シデリアン洞窟編ⅩⅩⅣ
次の日の朝。地下から這い出して、一ヶ月ぶりの朝日を浴びた。陽光が心地良い。なんだか生まれ変わったような気分。
みんなも、誰が誘うでもなく、地下の客室から出てきて、私同様、久方ぶりの日の光を満喫している。
私は、帰りにもう一風呂入っていこうかな、なんて考えていた。温泉とか次いつ入れるか分からないし……。
そんなときだ。
馬車の近づく音が複数聞こえてきた。目を向けると、立派な馬車がこちらへ向かって来ていた。
「お兄様!」
予想はしていたけど、やっぱりユニエラちゃんの家のだったようだ。
馬車が目の前で止まると、扉が蹴破られるように開き、というか、実際蹴破られているのだけど、中からガタイの良い強面の男の人が飛び出してきた。こ、この人が、ユニエラちゃんのお兄さん?
「げっ!? お父様……」
お父さんだったようだ。
「親の顔を久し振りに見て、げっ!? とは何事か、ユニエラ。淑女らしくもない」
「も、申し訳ありません、お父様。ユリウス兄様の馬車でしたので、驚いてしまいました」
「私の馬車は今点検修理に出しておるのでな。ユリウスに借りてきたのよ」
毎回ドアをそんな蹴破り方しているからでは? 直接は絶対言わないけど。下手したら私の首が蹴破られるかもしれないし。
「それで、お兄様は?」
「後ろの馬車に乗っておる」
「ユニエラ!」
ユニエラちゃんと同じ金色の長い髪を後ろに縛った、優男風な美男子が駆け寄ってきた。ユニエラちゃんもお兄様と呼びながら駆け寄って行き、その胸に飛び込んた。
「あぁ、ユニエラよく無事で……」
「申し訳ありませんお兄様。ご心配をおかけしました。それでその、少しお話が……」
「なんだい?」
「お父様にも。その、あるのですが……」
「ん? 私にもか。手早く済ませよ?」
「ここでは……。クガルーアさん!」
「ああ。わかった。シウス、行くぞ?」
「はい」
なぜにここでクガルーアさん?
呼ばれたクガルーアさんは、シウスさんを連れてユニエラちゃんたちと林の中に消えていった。
クガルーアさんの顔を見たとき、心なしか、ユニエラちゃんのお父さんとお兄さんの顔がギョッとしていたような気がするけど……。やっぱり貴族なのか、クガルーアさん……。
「見たかディティス。ユニエラ嬢の親と兄貴の顔」
「うん。クガルーアさんの顔見て驚いてたね」
「あぁ。洞窟で下手に喧嘩売らなくて良かったぜ。縛り首にでもされたらたまったもんじゃない」
「やっぱり貴族?」
「だろうな。しかもかなり位が高い貴族だ。辺境伯のセイル家当主があの顔だぜ? 侯爵以上であることは確かと見ていいだろう。いやー、おっかないねぇ。なんで冒険者なんてなろうとしてんだ?」
「私に聞かれても」
「そりゃそうだ。俺たち平民が考えても仕方ないことだ。それよりも、明日からの冒険者稼業についてとか、ロックイーターの素材の受け取りの件とか、ほかに考えなきゃいけないことがいくらでもある」
「私は街に帰る服や靴の件が直近の問題だよ」
「野生児には裸足がよくお似合いだろう。大丈夫だ。誰もゴリラが裸足でいても驚かないって」
「ロア」
いつもの言い過ぎでアイちゃんの目の色が鬼のように変わっている。私は気にしてないのに。
「アイちゃん大丈夫だよ。私、慣れてるし、ロア君の言い過ぎは、よっぽど私に信頼を置いてくれてるって証みたいなものでしょ?」
「おお! ディティス分かってるじゃねーか。そうそう、これは気を許してる証であってだな――」
「そ、それは、わ、分かってるけど。そ、それはそれ。お、女の子に、ご、ゴリラとか、じょ、常識がなってないから、お、お仕置き」
「……はい」
ぐうの音も出ないとはこのことか。まぁ、暴言であることには変わらないし、残念ながら当然なのであった。でも、あんな吐くほどの鉄拳制裁を受けると分かっているのに暴言失言を続けてしまうのは、もう治せない何かなのか、はたまたそういう性癖なのか。なんにせよ、なかなか難儀な質に生まれてしまったね、ロア君は。
そんないつものやりとりをしていると、みんなのお腹の虫が鳴いた。そこで一度、中に戻って食事を摂ることにした。
 




