アイちゃんに他愛ない話を振ってみる。

 ロア君は、会話にならないと先程のやり取りでわかっているので選択肢にない。

「わ、私は、ぜ、全然……。ほ、包丁、と、研いだりとか、か、家事ぐらいしか……」

「じゃあ、花嫁修業が終わった感じ?」

「は、花嫁修業? そ、そういうのは、な、無いです。お、お母さんの手伝いを、し、していたってだけで」

「あー、アイちゃんはそういうお手伝いが自分から出来る子だったんだー。私はね、村のしきたりみたいので花嫁修業させられてたんだ。それまではそういうのが嫌で嫌で……」

「そ、それまではってことは、い、今は?」

「うん。やってみれば割と楽しくってさー、今は家事の免許皆伝って感じ。でも、お嫁に行くとかは御免だったし、好きな人もいたし、二人で村出てきちゃった。出るときに一悶着あったけど……。まぁそんなこんなで、私は冒険者を始めることにしたの」

 そこまで聞いて、アイちゃんが首を傾げながら問いかけてきた。

「す、好きな人がいたのなら、そ、その人と、け、結婚したらいいだけ、だ、だったんじゃ……? ご、ご両親が決めた相手とじゃなくちゃ、だ、ダメ?」

「あー、違う違う――」

 普通はそうだよね、異性だと思うよね。

 しかし何だね、思いがけず始まったけど、知り合ったばっかの人と、よりにもよって、まさか慣れない恋愛の話になるなんて思わなかったぞ。顔、熱っつい。炉の熱じゃないよこれ!

「――そ、その辺は自由恋愛なんだけどね。その、私が好きな人、女の子なんだ。村は同性の結婚認めてくれないし、好きでもない村の男の人と、本当の気持ち隠して適当にくっ付くことになるくらいなら、いっそ二人で出て行こうよって、私が誘ったの」

 アイちゃんが隣で目を輝かせているのが分かった。

「す、すごい! か、駆け落ち!」

 アイちゃんはぐいっと私に体と顔を寄せてきた。近い近い!?

 私はその勢いに気圧されて、少し身を引きながら返答した。

「そ、そこまで大げさなものじゃないよ。親にも村長にも話したし……。少し前から、お互い変な距離出来ちゃってて、何とかしたいなぁってウジウジしてたら話す機会が出来て、そのときちょっと無理に聞いてみたら、お互い好きだって分かって……。まぁ、そういう流れで村を出てきました。終わり!」

 私が先に告ったとか、そういう細かいとこは端折ったけど、概ね間違ってないからこれでよし!

「そ、その彼女さんは! い、今! ど、どうしてるの!?」

 今までにない大きな声で話しかけられて、私はたじろいだ。こんな声出るんですね、アイさん……。

「急に大きい声出すなよ! ビックリしただろ!」

 ロア君も驚いた。

「あ……。ご、ごめん。ロア、じゃ、邪魔して……」

「いや、別に、集中してたから邪魔じゃないよ。今まで聞いたことないような声の大きさで急に来たから驚いただけで……。気をつけてくれればいいから」

 アイちゃん自身もそんな大きな声が出たことに驚いているようだった。


 話の腰が折れて、これ幸いと、私は話を逸らすことにした。

「そういえば、二人はなんで冒険者に? 鍛冶屋の跡継ぎとかじゃダメだったの?」

「え、えと、そ、それは……」

 アイちゃんはチラチラと、再び鎚を振るい始めたロア君を見ながら、言い淀んでいる。

 あ、これ、何か聞いちゃいけなかったことかも知れない……。

「あー。む、無理に話さなくてもいいよ? 私と同じくらいの子が冒険者になるなんて、色々事情があるだろうし……」

「う、ううん。は、話すよ。ディティスだけ、は、話すのは、ふぇ、フェアじゃないから」

 またチラリとロア君を見て、大きく深呼吸をしてからアイちゃんは話し始めた。

「そ、そんなに、め、珍しい話じゃないよ? わ、私たちの家は、さ、三人兄妹で、み、三つ上の、お、お兄ちゃんがいるの。あ、跡継ぎはもう、そ、そのお兄ちゃんに決まっていて……。ま、魔王軍との戦いで、ふ、増えた税金で、う、うちはちょっと、せ、生活が厳しくなっちゃって。そ、それで、く、口減らしに、い、家から出されました。そ、それで終わり」

