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キャラバン護衛編Ⅲ

「私も冒険者の資格はありますが、依頼は受けていませんので、私をどうにかしたところでキャラバンには関係ないと思いますわよ?」

「大領主の身内が傷物にされた原因が、キャラバンを狙った賊だってんなら、間接的に責任があるだろう? それで一日でも二日でも足が止まるんなら俺たちの仕事がやりやすくなるってもんだ。餌になってもらうぜ、冒険者ごっこのお貴族様よ!」

「はぁー。我がセイル家が、その程度でキャラバンに責任を負わすなどあり得るはずがありませんが、良いでしょう、お相手して差し上げます。冒険者ごっこなのか、その身で確かめてご覧なさいな。ディティス様の久々の勇姿を見届けていましたのに、思いの外早く終わってしまってモヤモヤしておりましたので、私にとっても丁度良い憂さ晴らしになりますわ!」

 ユニエラちゃんの鎧のマントに刺繍されていた、セイル家の家紋を見定めた賊の残党たちが詰め寄り、ユニエラちゃんはその喧嘩を買った。というか、あの騒動の中、ずっと私を見てたのか、あのお嬢様は。

 ユニエラちゃんは、優雅な動作で、腰からロングソードを抜いた。ピンクで派手な鎧とは対照的に、無骨で、機能性を重視したような、シンプルな、悪く言えば、そこら辺の武器屋で売っているような剣だった。それを、ユニエラちゃんは、両手でしっかり柄を持ち、教科書に載せられるような綺麗な姿勢で正面に構えた。

 そういえば、ユニエラちゃんが戦う姿は初めて見るなぁ。大丈夫かなぁ……。

 心配なので、いざとなったら割って入る準備をしておく。

「へへへ、お嬢様、剣のお稽古とは違うんでちゅよ~」

 そんな賊の挑発に意も返さず、今まで見たことの無い据えた目をしたユニエラちゃんが、一言発したのが合図だった。

「参ります」

 一歩で距離を詰め、すぐ目の前で挑発していた男を一呼吸の内に切り倒した。

 アイちゃんのものと大差ない重量と思われる鎧を着込んでいるとは思えない速度だった。

 味方を倒されたのに、何が起こったのかが上手く掴めず、賊たちが呆然としている。

「どうされましたの? 私はまだ立っていますわよ?」

 ユニエラちゃんの声でハッとした賊たちが、一斉に武器を構えて向かっていった。

 いつの間にやら集まった彼らの数は五人。

 さすがにその数は不味いと思い構えると、ユニエラちゃんが明るい声で制止した。

「ディティス様、助太刀は結構です。私の実力をしっかり見ていて下さいな!」

「気取ってんじゃねーぞ!」

 飛びかかる男の短剣を剣の先だけの動きでいなし、そのまま胴を横一閃。一人目。

 続いて襲い掛かる賊の双剣の片方を刀身で流し、もう片方の剣は柄頭で受けた。

「は!?」

 相手がユニエラちゃんの曲芸のような防御に驚愕していると、柄頭で押さえた剣をそのまま弾いて体勢を崩し、上段から袈裟切りにした。二人目。

 左右から一人ずつ。より近かった右側の方に向かって走り、下段から逆袈裟に剣を振る。慌てて止まり、紙一重で回避した賊にユニエラちゃんはズイと近付いた。

 一旦距離をとろうと後ろに飛ぼうとしたが賊は苦悶の声を上げた。

「うぐあ!? 足が!」

 ユニエラちゃんの脚甲が相手の足を踏みつけていた。というか、潰していた。

 足を縫いつけられて身動きがとれない至近距離の賊を、ユニエラちゃんは無駄のない動作で圧し切りにした。三人目。

 さっき左から来ていた賊が距離を詰めて、すぐ後ろに迫っていた。

 重心を移動して軸足を変え、そこからクルリと回りながら剣を構えなおし、迫る短剣を防いだが、片方だけだった。ユニエラちゃんから焦りの表情が少し見えた。

「くたばれ!」

 もう片方が迫る。

「ユニエラちゃん!」

 思わず叫んだ。だけど――

「な!?」

「今のは少し焦りましたわね」

 短剣をガントレットで受けて、刃を滑らせるようにいなしていた。

 いなした剣を持つ賊の手をそのままむんずと掴み、至近距離に来て武器を振りかぶっていた五人目の前に引っ張り出した。

「馬鹿!? ぐえっ」

 四人目。

 最後、仲間を手に掛けてしまったことに動揺する五人目を躊躇無く斬り伏せた。

「そういう反省や後悔は、全て終わってからにすべきですわよ。目の前の敵に集中出来ないようでは、まだまだ二流ですわ」

 瞬く間に五人の賊を倒したユニエラちゃんは、剣に付いた血を拭き取って、静かに鞘に納め、私に笑顔を向けた。

「どうですか、ディティス様! 私、ちゃんと戦えるんですのよ!」

「ビックリした! スゴいよユニエラちゃん! ごめんね、疑って」

「いいえ、分かっていただけたのなら、それでいいのです。それよりもその、もっと、褒めて下さると嬉しいです……」

 顔を赤くして要求するユニエラちゃん。うーん、今回は特別だよ?

「かっこいい! 綺麗! 強い!」

 我ながら雑な褒め言葉を並べながらユニエラちゃんの頭を撫でる。

「ありがとうございます、ありがとうございますぅ……」

 そして、それに恍惚とした表情でお礼を言うユニエラちゃん。

「お、浮気か、ディティス。あとでシャルティさんにチクってやろう」

 ロア君がからかいに来た。う、う、浮気じゃないやい! ただの、ただの……なんだろう、これは。とりあえず否定しなければ。

「ちーがーいーまーすー! だからシャルちゃんには黙っててください、お願いします」

「最後の早口!」

「私、シャルティ様には妾として認められてますので、別に浮気ではありませんわ」

 急に真顔に戻ったユニエラちゃんによる反論。そしていつの間にか抱き付いてるよこの子!?

「ねぇ、ディティスちゃん、終わった? もう出てきても大丈夫?」

 そんなやりとりをしていたら、メルコさんが馬車から顔を出して聞いてきた。

 周りの剣戟は収まり、悲鳴も聞こえなくなった。呻き声は結構聞こえるけれど……。

「もう大丈夫です、メルコさん」

「そ、そう。ありがとう、ロア君、だっけ?」

「はい! て、手を貸しましょうか?」

「ありがとう。自分で降りられるから大丈夫よ」

 私が言おうとしたことを、再び先に言って手まで差しのべるロア君。

「浮ついてますわね、ロア」

 私に抱きつきながら言うことじゃないぞ、ユニエラちゃん。

「あぁ、メルコさん、ご無事で」

「急ぎ、被害を確認して本隊に報告。出発が明日にずれ込むかもしれません」

「分かりました、大至急!」

 仲間の商人に今後の動きを通達して、私たちに再びお礼を言うと、メルコさんは広場を駆けていった。

 暢気に会話していたけれど、広場は結構な惨状となっている。初っ端からこんなことになるなんて、なかなかきな臭い仕事になりそうだなと、私の心は不安に駆られるのだった。

ユニエラちゃん、実は強かった。

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