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キャラバン護衛編ⅣⅩ

 目元を真っ赤にして寝息を立てるリヴィちゃんをユニエラちゃんに託して、私は、装備を付け直した。

 そして、アイちゃんが付けてくれていた目印を頼りに、来た道を戻り、私たちは地上へと、帰還を果たした。


 地上の盗賊たちの残りは、私たちがアジト内に潜っている間に、その(ことごと)くを冒険者に討ち滅ぼされ、死体の山となって隅の方に積み上げられていた。

 アジト前の広場には、メルコさんや、ジークフリートさんなど、キャラバンの人たちも到着して、火が炊かれ、食事の準備がされ始めている。

 その傍らでは、キャラバンの医療班が、テントを建てて、人質だった女性たちの診療をしているそうだ。

 テントの外に並んでいる女性たちの表情は、警戒心が解けないのか、いまだ険しく、キャラバンの人に貰ったのであろうマグカップを恐る恐るといった感じで啜っている。


 私とユニエラちゃんは、リヴィちゃんも診てもらおうと、そちらへ赴いた。

「お願いします。この子で多分最後です」

「ありがとう。はぁ、こんな子まで……。なんて(むご)いことを……」

 列整理をしていた女性が、大きく溜息を吐いて顔を(しか)めた。

 ここでは、簡単な外傷の手当だけして、本格的な治療や検査は、王都に着いたら、騎士団経由で優先的に医者に診てもらえるように、それぞれの女性に紹介状を渡しているそうだ。


 ユニエラちゃんが、リヴィちゃんを女性に引き渡そうとすると、そこでリヴィちゃんが目を覚まし、大きく泣き始め、それを拒絶した。


 もう泣かないようになんて願っておいて、早速泣かせてしまった……。きっと、また、なにか嫌なことをされると勘違いしたのだろう。

 私は、その場に盾を突き立てて外し、二人の間を割って、リヴィちゃんの目の前に顔を出した。

「大丈夫。大丈夫だよ、リヴィちゃん。お医者さんに手当してもらうだけだから」

「お、お姉さんは、わた、私を置いて、どこにっ行くのっ!?」

 しゃくり上げながら私に詰めるリヴィちゃんの瞳は真剣だ。

「どこにも行かないよ。王都までは一緒にいるから」

「その後は!? 私を一人にするの!? 王都に戻っても、お医者様に診てもらっても、お家にはもう誰もいないのに、私は、一人でどうしたらいいの!?」

「……ッ」

 まくし立てるリヴィちゃんの勢いに圧され、言葉に詰まってしまう。


 孤児は奴隷商に出すのが、本人の収入にもなり、読み書き計算や、マナーなどの教養も身に付けられる、最近では一般的な引取先だと、今回の依頼で知った。でも、その教育の中では、娼婦も務まるようなことも教わる。なら、そういった行為による事件の被害にあったリヴィちゃんには到底無理な話だ。奴隷商の教育施設が、そういう個人の事情を汲んでくれるのかは分からない。仮に汲んでくれたとして、そういう教育をできないのなら買えない、となる可能性も十分ありえる。そうなれば、リヴィちゃんはいよいよ行き場を失ってしまう。


 私は、軽々しく、この子を引き取るなんてことは言えない。私だって、ついこの間、成人を迎えたばかりの十五歳の小娘だし、今は、自分とシャルちゃんの食い扶持を二人で稼ぐだけでも割とカツカツなんだ。


 引き取るとは簡単には言えない。でも――

 だとしても――!

 リヴィちゃんがそんな私の家計の事情だとか、奴隷商のことだとか、正論並べて納得できるはずもないし、何よりも、私自身が、この子を一人にしておきたくない!


 シャルちゃん、怒るかなぁ……。

 いや、シャルちゃんはそのくらいで怒るような子じゃない。それを一番よく分かっているのは私じゃないか!

 よし、私自身の腹は決まった。無いとは思うけど、シャルちゃんが万が一、億が一怒ったりしたら、最悪、土下座でもなんでもやってやろう、うん!


 そして、あともう一人、確認しなくちゃいけない人がいる――

 ユニエラちゃんだ。私のもう一人の大切な人。別に同居してるわけじゃないし、する予定も今のところないけど、彼女にもちゃんとお伺いを立てなければ。幸い、すぐ目の前にいるしね。


 というか、リヴィちゃんのことより、ユニエラちゃんについての方が怒るんじゃないかな、シャルちゃん……。土下座は確定として考えておこう……。


 ユニエラちゃんの顔色を伺うようにおずおずと見ると、そんな私の表情を鼻で笑って、(ほが)らかな顔で優しく答えた。

「ディティス様のご随意(ずいい)に。(わたくし)は、ディティス様のお気持ちを最大限尊重いたしますわ。何より、私自身、ディティス様と同じ気持ちでしょうから。諸々のことはお気になさらず、どうぞ」

 ユニエラちゃんからの後押しもあって、私の心のつっかえは取れた。


 ……諸々? まぁ、今はいいか。


 私からの返答が無く、不安で押しつぶされそうになりながら涙を流すリヴィちゃんの顔を真っ直ぐ見て、私は笑顔で答えた。

 ――待たせてごめんね。

「リヴィちゃん。私決めた。一緒にいるよ、王都に着いた後も。これからは、私と一緒に暮らそう!」

 リヴィちゃんは、大きく頷いて、ユニエラちゃんの腕の中から、私に両腕をのばし、私はそれを受け入れて抱きしめた。

 リヴィちゃんの涙が肩口を濡らす。

 今度の涙は、悪い気はしない。

 胸の奥が、暖かくなっていくのを感じた。

今回からサブタイトルの番号の振り方を漢数字式にしました。

使う数字はローマ数字のままですけど。

Ⅹを3つも4つも並べるのが面倒くさくなったので……。


じゃあ算用数字でいいんじゃないかって?

ローマ数字の方がかっこいいじゃないですか! ということで一つ。

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