 うぅ、やっぱり結構ヘビィな事情だった……。

「そっか。なんか、私の話がバカみたいに思えてくるね。ごめんね、辛い話させちゃって……」

 アイちゃんは気にしないでと首を横に振ってくれた。優しい。


 ここで少し疑問が生まれたので、一呼吸置いて私は聞いた。

「でも、戦時中は鍛冶屋って儲かるんじゃないの?」

「か、鍛冶屋は、その、ま、魔王軍にも武器を納めているという、か、仮定で、ぜ、税金が多めに取られてるの。せ、戦場で放置された武器は、ま、魔王軍に接収されて、つ、使われているだろうから、お、納めているのと同じだって、り、理屈らしいの」

「何それ、負けてる軍が悪いのに」

「ぐ、軍は、お、王国直轄の、ぶ、武器工廠があるから、わ、私たちの実家みたいな、こ、個人の鍛冶屋さんの作ってる武器は、せ、戦場に出ないの」

「え!? なお悪いじゃん!」

「う、うん……」

「あ、ごめんね、アイちゃんに言ってるわけじゃないからね」

「う、うん。わ、分かってるよ?」

「おし、できた!」

 気まずい雰囲気を切るように、ロア君の溌溂(はつらつ)とした声が割り込んできた。

「ほら、アイ。鎌、直ったぞ。壊れる前よりむしろ丈夫なくらいだ、兄ちゃん会心の出来だぞ! と言っても、研ぐのはお前の方が上手いからやってくれよな」

「う、うん。あ、ありがとう、ロア」

 アイちゃんは、鎌を大事そうに持って、刃を研ぐために、駆け足で泉の方まで向かっていった。


「で、何の話してたんだ?」

 作業に集中していて聞こえていなかったのだろう、私たちの会話内容をロア君は尋ねてきた。

 言ってもいいけど、別に楽しい話をしてたわけでもないし、ここは誤魔化すことにしよう。

「何でもない、何でもない。女の子の内緒話を聞こうなんて、デリカシーがないぞ、ロア君」

「真横で話していたくせに何が内緒話なんだ……」

「細かいこと言ってると、女の子にモテないよ」

「わかったよ、もう聞かないよ。それより、腹が減ったなぁ。何か余ってる?」

「余ってるどころか、ロア君の分が丸々残ってるんですけど、お鍋や食器洗いたいから早く片付けてもらえます? というか、洗うところまでやって貰えます?」

「なんか、すいませんでした」


 ロア君に食事を片付けさせて、寝る準備をする。丁度、アイちゃんも戻ってきた。

「交代で見張りながら眠ろう」

「見張り?」

 ロア君は耳慣れない言葉をお使いになる。私はこれまで一人だったから当たり前なんだけど。

「そういえばディティス、お前ここに来るまで寝る時はどうしてたんだ?」

「どうって、火を多めに焚いて、こうやって、寝てた」

 言いながら私は、寝袋に入ったまま、膝を抱えるような座り方をして、そこへ自分が使っていた盾を両側から立てかけた。

「背中は壁とかおっきい岩とかに預けてね、正面には焚火があるみたいな。お尻はちょっとひんやりだけど、防水のシートあるし、塗れはしないよ」

「見た目は完全に金属板の下敷きになってる人だなこれ。お前、それ苦しくないか?」

 ごもっともなことを仰る。

「少しね。でも安全と天秤にかけたらこれくらいは許容の範囲って感じ?」

 やせ我慢とかではなく、本当に少しだから。いや、ホントホント。ディティス、ウソツカナイ。

「今日からは交代で火の番しながら寝るから、それ、もうしなくてもいいぞ」

 やったー! もうこんな窮屈なベッドとはおさらばだー!!

