キャラバン護衛編ⅩⅩⅥ
バランスのとれた夕ご飯を食べたら、昨夜は交代も当番も無くなてしまっていた見張りの順番を決めて、眠りにつくことになった。
その際、私が、キャラバンから借り受けることになった毛布はというと、昼間の作業のとき、壊れたジャッキの代わりに岩に車体を乗せたのだけど、その岩で余計に車体が壊れないようにと、岩と車体の間に、折り畳んで挟んでいた毛布、その物だった。そのせいなのか、穴が空いてしまった箇所があるようで、そこから夜の冷たい空気が流れ込んできて寝づらいこと極まりなかった。
満足に寝付けず、このままフルフルと震えながら、見張りの交代を待つのかと考えていると、毛布が一枚追加され、隣に誰かが潜り込んできた。
え、何? 誰? まさか、夜這いってやつ?
嘘でしょ!? だって、周りに人がいるのに……。
どうしよう、怖い。そういうことが起こったら、ぶっ飛ばしてやろうって思ってたのに、全然体が動かないし、声も出ない……。
人の気配は、私の上に覆い被さるように広がり、確かな重さとして、私にのしかかってきた。
重いわけではない。力さえ出せば、すぐにでも払い除けられるだろう。でも、体が強張って動かない。
真っ暗で相手の正体がわからないというだけで、ここまで恐ろしいものなんだと初めて知った。
隙間風の寒さとは別の震えが全身を襲う。ガチガチと歯が震え鳴く。
怖い怖い怖い……誰か助けて……。ロア君、アイちゃん、ユニエラちゃん……。誰か気づいて、お願い!
気配が私の顔のすぐそばまで近付いてきた。耳元に吐息を感じる。
シャルちゃん、ゴメン……。
目を強く瞑ることしかできない私に、覆い被さる人が口を開いた。
「ディティス様、こんなに震えてらして、やはり、体調でも優れませんか?」
「え?」
声に驚いて目を開くと、至近距離にユニエラちゃんの綺麗な顔と瞳があった。
「ユニエラ、ちゃん?」
「はい、ディティス様のユニエラ=セイルですわ」
「どう、したの?」
声が震える。
「お借りした毛布に穴が空いておりまして、よく見れば、ディティス様も同じご様子で震えていらしたので、お互いの毛布で補いながら添い寝でもと思いまして。それでいざ入ってみれば、思いの外ディティス様の震えが酷くて、それで、僭越ながら人肌で温めて差し上げようと、覆い被さってみたのですが……ディティス様?」
私はそこまで聞いて、安心したのと、怖かったのと、驚かせるなというのとでごちゃごちゃになった感情を吐き出すように、ユニエラちゃんに縋り付いて泣いた。
「きゅ、急にどうなさったのですか!?」
「うるさい、ユニエラちゃんのバカあ! ひと声かけてよぉ、怖かったんだからね! でも良かったああああ。襲われるかと思ったからあああ!」
年甲斐もなく、村を出るあの日ぶりに号泣した。
私の夜泣きで他の冒険者やキャラバンの人が起き出してきたけど、構わず泣いた。
構っていられないくらい泣くほど怖かったんだから仕方ない。後でどんな誹りを受けようとも知ったことではない。
とにかく私は、全部吐き出すためにギャン泣きを続けた。
「も、申し訳ございません、ディティス様。そうですわよね、暗い中で、隣にいきなり無言で人が潜り込んできたら怖いですものね。私の配慮が足りませんでした。ああ、なんてことを私ったら!」
自分の失態を反省しながら、泣きじゃくる私を抱きしめて、頭を撫で続けるユニエラちゃんだった。
ちなみに、私はこのあと数日の間、一人で眠るのが怖くなって、ユニエラちゃんに添い寝してもらうことになった。




