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キャラバン護衛編ⅣⅩ アレイスターの回想②

「まず始めに、このとき、この場において、私の言葉は、陛下の言葉と同義と心得よ」

 騎士団長の言葉に全員が礼をして、異議のないことを確認する。

「陛下は此度の件、大変嘆いておられる。領地の奪い合い。それ自体は、別に珍しいこともない。今回もその延長線上のものだと静観していたが、まさか、このような、人を人とも思わぬような行いをしていようとは思いもしなかったと。此度の告発者は、黙して手を挙げよ」

 俺が手を挙げると、隣りに座っていた親父がぎょっとした。

 騎士団長は確認すると、誰何(すいか)した。

「名を」

「アレイスター=ウィールにございます」

「ふむ……ウィール卿。私の思い違いでなければ、この者はそなたの御嫡男であると記憶しているが、いかがか?」

「は、はい。(ワタクシ)めの愚息にございますれば、間違いのうございます」

「愚息などと、(へりくだ)ることはなかろう。王立魔法学園を主席、それも歴代最高成績で卒業とは、誇るべきことである」

「もったいなきお言葉、痛み入ります」

「まぁ、それはそれとしてだ。なぜこのような非道な行いをさせた? それも実の息子に」

「そ、それは……」

「告発文の通りであるならば、ラム家の滅亡、一族郎党を皆殺しにするためとあるが?」

「……」

 親父の顔から玉のような汗が(こぼ)れる。

「沈黙は肯定と受け取るが?」

「……ッ」

 口をパクパクと鯉のように開閉し、何か言いたげではあるが、言葉が出てこない親父は、結局、ただただ項垂(うなだ)れることしかできなかった。

 まぁ、全部真実なのだからしょうがない。

 それにしても、でまかせの一つも言えないとは、嘘をつくのが下手すぎるだろ、俺の実父……。俺に脅しをかけてたときの不遜な感じはどこにいったのやら。

「ふむ。沈黙ということは、この、国際交戦法の規定を国内の紛争でも守るのはただの慣習ゆえ、律儀に守る必要などないと述べたのも事実ということでよろしいか?」

 またも親父様は沈黙。

 親父が俺に恨みの視線を向けてくるが、悪いのはお前だろうと、俺は意に介さない。

 権威を振りかざせる相手には横柄に、自分より強い権威の前では(だんま)りと。その程度の人間だったんだな……。

 俺、昔は尊敬してたと思うんだけどな、この人のこと。でも今は、軽蔑すらしている自分がいる。

「では、この告発文の信憑性はかなり高いものとして続ける」


 今度はラム家側に対して、騎士団長の詰問が始まった。

「ラム卿。告発によると、そちら側の軍が、先に(くだん)の罠を使ったとあるが、相違ないか?」

「恐れながら、騎士団長殿。お尋ねしても?」

「なんだ?」

(くだん)の罠とは、如何様(いかよう)なものなのか、伺ってもよろしいでしょうか? (ワタクシ)めにはとんと見当がついておりませぬゆえ」

「な!? 領主様!? ど、どういうことですか!?」

 隣りにいた青年が、驚愕して立ち上がった。それを騎士団長が(たしな)めて、再び着座させる。

「ラム卿。本当に承知していないのだな?」

「はい。此度の出頭も、私としては寝耳に水。魔法の罠を使った者と共に来いという話でしたので、魔法の罠といえば誰だと兵に聞いて上がった名前の、此奴と参上した次第。肝心の罠についてはなんのことだかさっぱりで、ええ」

