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キャラバン護衛編ⅩⅥ

「壊せるものなら壊してみるがいい! そいつは単眼巨人(サイクロプス)」に殴られても壊れないが売り文句の装甲材でできた馬車だ! 生半可な攻撃ではびくともせんぞ!」

 クロウに捕まったまま、おじさんが吼える。その見た目は滑稽に過ぎる。

「うーん。錠前も同じ材質か? ドワーフの拵えだな。よくできている。確かに簡単にはいかなそうだ。誰か、この中で最も怪力だといえる者はいるか?」

 それなら、ここに百はいる虫人族ではと、思ったけれど、彼らは今、迂闊に元の姿に戻るわけにはいかないのだろう。少し申し訳なさそうに俯いている。

 ふと、いくつかの視線を感じた。ロア君たちだ。

「えーっと、何かな、みんな……」

「いや、怪力と言えばお前だなって思って」

「ディティスなら、い、いけると思う」

「ディティス様のお力を魔族にまでお披露目するチャンスですわよ!」

「それは別にチャンスでも何でもないでしょ……」

 そして、もう一つ視線が刺さるのを感じる。クロウだった。

「なに? 戦う必要はもう無いでしょ?」

「いやなに、馬鹿力と聞いて真っ先に思い浮かんだのが貴様だったからつい見てしまっただけだ。気にするな。貴様程度ではこの馬車の破壊など不可能だというのは分かり切っている。貴様は俺より弱いのだからな」

「は? 私に負けた人間が何か言った? 壊せますけど? この程度の馬車なんか。泣きべそクロウと違ってね!」

「泣いてなどいないと言っているだろう!」

「やめろお前ら、見苦しい。ディティスも、戦う必要ないって分かってるなら煽りに乗るな」

「うぐぅ……。ごめん、ロア君」

 ロア君に諫められる。

 なぜかクロウ相手だと苛立ちが強くなってしまう。そういう、相手の神経を逆撫でるような訓練でもしているのだろうか……。

「気持ちは分かるけどな、あいつ、今もだけど、アマンのころも、なんか腹立つやつだったから」

 私より冷静そうなロア君ですらイラついてるのか……。やっぱりあえてやってるって事か……。

「君、今、馬車壊せるって言ったよね?」

 隊長さんに話しかけられてしまった……。

「ええっとその、さっきのは口論中に出た言葉の綾というか、強がりで……」

「いやいや、ディティスさんや、怪力なのは本当なんだから試してみようぜ?」

「ロア君!」

「やはり力はあるのか!」

「ええ、こいつ、見た目細っこいですけど、得物は、自分の身の丈くらいある大盾を二枚使ってて、それを軽々と振り回して飛んだり跳ねたりしてますから」

「それは頼もしいな!」

 会話を聞いていた他の冒険者達から声が聞こえてくる。

――あの子って、あれだろ? 一昨日の朝の――あぁ、酔って絡んでたガラルドの腕折ってた子だ――ディティス=アンカーとか言ってたような――巨大なロックイーターの変異種を一人で引きちぎったって噂のあの冒険者か!――あんなかわいい娘だったのか――シャルティちゃんの恋人らしいぞ?――抜け駆けとか許せんな――俺たちのシャルティちゃんが――

 最後の方はもう私関係ない、っていうか、シャルちゃんは元から私のだから、お前たちには指一本触れさせないからな!

「うん、他の者の声も、君の力の証明に足りるものと言える。是非君にお願いしたいのだが、どうだろう?」

「えーとぉ……。その、私は噂ほど強くないっていうか……。あんまり自信無いって言うかぁ……」

 これ以上、噂に真実味を持たせたくないと言うのが本音なんだけど。あと、乙女的にはあんまり強すぎるって思われるのは可愛くない……。私だって、将来を誓った恋人がいるとは言え、多感なお年頃の女の子なわけで……。

「うーむ、破壊の成功の如何に関わらず、報酬を上乗せするつもりだったんだが――」

「やります! ぶっ壊してやりますよ、こんなトタン板!」

 と、現金な私なのでした。お金には逆らえない。シャルちゃんにいいお土産や誕生日プレゼントもあげたいしね。

「金の話で即答ってお前……まぁ、お前だしな」

「そういうところも可愛げがあると思いますわ、私。いつでも金蔓になって差し上げます!」

「ら、らしい、よね」

 それはそれとして、みんな、今、私のことどういう目で見てるのか後でちょっと話そうか?

転移魔法陣についての設定書いてたのに公開するの忘れてました。

ので公開しますね。


『転移魔法陣』

 陣に記された地点へ、一瞬で移動する魔法式が刻まれた魔法陣。

 魔法陣と魔法陣を繋ぎ、相互に移動することも可能。

 シデリアン洞窟最奥部にあるものは一方通行。

 転移先の座標は、緯度経度や、魔法陣に振った番号などで指定する。

 最初は緯度経度による指定が一般的だったが、座標の直上や直下に建造物や穴が作られると、転移された物や人が建造物に飲まれたり、穴に落ちたりする事故が続出したため、現在は、目標地点に、番号だけを振った(から)の魔法陣を設置するのが主流になった。シデリアンの転移先の部屋もそれである。

 そんな便利なものを活用せずに、なぜいまだに馬車で移動するのか、という問いはもっともである。だが、転移の魔法陣を書けるのは、人間と比して膨大な魔力を持つ魔族だけなので、残念ながら、人間には新しく転移陣を作ることができない。

 なにより、転移陣の式は、魔族語――口頭詠唱に使われる言語を文字化したもので書かれるため、人間には読解も、読み聞かせることもできない。

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