キャラバン護衛編ⅩⅩⅩⅤ
今回の依頼中、暴れ足りなかった冒険者たちの勢いは凄まじくて、あっという間に、盗賊の構成員たちの数は減っていった。
私はというと、シトラスさんと一緒に無精髭の頭目の身柄を探していた。
もしかしてもう誰かに倒されてるんじゃないかなと死体を検分もしたけれど、その中にもいなかった。
頭目に投げつけた盾の回収もしたころには、いよいよ、アジト内部ぐらいしか探していないところはなくなった。ここにいなければ、もうこの深い森のどこかに逃げたということになる。もしそうだったらどうするのかと、シトラスさんに尋ねたら、そこは流石に諦めてくれるそうだ。
そういえば、人質の女性たちを見ていない。
彼女たちを鎖に繋いで引っ張ってきた男たちは、戦端が開かれて早々に、シトラスさんが始末していたはずだけど、その後どこかに逃げたようには見えなかった。
「つーことはよ、ディ、ディティス……」
なんでちょっと名前を言い淀んで顔を赤らめるのか……。魔法薬の口移しがそんなに恥ずかしかったのかな? 結構遊んでる感じに本人言っていたのに、なんでキスぐらいでその反応?
「あのオヤジ、女たちをまた人質にして、あん中に立て籠もってるっつー可能性なくない? ディティスぅ」
「多分、そうだと思います。他の冒険者の人が保護したって感じでもないみたいですし」
「どさくさ紛れで、ネズミみてぇなオヤジだな。女を盾にするとかマジ最低。男の風上にも置けんからね。殴り込みかますぞ、ディティス!」
「人質もできるだけ助けたいので、シーリーズさんとか、遠距離武器使える人も連れていきましょう。頭目は魔法を使うので、その対策にも」
「それな! 意外すぎて頭の中にその選択肢なかったかんね。マジ迷惑かけたわ。ゴメンな、ディティス」
「盗賊が魔法使うなんて誰も思いませんよ。仕方ないです。それに、もう峠は超えましたし、過ぎたことです。今こうして生きてるから、私たちの勝ちですよ、シトラスさん!」
「お、お前、マジで優しいなぁ、ディティスぅ〜。うちはもうお前のこと大好きになったかんな〜!」
そう言いながら抱きついて頬擦りしてくるシトラスさん。この人、コミュニケーション距離が近すぎるよ!
しばらく、されるままになっていたら、本人の気が済んだのか、ぱっと開放された。シトラスさんの顔は真っ赤だった。自分でやってて、自分で恥ずかしくなっちゃったやつだろう。私もシャルちゃんと一緒にいるときにたまにある。
ユニエラちゃんたちと一緒にいるシーリーズさんと合流して、アジトの中を調べる運びとなった。
入口に向かうと、私に魔法薬を貸してくれた眼鏡の青年が待ったをかけた。
「相手は魔法を使うってのはもう分かってるよな? そういうやつのアジトに入るってことは、魔法陣を使った罠があると見たほうがいい。このまま入ることはオススメできないな」
「んじゃ、どうしたらいいわけ?」
「俺も魔法を使えるから、手っ取り早いのはアジトごと吹き飛ばすことだけど――」
「ダメです。中にはまだ、盗賊たちに攫われた女の人達がいるかも知れません」
物騒な言葉に私はハッキリとノーと言う。
「じゃあ、使えないな。煙を送り込んで燻り出すって手も考えてたけど、それもダメと。となると――」
青年は、槍などの長物を使う冒険者を募った。アイちゃんやアーサー君も挙手する。
そして、青年はまず、魔法の罠について説明した。
曰く、魔法陣の罠は、起動済みで待機状態の攻撃魔法と、攻撃対象の探知をするための、常時効果を発揮させている索敵魔法のニコイチで運用される魔法で、この、攻撃魔法の魔法陣は、探知される前に破壊する分には問題ないが、探知された後に破壊すると、攻撃魔法放出のための魔力供給が始まっており、それが行き場を失って爆発する危険があるそうだ。
そして、この攻撃魔法陣を、あえてわかり易い場所に仕掛けておき、対処しようと近づくと、隠すように書いた探知魔法に引っかかり、至近距離で回避不能の攻撃を受ける。という手が、一般的な罠の仕掛け方なのだという。
「なんて陰湿な……」
「罠なんて陰湿でなんぼだろ」
「そりゃそうだけど……」
私のボヤキにロア君が突っ込んだ。
「続けるぞ?」
青年はそう言うと、眼鏡をクイッと上げて、今回の対処の仕方について説明を始めた。
魔法の罠は、魔法を使える人間なら、比較的容易に見つけられるそうなので、自分が先導して、探知魔法の魔法陣を探し、それを長物の武器で傷を付け、無力化すると言う話だ。この罠は、探知魔法で攻撃対象を認識しないと、攻撃魔法への魔力供給自体行われないので、多少見つけづらく、時間がかかるけれど、攻撃魔法陣を何とかするよりも安全で確実なのだそうだ。
特に反対する理由も知識もない私たちは、この青年の話をただ信じて頷くしかなかった。
「あ、そうだ、名乗ってなかったな。俺は、アレイスター=ウィール=クロウリーだ、よろしくな」
出発直前に眼鏡の青年は、私たちにそう名乗った。




