キャラバン護衛編ⅩⅩⅨ
私は、自責の念を感じながら走る。
ガサガサと藪をかき分ける音が四方八方から聞こえる。それには当然、先行するシトラスさんのものも含まれる。
私は、殿の位置で、アーサー君とシーリーズさんの背中を見ている。
アーサー君は、背中に負ったトゥハンドソードが少し重そうだ。シーリーズさんはそんなアーサー君のフォローのためか、横にピタリとついて走っている。装備は弓と矢筒、腰に少し長めのナイフを一振り。弓はよく見ると、両端に滑車が付いている、コンパウンドというものだった。村の猟師のおじさんが使っていたのを見たことがある。
追いつかれないように、見失わないように、一心不乱に前だけを見て走り続けること、十分くらいだろうか? 明かりがはっきりと目に入ってきた。
やった! 街道だ! あとはみんなと合流して――
「構えろ!!」
シトラスさんの号令に反射的に従って、武器を構えながら明かりに飛び込むと、それは、街道に指す陽の光などではなくて、暗い森の中に作られた盗賊たちの根城を照らす、煌々と燃える松明による明かりだった。
「ディティス、前出ろ!」
ロア君の叫び声。
最前衛でみんなを守る。盾を持つ私がやらなくちゃいけないことだ!
私は、状況を飲み込む前に、シトラスさんの前へと躍り出た。
「悪い、盾の子。うち、また下手こいたわ。完全に誘導された……」
ちらりとシトラスさんを見やると、頬に真新しい傷ができて、そこから血が流れ出ていた。
「ちっ、目のいい女だぜ。心臓ど真ん中だと思ったのによ!」
弓を構える無精髭の男が、遊びの的あてで矢を外した子供のように悔しがっていた。
「ディティス様、違うのです。シトラスさんは避けられたのですが、後ろに私たちがいたからそれで……」
その言葉で、避けられた矢を防ぐことで、後続のユニエラちゃんたちを守ってくれたのだとすぐに察しがついた。
盗賊の根城に顔を向けると、十程度ではきかない数の部屋があるように見えた。
私たち七人でどうこうできる規模とは思えないけれど、後ろからはこちらに近づいてくる藪を掻き分ける音に、前の視界は根城一色。とても逃げられるような状況じゃない。
予め、私たちが一時間経っても戻ってこなければ、援軍を出すか、そのまま撤退するかを居残り組が決めて良いということになっているけど、こういうのは数として数えちゃいけないんだろうなぁ……。
逃げ場もなく、援軍は望み薄として、どうするか?
「ビビってんじゃあねえぜ! 俺様と師匠がいる。それで何が不安だってんだ! 行くぞお前ら! たかが盗賊の根城の一つや二つ。潰せなくて英雄になんてなれるかよ!」
最後方から、剣を構えて後ろからの敵を警戒するアーサー君が叫んだ。
「行くぞって、お主、後ろ向いて言うことか?」
「後方警戒してんだからしょうがないだろう!」
「それは、分かっとるがのぅ。締まらぬ。あと、足が震えておるぞ」
「言わなくていいんだよ、そういうことは!」
こんな時でも軽口が言い合えるとは、あんなんでも先輩なだけはあるなと思った。
「英雄とかにはあんま興味ねぇけど、死にたくねぇしな。気合の入れどころってやつだな、アイ!」
「う、うん。が、頑張る!」
「あまり、家の名は使いたくありませんが、セイル家の人間として、このような不法建築物を認めるわけにはいきません。野盗の十や二十がなんですか! 全員、素っ首落として街道に晒して差し上げますわ!」
ユニエラちゃん、言葉が乱暴……。戦闘民族かな?
まぁ兎も角、アーサー君の大口も叩いとくものだったということだろう。私も含め、みんなの士気が上がったようだ。本人はともかく、私の体の震えは止まったしね。
「はぁ、マジダセェわうち。後輩の少年くんに気合い入れられるとかさ。まったくよ、一個一個のポカで一々落ち込んでらんないっしょ、うちは一番のベテランだかんな! 数の不利が何だっつーの! 全員倒して、全員守ってやんよ! ついでにこいつらのお宝奪ってキャラバンの連中と豪遊じゃ、お前ら!」
おう! と返事が重なった。
そうだ。やるしかない! やってやんよ! ボーナスステージだ、こんなのは!