 なーんて口が裂けても言わない。女には女の見栄ってのがあるのよ。

「火の番って言っても、消えることの方が稀じゃない?」

 上がるテンションを隠しながら言う。

「俺たちも入ってからずっとやってるけど、消えたことは確かに無いな……。でも、火を怖がらない魔物が今後出てくるかもしれないし、習慣づけておいて損は無いだろ」

「百理ある」

「なんだそりゃ?」

「一理の百倍くらいあるから」

「変な造語を作るな」

 いかん、下敷き状態から解放される嬉しさで、テンションが隠し切れていない。だめだ私。


 ロア君が周囲を見回して、首を傾げながら私に聞いた。

「なぁ、ディティス。お前のテントはどうした?」

「テント?」

 一瞬、何を言われたのか分からなくてキョトンとしてしまった。

「あーあー、そんな物もあったね。一度も使ったことないから忘れてたよ」

 そうして自分のリュックを漁る。底の方に押し込められた大きめの袋を見つけた。

「あー、これか。なんか棒が入ってる」

「それだそれ。建て方分かるか?」

 そんなもの知るわけもない。野宿自体がこの試験が始まってから初めてなんだから。

「その顔は知らないな」

「……はい、分かりません。教えてください」


 ロア君に自分のテントの設営を手早く終わらせて、私の手伝いに来てもらった。

「この試験終わった後も、日常的に使うことになるかも知れないから、ちゃんと覚えろよ?」

「はい、がんばります……」

 手順を覚えられるようにゆっくりと、パーツの説明なんかも交えながら丁寧に教えてもらった。これで覚えられなかったら私は猿以下の知能だねってくらい丁寧だった。

「ありがとうロア君、たぶん次からは大丈夫」

「おう、分かんなくなったら遠慮なく聞けよ」

「はい、ありがとうございました」

 深々と頭を下げる。

 そして、上げた頭で提案する。

「交代の見張りだったよね? じゃあ、最初の見張りは私やるよ。お礼と言っちゃあなんだけど」

「お、そうか。悪いな、じゃあ遠慮なく寝させてもらうわ。二時間くらい経ったらどっちか起こして代わってくれ」

「はい。お休みなさい、お頭!」

「誰がお頭だよ! お休み」

 ふと、視線を感じて振り向くと、アイちゃんが申し訳無さそうにこっちを見ていたので、気にしないでと、テントに押し込んであげた。

 押し込む直前にアイちゃんが言った。

「つ、次は私が、み、見張りたい。ロア、つ、疲れてるから。ね、寝させてあげたい」

「了解。お休み、アイちゃん」

「お、お休みなさい」

 いい兄妹だなぁ。お互い助け合って生きてるんだなぁ。今までも、これからも。



 一人ぽつんと、火の前で座っていると、思い出すのはシャルちゃんのことばかりで。

「シャルちゃん、今何してんだろ。ちゃんとご飯食べてるかな?」

 そんなことを考えつつ、夜はふけていった。


 いや、本当に夜かは分からないんだけどね……。


 二時間程を目処になんて言われても、体感でしかないわけで、燃料も足す必要は無さそうだし、魔物は出ないし、虫は寄ってこない。

 退屈すぎて睡魔が襲ってくるのを耐えて、もうこのくらいでいいんじゃないかなと思ったけれど、次がアイちゃんだったことを思い出して、もう少し頑張ってみることにした。

 炎の揺らぎを見て、いい加減、睡魔も限界だなと思った頃に、アイちゃんと代わってもらった。


 久しぶりに横になって眠った。

 地面は冷たくて固いけど、やっぱり体を伸ばして眠るのは気持ちがいい。なにせ、起きたときの爽快感が段違いだ。寝たって実感できるのがすごく良い。

 そんな感じに起きたわけでありますが。

「もう一回見張りする?」

 ロア君に起こされて、一巡終わったこの状況でどうするか尋ねた。

「んー。いや、起きて進もう。寝た時間はみんな同じくらいだろ?」

「そうだね。じゃあ、アイちゃん起こしてくるよ」

「頼む」

 アイちゃんのテントに入る。

 寝たり起きたりで、まとまって眠っていなかったアイちゃんを起こすのは忍びないけど、心を鬼にしないと。

「アイちゃん起きてー。出発するってよー」

「んー~。お母さん、後少し……」

 寝言だと言葉詰まらないんだ……。

 いやいや、そうじゃなくて、誰がお母さんか!

