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キャラバン護衛編ⅩⅩⅣ

 いろいろあった一日から一夜明けた。私たちは気が付けば点々と焚かれた焚火の周りで雑魚寝をしていた。

 昨夜は、パンと蜂蜜水を持っていくと、ユニエラちゃんとの関係の変化を、アイちゃんに一目で看破され、おめでとうと、良いところのお肉を即興で作ったという葡萄酒ベースのソースで御馳走になった。塩と香辛料だけでは出せない深い風味が、たまらなく美味しかった。

 ロア君は夜の内には戻ってこなかった。なんだなんだ、やっぱりお楽しみだったか?

 なんて、起き抜けに目をこすりながら考えていたら、頭を抱えたメルコさんと、疲れた顔色のロア君がやってきた。

「いてて、ごめんね、ロア君、あんな醜態を晒して。それに介抱まで……」

「いえ、大丈夫です。実家の親父や従業員ので慣れてるので、少し懐かしかったです」

「それ、あんまりフォローになってないからね」

「すみません」

「申し訳ないついでに、今日は休んでていいから。どうせ、今日いっぱいは馬車も動けないだろうし」

「心遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。それより、メルコさんこそ休んでてください。まだ気持ち悪そうですよ?」

「いやでも、私一応副隊長だし……」

 お互い遠慮しあい続ける二人だけど、明らかに両者ともに顔色がよろしくない。無理に動かれて余計体調を崩されても迷惑だから、ピシャっと言うことにする。

「いや、二人とも顔色悪いし、休んでてよ。メルコさんは純粋に具合悪そうだし、ロア君は寝不足でしょ? そんなんで魔物や盗賊に襲われても戦力になる?」

「うぐ、ディティスが正論を……」

「そんな顔見たら正論も言うよ。メルコさんも。ジークフリートさんには言っておくので、二人ともちゃんと寝てください。アイちゃん、毛布貰ってこよう」

「う、うん。ロア、や、休んでて」

「わかった……悪いな」

「いや、一番悪いのは私……もう絶対お酒飲まない……」

 それ、二日酔いのお父さんがよく言ってた。絶対に同じ轍を踏む魔法の言葉だよ、メルコさん。

「ユニエラちゃんは、万が一、二人が勝手に仕事始めないか監視してて」

「畏まりましたわ、ディティス様」

「……?」

「なんですかロア、ジロジロと怪訝な顔で見て。お水でもお持ちしましょうか?」

「いや、なんとなく、お嬢とディティスの距離感が近くなったような?」

「変なところ鋭いですわね。アイと双子だからということかしら? 今はそんなことよろしいですから、腰かけるなり横になるなりしてなさいな」

「ああ、悪い。眠気が……そろそろ、げんか、ぃ……」

 私たちが毛布を貰って戻り、声を上げると、ユニエラちゃんが指で静かにするようにと制止した。

 近づくと、地べたに寝るロア君と、ロア君の頭を太腿に乗せてこっくりこっくりと舟を漕ぐメルコさんの姿があった。ロア君、この幸せ者め。

 そっと二人に毛布を掛けて、私たちはジークフリート隊長に事情を説明し、本日の作業に取り掛かった。


 ちなみに、朝ごはんは、昨夜の残りのパンとお肉のサンドイッチだった。ソースは蜂蜜マスタードで、葡萄酒とはまた違った風味でこれもよかった。


 今日は、車輪とサスペンションの修理の予定なわけだけど、まずはジャッキの捜索から始めた。

 昨日、ある程度探して無かったんだから、無いと思ったほうがいいと思うのだけど、私の本日の疲労度に直結するので、昨日より念入りに探す。

 三十分ほど捜索したところで、それは見つかった。オーガの足跡の中で……。

 もうね、見るからにぺしゃんこでね。奇跡を願って恐る恐る持ち上げたら、残念ながらバラバラになるわけですわ……。

 こうして、私の本日の過重労働が決定した。

 今日の私は、人間じゃなくて、ジャッキです……。

 なんなら昨日も、人間やってる時間より、重機やってる時間のほうが長かった気がするよ?

「人間ジャッキ? 何言ってるの? 今日は車体の下に人を入れるから、ジャッキが無いなら岩か何かに乗せるよ。アンカーさんにはまた力仕事押し付けて無理させちゃうけど、今日はそんな感じでよろしくね」

「あ、はい。……うわぁ、百理ある……馬鹿か私?」

 キャラバンの整備主任のアストンさんが、そんな危険なことさせるわけないじゃないと、よくよく考えてみれば当然のことを言ってくれたおかげで、私の人間としての尊厳は守られることになった。

 さっきまでの、必死な顔でジャッキを探す自分を思い出し、急に恥ずかしくなってきて両手で顔を覆った。

「何を必死にジャッキを探しているのかと思いましたら、そんなことを考えておいででしたのね、ディティス様」

「ユニエラちゃああん! 私、とんだ恥かいたよぅ……恥ずかしすぎるぅ」

 ユニエラちゃんに抱きついて縋る。

「早とちりが過ぎましたわね、ディティス様。でも良かったじゃありませんの。想定していた最悪の事態は避けられたのでしょう?」

 私の頭を子供をあやすように撫でながら、ユニエラちゃんが言った。

 それはそうだけども! 恥ずかしいものは恥ずかしいのよ。

「ほーら、ひと頑張りなさってくださいな。私、ディティス様の、いつものようなカッコいいお姿が見たいですわ。せっかく昨夜は惚れ直しましたのに、幻滅させないでくださいまし」

「うん」

 昨日の今日、というか、昨夜の今朝でユニエラちゃんに幻滅されたくないので頑張ることにする。

 心の中で自分を鼓舞して、一台目の馬車へと私は歩き出した。

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