「ほ、本気で、言って、い、いるの、ですか……? 領主様」

「黙れ平民。貴様のことなど知らぬ。全く、余計な手間をかけさせおって。いい迷惑だ!」

「な……!?」

 十中八九、ラム家の当主の言葉は嘘だろう。だが、それを証明するのは不可能に近い。この、絶句している青年が、その証拠を持っているとも思えない。

 騎士団長は、生きた人間を使った罠について説明すると、ラム卿は、これまた大袈裟な身振りで嘆いてみせた。

「なんと! なんと(むご)いことを! 同じ人間とは思えぬ。これを実の息子に強要したウィール卿の罪のなんと重いことか! そうは思いませぬか、騎士団長殿?」

「全くもって同意できるが、先に使ったのはラム卿の側のその男だという話だが?」

「私は何も存じ上げてはおりませぬ。もし知っていれば、告発者の名前は私になっていたでしょう!」

「その男の独断だと?」

「恐らくは、功を焦ったのでしょう、下賤な平民ゆえ、手っ取り早く戦果を上げるためかと」

「そうなのか?」

 騎士団長が青年に尋ねる。

「いえ、それは……」

 青年の目が泳いでいるのが俺が横目で見てもわかる。

「申してみよ」

「武功を求めたのは事実です。手柄を上げ、ウィール家を滅ぼせた暁には、土地と財産をやると、お約束していただいてましたから……」

「ラム卿。面識はないという話だったが? どういうことか?」

「面識などございません。ですが、兵士の募集のチラシにそういった文言を書いてございますので、それのことかと。これ、この通り」

 ラム卿は、用意周到にも、ご丁寧にチラシの現物を持ってきて、騎士団長の目の前で広げてみせた。

「確かに、同様の文言が書いてあるな」

「そんなチラシ初めて見たぞ!? 領主様どういうことですか!? 守ってくださると仰って――」

「ええい、放さぬか痴れ者め! 戯言(たわごと)も大概にせぬか! 貴様の妄言のおかげで私が恥をかいているのだぞ!!」

 組み付き揺さぶる青年をラム卿が突き飛ばした。

「戯言? 妄……言? そ、そんな……。全部、全部嘘だったのですか?」

「嘘は嘘だろうよ。全て貴様の頭の中の話なのだからな!」

「う、うぅ……。うわあああああああ!! 貴様ああああああああ!!」

 泣き、暴れだす青年を、騎士団長のハンドサインに応じて動き出した周りの騎士が、素早く組み伏せて両手足を縛り、猿轡を噛ませた。

「感謝します、騎士団長殿。まったく、なんて野蛮な男だ。このような者が我が兵に紛れていたとは……これだから平民は」

 そう言って、ラム卿は(うやうや)しく頭を下げた。

 腹芸が上手いなんてものじゃない。相手が悪すぎる。俺の親がこっちじゃなくてよかったと心底思った。ラム卿が親だったら、言い訳できようもない証拠を持っていなければ、そこに組み敷かれていたのは俺だったかもしれない。

 それにつけても、俺の親は下手にもほどがあるが……。

 あれだけ俺に高圧的だったのに、いざとなったら、(だんま)り全肯定おじさんに成り下がるなんて思いもしなかった。


 しかしだ。それにしてもラム卿の準備が良すぎる。

 俺からの告発文で来訪した騎士団長一行は完全に抜き打ち状態。俺もいつ来るか、なんなら実際に来てくれるかどうかもわからなかった。それなのに、兵員募集のチラシや、知らぬ存ぜぬの態度にセリフ……。

 この男、戦後のこの青年の扱いまですでに考えていたということだろう。最初からこの青年は使い捨てるつもりだったと。それが、今回の件で少し早まっただけと。いや、ホント、こいつ側じゃなくてよかった……。

 将来的なことを考えたら、言質が証拠として残るような、録音機をうんと小さくしたものが欲しくなるな。機械じゃこっそりとはいかないし、そんな感じの魔法陣を組めないだろうか? 色々片付いたら――っと、処刑もあり得るんだった。今はよそう。