「アイちゃーん、お母さんじゃないぞー。起きろー」

「んん~。ん?」

 薄目が開いたアイちゃんと視線が交わった。

 見つめ合うこと、約二秒。

 ボン! と、アイちゃんの顔が真っ赤になって、慌てて寝袋のまま起き上がった。

 そのまま立ち上がろうとしてバランスを崩す。

 それを受け止めようと手を伸ばす私。

 キャッチはしたものの、体勢が悪く、下敷きになるように倒れ込む。

「なにやってんだお前ら。遊んでないで準備しろよ」

 物音が気になって見に来たロア君に、やれやれと窘められる、前衛的オブジェのような体勢になっていた私たちであった。

「ご、ごめん。ディティス……」

「こっちこそ支えられなくてごめんね、アイちゃん。後その、背中から下りてくれるとありがたいんだけど……」

「ああ!? ご、ごご、ごめんなさい!」


 さて、些細なハプニングはあったけど、それはそれ。

 野営道具を片付けて、軽く食事をとり、いよいよ出発だ。

 私にとって、多分、五日目の朝。今日からは、三人での道行きとなる。

 ロア君たちと合流できた事で、いくらか心に余裕が生まれた。

 何せこれまで一人だったわけで、人恋しさと不安で心が安まらなかったんだから、ここで合流できたのは大きい。しかも二人も!


 しかも二人も!!



 道中の戦闘では、ゴブリンなどの人型の魔物が増えてきた。

 みんな当然のように武器を持っていて、戦い方は三日目までのそれとは大きく変わった。

 最初のうちこそ、今まで通り、各々の戦闘スタイルのまま戦っていたんだけど、相手も集団になったことで、当然、チームワークで対処してくるようになった。

 そうなってくると、一人や二人だけでは危なくなる場面が出てき始めた。

 これに対処しようと、自然、三人で連携を取るようになった。

 私が文字通りの盾役として、敵の攻撃を受け、流し、隙を作って、ロア君とアイちゃんが攻撃。

 お互いの隙はお互いで埋め合う、連携の基本を体で学んでいった。


 ロア君の双剣は、いかにも我流といった荒っぽい立ち回りだけど、左手の剣での防御が器用で、攻撃も、日ごろ鎚を振るっている右手の攻撃は重い。

 斬るっていうよりも、叩き切るって感じだけど……。


 アイちゃんの鎌は、ロア君の改造とも言える修理で、元々が農具だったとは思えないほど、武器としてちゃんとした物に生まれ変わっていて、アイちゃん本人の習熟度から、危なっかしさは感じられなかった。

 アイちゃん自ら研いだ刃は鋭く、鎌を振るたびに魔物の首が二、三個同時に転がった。

 その光景を見て、アイちゃんとは絶対喧嘩しちゃいけないと思った。将来旦那さんになる人は大変そうだ。


 私の盾捌きは、今までは自分一人を守っていればよかったものから、パーティーメンバーを守るための立ち回りに変わってきてはいるけど、攻撃に転じたときの、その一撃の重さは変わらない。防御から攻撃、攻撃から防御へ移るタイミングの見極めが煮詰まってきたのか、この数日で、攻守揃ったオールラウンダーへと成長したと自負している。

 うーん、言いすぎかな? ちょっと調子乗ってるかも、私。気をつけないと。


 そして、私がこの洞窟に入って九日目、私たちは、剣戟の音を聞いた。

 これまでよりも数も多く、そして大きい。

 音の方へ向かった私たちが見たものは、本当に洞窟の中なのかと疑うほど広大な窪地と、そこで戦う冒険者と魔物たち。

 さながら、戦場と形容できる光景だった――。

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