シデリアン洞窟編ⅩⅩⅢ
定期馬車が今日はもう来ないらしく、私たちは、借りていたぼろぼろの装備やらを返して、見張り小屋の地下に案内された。
グレイブさんは、返却された私の防具を見て、どんな無茶したんだと目を丸くしていた。
盾は持てる人がいないから、自分でテントに返しに行った。お疲れ、私の相棒。といっても、傷一つとして付いていないので、お疲れ感が薄かったんだけど。
見張り小屋の地下は、上の階よりもずっと立派で、敷地も広く、ホテルかと見紛うくらいだった。
「何だ、ここの立派さは……」
クガルーアさんが声を漏らした。完全に同意する。
「洞窟の踏破に成功した冒険者かつ、帰りの馬車と行き違いになって町に帰れないって、今のお前らみたいなやつらのための施設だ。頑張った新人たちへ、ギルドからのご褒美という意味合いもある。もっと下の地下には、温泉もある。自由に入って良いぞ」
温泉だって!? 本でしか読んだことないけど、実在したんだ!? これは行くしかないでしょ!
「アイちゃん、温泉って、入ったことある?」
「な、ない!」
「早速、行かない? 私、髪とかもうぎっちぎちのボッサボサで!」
「い、行く! わ、私も、か、体とか、ち、ちゃんと、あ、洗いたい!」
「シウスさんもユニエラちゃんも行こう? 温泉だよ、温泉!」
「はい、行きましょう! 今すぐに! 私もそろそろ、水浴びだけでは限界だったので!」
「わ、私も、一緒に入ってあげてもよろしくてよ? お友達ですもの、多少の無礼も許して差し上げるわ!」
「じゃあみんなで温泉へ突撃だー!」
女性陣一同、温泉へいざ進軍です!
惜しむらくは、ここにシャルちゃんがいないということだよ……。あぁ、一緒に入りたかったな、シャルちゃん……。
「お、脱衣所個室になってる!?」
脱衣所は、一人分のスペースごとに区切られていて、簡易式の鍵付きの扉で施錠もできるようになっていた。広さは、本当に衣服の着脱のみを想定されていて、私にすら手狭に感じる。私より背の高いシウスさんは少しつらいかもしれない。
扉の裏にはタオルがかけてあって、最低限のおもてなしはできている。
「体洗えるのは良いけど、こうなってくると、服も洗いたいよね……。というか、新しい靴とか欲しい。このままじゃ私、裸足でカンブリアまで帰ることになるよ……」
「ディティス。では、私の迎えの者が来ましたら、帰りの衣服や靴を見繕うよう、取り計らって差し上げますわ。もちろん、アイやシウスさんにも。当然ですが、これも私が差し上げたいお礼とは――」
「別口、でしょ?」
言いたいことを先に言われたユニエラちゃんのムッとした声が聞こえてきた。
「ディティス。私のセリフですわよ?」
「いやぁ、言うと思ったからつい」
こんなやりとりをしながら脱衣を終えた私は、胸を高鳴らせて温泉への扉を開いた。
石鹸と温かいお湯で、石鹸と温かいお湯で! 頭から爪先まで隈無く洗って、髪を纏める。
よし、浸かるぞ! 約一ヶ月ぶりの湯船。しかも温泉!
「ああああああああああ!!」
思わず声が出た。本当に声出るんだと自分で若干驚いている。
「き、気持ちいぃぃ。あぁー、溶けるぅ」
もうここに住みたい。シャルちゃんとここで住もう、そうしよう。なんてバカなことを考えてしまう。それほどの極楽。
後から他の子たちもやってきて、訓練しているかのように、全く同じ手順と速度で体を洗って、湯船で合流した。そして――
「ああああああああああ!!」
私と全く同じ声を全員で上げるのだった。
温泉での女性陣のやり取りはみなさまのご想像にお任せします。
何か書いてくれたら教えてください。リビドーを開放せよ。




