キャラバン護衛編ⅩⅩⅩⅧ
また、何度か人質だった女性を助けた。上に引っ張ってこられていた、私と同い年くらいの女の子もその中にいた。
助けた人を外へと連れて行ってもらっている冒険者たちにも、もう何度か往復してもらっている。
なんでこの人たちは、道に迷わず合流できてるんだろうと疑問に思っていたけど、アイちゃんが、来た道が分かるように、壁に鎌の石突きで線を彫り入れていた。しっかりしてるなぁ。
助けられた人もいれば、当然、助けられなかった人もいる。そのいずれも、見つけたときには既に亡くなっていた。
一番酷かったのは、上半身が完全に吹き飛んで、通路の天井から壁、床に至るまで、血液と臓物と肉体の破片で赤黒く染めていた遺体だった。
流石に、こればっかりは我慢しきれずに、同行していた冒険者一同、アーサー君やシーリーズさん、シトラスさん、アレイスターさんに至るまで、手近な部屋に駆け込んで嘔吐していた。
私たち、ロックイーター被害者の会一同はというと、幸か不幸か、このくらいの血液量と臓物の臭いには、あの洞窟内でそれ以上のものを見て慣れてしまっていたので、吐くことはなかった。気分こそ最悪であることに変わりはないけれど。
その遺体は、あとでそこを通ることになるであろう、救助した女性のことを考えて、私たちで片付けた。
アレイスターさんが、何度目かになる走査魔法を使った。その結果は、生きている人間の反応が二つ。それ以外に反応はなく、それが頭目と、最後の人質か、盗賊の仲間の残りだろうと目星をつけた。
いよいよ尻尾を掴んだ私たちは、急ぎながらも慎重に、罠を解除しながら、目的地へ向かった。そして――
女性の嬌声が、通路の先の部屋から聞こえてきた。どうやら人質の方だったようだ。
「いやっ、やめてええ!! 痛いっ! 痛いのお!! 助けて! 誰かあ!」
「畜生! なんでっこんな! 折角っうまくいってたってのに!! あのっガキどもっ!! くそっ!」
泣き叫ぶ女性の声。そして、それに混ざってパシンという破裂音。その音が聞こえると、ほぼ同時に女性の一つ高い声の悲鳴が上がる。恐らく、女性を鞭か何かで叩いているのだろう。
「絶対復讐してやるぜ、あのガキ! そのために今はここで隠れてやり過ごす。罠もたんまり仕掛けた。起動の兆候もあったし、何人かは仕留められたはずだ。万が一の人質もいる。へへ、まだ俺の運は尽きちゃいねぇ!」
こんな状況で余裕ぶっこき過ぎじゃないと思ったけど、そっか、もう逃げられると思ってるわけだ、あの髭親父。
――逃がすわけないじゃん。
アレイスターさんが最後の罠の確認をする。周到なことに、部屋の入り口にしっかりと拵えられていた罠を、アイちゃんが鎌で無力化した。
そして、間髪入れず、シトラスさんが、愛用のジャマダハルを手に突入した。
直前まで、復讐だのなんだのとイキっていた頭目の男の声がピタリと止まった。どうやら一撃で終わったらしい。なんだ、私がついて行くまでもなかったじゃないか。そう思ったその時だった――
突如、女性のものと思われる叫び声と、何かをひっくり返すようなとても大きな物音が部屋から聞こえてきたのだ。
私たちは、中にいるシトラスさんと人質の女性の安否確認のため、急いで部屋に立ち入った。そこには――
部屋の家具のようなものや小物、食料の備蓄された樽などがひっくり返って壊れ、散らばり、その部屋の中心で、既に息のない盗賊の頭目の男の体を、その男の持っていたナイフで、一心不乱に滅多刺しにしている女性……と言うには若い、部屋の外から聞こえた声の印象よりずっと若いというか、幼い、見た目、私よりいくつか年下であろう、ボロ布を纏った女の子がいた。
その子は、男の返り血で、全身、赤黒く染まっていた。