「では、此度の件について沙汰を下す!」

 騎士団長が声を張った。

 俺たちは、青年を除いて、椅子の上で姿勢を正す。

「まず、アレイスター=ウィール。人道上許されざる行いをしたことには変わりなく、罰を受けるのは必定である。が、告発文を送った本人でもあり、その文面から、父に強制されただけで、本意ではなかったと判断できる。よって、アレイスター=ウィールには廃嫡を言い渡すものである。新たな姓を名乗り、別人として生きよ。そして、彼の者は今後、どのような功績をあげようと、爵位を得ることはない。国からの表彰や褒賞も、国家の運営する施設や軍の正規職員、軍人、騎士として雇用されることもない。また、罪の意識を失わせないよう、ウィールの姓はミドルネームとして残すように。以上だ」

 座ったまま深く礼をする。

 あれ、死ななくていいの? 簡潔に言うと、家を追い出されるだけ? 喜んでいいんだよな、これ。よし、後で喜ぼう!

「次に、ホーエン=ウィール卿。人道を顧みぬ戦法の勧奨をし、(あまつさ)え、国際法規の軽視、違反を良しとする発言は到底許されるものではない。これが我が国の栄えある大領を任された責任者のものであるなど、到底看過できない! その言動、行いは、我が国、ひいては王家、陛下に対してへの甚大な名誉を毀損するものであると知れ! よって、ウィール家から爵位を剥奪。当主であるホーエンには処刑を言い渡すものである。場所は王都内、コロッセオにて衆人環視のもと行われる。それまでホーエンは拘束、牢に入ってもらう。日時は当日まで知らせぬものとする。他の家族については追って知らせを送る。引っ立てぇ!!」

 こうして親父様は、騎士たちに拘束、連行されていったのだった。最後まで口を横に噤んで何も言い返しもしなかったのは印象深い。

 その様子をニヤニヤと笑いながら見ているラム卿を見て殴りたくなった。

「次に、ヴォイド=ロジャー。最初に外道下策たる戦法を使い、命の保証をすべき捕虜をいたずらに殺した。これは虐殺行為に他ならない。よって、ホーエン同様、処刑を言い渡す。連れて行け」

 非常に簡素だが、それが余計に残酷な判決だった。平民だから特段奪えるものも無いから、ということなのだろうが、もう少しなにか言ってやっても――ん?

 騎士団長が、青年、ヴォイドを連れて行こうとする騎士に、何やら耳打ちするのが見えた。口元を隠していたから何を言っているのかはわからなかったけど……。

 話し終わると、礼をしようとする騎士を止めてそのまま行かせた。

「では、最後に。モルト=ラム卿。貴殿には、兵を統率、管理する義務があるにもかかわらず、今般問題となった魔法兵、ヴォイド=ロジャーの管理が行き届いていなかったことは監督者として恥ずべきことである。また、この者がしでかした戦争犯罪行為は、本来ならば、貴殿へ真っ先に報告が上げられ、それを止めさせ、拘束するように指揮権を発揮するのが最大かつ、最重要な職務であったはずだ。貴殿はそれを怠り、犠牲者をいたずらに増やした。あげく、その者を知らないとまで(のたま)った。これは統帥権の放棄の表れであり、一軍を率いる将としての資質を欠くものである。西側の領は、忌々しい魔族との戦いの前線であるから鑑みても、貴殿にこの領の大領主を務めさせるのは、能力不足であると言わざるを得ない!」

 ラム卿の顔が徐々に青ざめていく。傍目で見ている分には面白すぎる。

「よって、ラム家から大領を没収。爵位を男爵まで降格する。これにより、西側大領は領主不在となるため、西側領は、次の大領主が決まるまで、暫定的に王家とセイル家で管理するものとする。以上だ。これを以て、今般の戦争犯罪裁判の全判決とする」

 ラム卿の顔は、青を通り越してどどめ色だ。あれ、生きてる?

