キャラバン護衛編Ⅵ
「悪かった! 悪かったって!」
私に馬乗りにされたロア君の謝罪が聞こえる。
「他に言うことは!?」
「訂正の噂を流します」
「よし」
マウントを解いて自由にしてあげる。
「いや、流してはみるけど、今みたいにちゃんと広まるかは分からねぇぞ?」
「そこはいい。私だって、そんなことでどうにかなるなんて思ってないから」
「じゃあなんで……」
「ロア君が解決しようと動いてくれるってことが重要なの。反省したって行動で示してもらうことが私的に大事」
まぁ、それはそれとして。
「あとはアイちゃんにお仕置きしてもらってください。とびきりのやつ」
「それが一番嫌な奴じゃん……」
「刑の執行は即日ね」
「うえっ!?」
「ロア」
ガントレットを外して準備万端なアイちゃんが、目が笑っていない笑顔でロア君を見つめ、肩を掴んだ。
「ディティスの、そ、そんな、う、噂流してたなんて、し、知らなかったよ」
「……すみませんでした」
もう逃げられないと悟ったロア君は、観念して心からの謝罪の言を吐いた。やっぱりさっきのは上辺だけだったか。
直後、ギルドに本日二度目の叫び声が上がったのだった。
「ああ、いたいた。ディティスちゃんたち」
ギルドで待機しながら、ロア君に奢らせたパンケーキなぞを女性陣でつついていると、メルコさんがやってきた。
「あ、メルコさん。おはようございます。出発できそうですか?」
「うん。冒険者の追加募集も、欲しい数集まったし、何とか出発できそうよ。昨日はありがとうね。それと改めて、今日からよろしく」
「は――」
「はい! よろしくお願いします!」
今の今までテーブルに突っ伏していたロア君が、突然元気になって、私の言いたいことを先に言った。
「ロア君だっけ? 君たちもよろしくね」
「誠心誠意お守りします!」
メルコさんの手を取ってキラキラした目で宣誓するロア君。
「気持ち悪い」「気持ち悪いですわ」「き、気持ち悪い」
女性陣一同の声が揃った。
「お前らひでぇな!」
「あはは、仲いいねぇ。さ、馬車はもう来てるから、準備が良ければ外に出てくれる?」
「はい、大丈夫です。すぐ行きます」
盾を装着して、三人と一緒にギルドの外に出る。出がけにメルコさんの仕事モードの声が少し聞こえた。
私たちがギルドから出てすぐ、他の冒険者もぞろぞろと出てきた。
メルコさんは最後に出てきて、昨日と同じく、適当な馬車に乗るように促した。
私たちは、昨日のような襲撃が起こらないか注意しながら馬車に乗り込んだ。
「うわっ!?」
私が乗り込んだ瞬間、馬車が大きく傾いた。
「ディティスは荷台の真ん中な。椅子じゃなくて、床の」
「はい」
さっきと立場が逆転して、ロア君に顎で支持されるのに従った。これに関しては、私に言い返す資格すらないのは明白だしね……。
後から私たちの乗る馬車に乗ろうとした人が何人かいたけど、みんな、私が中央に座っているのと、馬車の車軸バネの沈み具合を見て、何を察したのか、そっと立ち去っていった。
「あれ、四人だけ?」
馬車に乗り込む冒険者たちを確認して、自分の馬車に戻ってきたメルコさんが、乗り込んだ私たちを見て言った。馬車にはまだ五人は乗れるスペースがある。
そして、メルコさんは、馬車の中央の床に座っている私を見ると、他の立ち去っていった冒険者たちと同じ顔をして、一言ゴメンねと言って手綱を取った。
「今の、何のゴメンね? ねぇ、何のゴメンねなの!?」
「あんまり深く考えるな、ディティス。誰も見かけによらず重いんだなとか、太りすぎて反省させられてるんだなとか考えてないから」
「私太ってないから! 違いますから、メルコさあん!」
「動くなよ! お前の重さで馬車傾くんだから!」
「私じゃなくて、私の盾! 盾の重さだから! 人をデブみたいに!」
「俺たちは分かってるから、大丈夫だって」
「不特定多数には分かってもらえてないかもなんですけど!?」
「聞こえてるよー。大丈夫、お姉さんも理解したから、ディティスちゃん。というか、昨日再会した時点でなんか凄いってことは分かってたから」
「じゃあさっきのゴメンねって何だったんですか?」
「特に意味はないわ。強いて言うなら、んー、ノリで?」
「ノリて……」
「君たちが乗ってる馬車に乗ろうとした人が、みんなあんな感じで去ってくの見てたからやりたくなっちゃって。バネの沈みからもう何人か乗ってるかと思ったら君たちだけでビックリしたけど、同時に気付いたのよ、あぁディティスちゃんのこれを見てたんだって」
「それでノったと」
「うん。ゴメンね?」
ひとまず、メルコさんの誤解はなかったようで安心だ。ここを去っていった、本当に勘違いしている冒険者たちが今後の課題だけど。
「じゃあ出発するよー」
メルコさんの号令に四人で返事をしすると、馬に鞭が入る音がした。
ゆっくりと馬車が進み出したとき、馬車を呼び止める声が聞こえた。
「ちょ、ちょっとー! 待ってくれー! 俺も乗りまーす!」
私たちの馬車に、黒衣に身を包んだ、男とも女ともとれない声と体型の冒険者が飛び乗ってきた。




