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プロローグ 告白Ⅳ 自室にて

2025/01/21(改)

起きたら夕方だった。西日が窓から入ってきて、部屋を赤に照らしている。

 腕の中にはシャルちゃんがいて、可愛い寝息を立てている。目元は、夕日とは違う色で赤くなっていた。

 私の顔も、今はこんな感じなんだろうなぁ。

 それにしても、いつ移動したんだろう。また自分の部屋のベッドに寝かされていた。


 ま、今はそのことはいい。


 文字通り、目と鼻の先にシャルちゃんがいる。

「も、もう恋人なわけだし、ここでお目覚めのキスをするのは合法だよね?」

 顔を近づける。あと数センチ。

 おでこが当たる。

 シャルちゃんの目から、涙がこぼれるのが見えた。

 やっぱ駄目だ! こういうのは、こんな形じゃ駄目!


 心を入れ替えて、シャルちゃんの涙を指で拭う。そのまま頬を撫でた。すべすべの肌が綺麗。

「でも、これくらいは許されてもイイよね?」

 少し魔が差した私。

 人指し指の先でシャルちゃんの唇に触れ、その指で自分の唇を触る。

「か、間接キス……なんてね。えへへ……はぁ」

 一人で笑ってるのが虚しくなってきたのでシャルちゃんを起こすことにしよ……う?

 目をばっちり開いたシャルちゃんと、そこで目が合った。

「あのね、ディーちゃん。そういうことは、言ってくれたら、私、してあげるからね? ディーちゃんなら、いつでもどんなことでも、嫌じゃないから。でも、内緒では駄目。二人の思い出にならないから」

「いつから?」

 起きてたの?

「んーっとね。……ほっぺた、撫でてくれたあたり、かな……」

 あぁ、良かった。キスしようとしてたところはバレてない!

「指、だけでいいの?」

「へ?」

 今なんと?

「ディーちゃんは、間接キスだけでいいの? 恋人なのに」

「いくない。そんなの、したいに決まってるじゃん……」

「じゃあ、いいよ?」

 目を閉じるシャルちゃん。

 え、本当にいいの?

「いいの? 本当に? お金とか取らない?」

「私をなんだと思ってるの、ディーちゃん」

「いや、恋人様ですけど、その、こ、心の準備をです――ンッ!?」

 シャルちゃんが私の口を塞いだ。唇で。

「もう、していいって言ってるんだから、すぐすればいいのに。ヘタレディーちゃん。恋人なんだから、もう遠慮は禁止。ね?」

「なんか、シャルちゃん、雰囲気変わった?」

「なんだろ、思いっきり泣いてすっきりしたのかな? ディーちゃんが、これから私を幸せにしてくれるって言ってくれたからかも。だから、どん底はもうさっきまでで終わり! って思えるようになった、的な?」

 曖昧だなぁ。

 本当は私に心配かけまいと心の内に仕舞い込んでるものとかあるんだろうけど、本人が言いたくなるまでは聞かない。

 そんなことより、私が幸せにすると言ったことに、シャルちゃんは応えようとしてくれた。こちらにこそ報いなければいけない。恋人として。

 恋人として!!


「ディーちゃん、お返しは?」

「へ?」

「私がさっきしたから、今度はディーちゃんから」

 上目遣いはずるいよぅ……。

 よし! と、心の中で覚悟を決めて、私よりもずっと華奢な体に腕を回す。

 シャルちゃんはもう完全に待ちの姿勢。両腕を私の首に回し、目を閉じてこちらを向いている。

 生唾を飲み込んで顔を近づける。

 私も目を閉じる。

 先ほどと同じ感触が唇に触れた。

 頭がぽーっとする。


「もう一回」

 余韻に浸ろうとしたところを言葉で止められた。

「えーと、シャルちゃん?」

「もう一回」

「う、うん……」

ちょっと角度を変えてみたりして、もう一回。

ご満足いただけて――


「もういっかい」

 あ、はい。

 その後も、シャルちゃんの「もういっかい」が続いた。

 だけど、だんだんと、声が震えてきて、終いには、大粒の涙をボロボロと流し始めた。

「あ、れ……。おかしいね……。ディーちゃんと、やっとこういう関係になれて嬉しいのに……嬉しいはずなのに、悲しいのが止まらないの……。ごめんね、ディーちゃん」

 もう出し切ったと思った涙は、まだまだ止まることを知らず、シャルちゃんの顔を濡らしていく。

 シャルちゃんは、必要のない謝罪を私に繰り返しながら泣いている。

 たかだか一日程度で吹っ切れるはずなんかなかったんだ。

 これはきっと時間がかかる。今すぐどうこうできる問題じゃないんだ。

 だから、私はその手助けとしても、私自身の幸せのためにも、シャルちゃんを幸せにしようと、改めて誓い、抱きしめた。

 悲しいよりも、ずっと大きな幸せをプレゼントしてあげたいと、そう思いながら。

 とりあえず、今の私にできるのは、これくらいだから、まずはこれから。

 抱き合った姿勢のまま、私はシャルちゃんの頭を撫でて、泣き止むのをただただ待った。

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