「おおおおお待ち下さい! 領地没収だけでなく、爵位までとは重すぎではありませんか!?」

 騎士団長に詰め寄るラム卿だったが――

「沙汰は下った。お引取りを」

 取り付く島もなく、あしらわれ、騎士団長は去っていった。俺も、ラム卿と一緒なのが気まずくてすぐに外へ出た。


 それから俺は家族に最後に別れを告げに一度家に戻り、そのまま流れるようにカンブリアへ渡って冒険者になる手続きをした。

 家族には引き止められたけど、俺自身がもう、あの家自体が嫌になっていたから、本当に簡単な挨拶だけして家を出た。その時から俺はクロウリーを名乗り始めている。


 カンブリアへ向かう道中に立ち寄ったデボンという村で、腕のいい鍛冶屋があったので、そこで、ずっと考えていた、生きた人間を使った罠からの救助道具を作ってもらった。ツケで……。今も返済し続けている。

 使う日が来ないことを願っていたが、まさか使う日が来るとはこのときは思っても見なかったなぁ。

 あと、この村に滞在中、旧ラム領で捕まった犯罪者が逃げ出したらしいという噂と、旧大領主ラム家の人間が賊に皆殺しにあったという報せが流れてきた。

 今思い返せば、あのとき騎士団長がしていた耳打ちは、ヴォイドをわざと逃がして復讐をさせようという企みのものだったのだろう。

 今、その逃した男がとんでもない凶悪犯罪者となってしまったことについては言いたいことはあるが、騎士団長は少なくとも、あのとき、あの場で嘘をついていたラム卿を野放しにするつもりがなかったということだろう。


 なんてことを、盗賊の頭目の男、ヴォイドの死体を見ながら思い出した俺は、己の過去を、置き去りにするように、外へと駆けたのだった。



――三年前、王城内。

 騎士が一人、中庭で王子と娘の稽古をする騎士団長のもとへと駆けつける。

「殿下、少し休憩しましょう。シウス、殿下と少し遊んできなさい」

「はい、父上。行きましょう殿下」

「やれやれ、ようやく体が温まってきたところだったんだが、仕方ないか。座学にでも行くか、シウス」

「はい」

 父――イージスが遊んでこいと言うときは、大事な仕事の話があると娘――シウスは理解していた。

 シウスは、言われた通り、殿下――クガルーアとその場を後にした。


「首尾は?」

 騎士団長の顔になったイージスが部下の騎士に尋ねる。

「は。(つつが)なく」

「そうか。では、ラム卿は――」

「はい。一家全員とのことで」

「派手にやってくれたな。男は確保したか?」

「それは、申し訳ありません。撒かれました。尾行に気づいていたようで……」

「そうか。まぁいい。もともとそちらは期待してなかった。あれはあれで、かなりの魔法使いだからな」

「そうなのですか?」

「ああ。何せ、アレイスターが出てくるまで、魔法学園で歴代最高成績を修めていたのは、あのヴォイド=ロジャーだったのだ。数年の間らしいがな」

「惜しい人材でしたね」

「まったくだ! ラム卿め、余計なことをしてくれた。おかげで優秀な魔法使いを二人も処罰する羽目になった!」

「それで、あの男に復讐をさせたので?」

「それもあるが、ラム卿、裁判のあの席で見え見えの嘘をついただろう? それも平気で。私は冒頭ではっきりと、陛下の前にいるのと同じだぞと言ったにもかかわらずにだ。あの場で嘘をつくということは、陛下に嘘をついたのと同義ということ。つまり、国家への反逆の兆しだ。野放しにしておくわけにはいかない。それに――」

「なんです?」

「もともと陛下も、西側の領について、ラム卿を引き摺り下ろしたかったようだしな。都合がよかった。ウィール卿は完全に巻き添えだったがな」

「今回のことで、セイル家がまた大きくなりますが」

「それは心配いらん。あそこは忠臣も忠臣。増長などありえん話だ。しばらく東西両面の守りを一手に担うことになるが――」

「それはもともと変わらないのでは?」

「確かに! 今度酒でも送ってやろう」

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