魔族の国編 ⅣⅩ
「ディーちゃんは試着禁止ね?」
「え……?」
「ここに立っていてくださいまし!」
「あとは目隠しですわね!」
「ええええ!?」
状況に困惑していると、あれよあれよと目隠しまでされた。
という感じで、私は着せ替えない着せ替え人形と成り果てることになった。
いや、外そうと思えば目隠しは外せるんだけどね。手も縛られてるわけじゃないし。足も自由だから、逃げたければ逃げられる。
でも私がそうしないのは、単純に、三人の楽しんでいる心に水を差したくないからだ。
まぁ、それはそれとして、どんなえっちな水着を着させられることになるのだろうと、戦々恐々とはしているんだけどね……ははは……。
しばらくの間、三人の、あれこれそれといったやり取りを聞きながら、服当て型着せ替え人形に興じていると、ついにそのときはやってきた。
「これじゃないかな?」
「これですわね!」
「こ、コレ……ですね!」
と、どうやら私の水着が決まったらしい。
目隠しが取られる。部屋の明かりが若干目を眩ませた。
「三人は?」
尋ねると、もう選びましたと三者三様の声音が弾んだ。楽しそうで何よりでございます。それで私の水着は――と、手を伸ばすと、シャルちゃんは身を捩って私の手を躱した。なぜに……?
「着替える直前に渡すね!」
徹底的に隠すつもりらしい……。
「では参りましょう!」
「「おー!」」
ユニエラちゃんの号令に元気に腕を上げる美女二人。私も続いておずおずと腕を上げた。おー。
貸し衣装室を出ると、ちょうど、クガルーアさんとシウスさんが通りがかった。二人とも、なんか、めっちゃ貴族っぽい服を着ていた。荷物の中に、ああいう服もあったのか。
「おう、お前ら。俺たちは王城まで行ってくる」
よく撫でつけてセットした髪を、うっかり掻き上げそうになったのを、シウスさんに止められながら、クガルーアさんはそう言った。なるほど、早速、マイクを借りるための話に行くのか。
「そういう格好を見ると、まるで本物の王子様みたいですね」
「まるでじゃなくて、本物なんだよ、ディティス。――まぁ、行ってくる」
フフっと軽く笑うと、クガルーアさんとシウスさんは、襟を正して歩き出した。私たちはそれを、行ってらしゃいと、手を振って見送った。
シェリーちゃんの家で乗ったエレベーターがここにもあって、私たちはそれに乗り込み、部屋へと向かった。
地上十階建ての宿の最上階――。その階を丸々一部屋として整備したスィートルーム。一泊で飛んでいく金貨を想像するだけで目眩がしてくる。
部屋に備えられた調度品も家具も、使い捨ての備品ですら、高級感を感じさせる。そんな中でも、見覚えのある絨毯に、自然と目が行く。シャルちゃんとも顔を見合わせて頷く。
「この織り柄……ディーちゃん、やっぱりこれ――」
「うん。うちの村のだね」
手触りといい、織り方の癖といい、覚えしかない。さすがにどこの家のかまでは分からないけど。
こういう格式高いところで故郷を感じると、なんだか不思議な気分になる。
「おや、冒険者様、お目が高い。そちら、大変貴重な、カボニー村の最高級シルク絨毯でございまして――」
二人で絨毯を観察していると、荷物を運んでくれた従業員が解説を始めた。
いや、知ってるよ、私たち。その村の出身だからね。こういう絨毯は見慣れたものですよ。
「――お値段にして、金貨で二千枚となっております」
「「二千!?」」
二人で声を上げ、慌てて手を離し、立ち上がった。
よく知っている友達が、突然、雲の上の存在になったみたいな、そんな感覚を覚えた。
「これ、上を歩いていいの?」と、声が漏れる。
「どうぞどうぞ、お構いなく。そのための絨毯ですから」
いや、そうだけども……。ええ……だって、金貨二千枚って……国内流通分は、金貨の枚数、一桁は少なかったよ?
狼狽える私たちをさておいて、従業員は荷下ろしを終えると、「どうぞ、ごゆっくり」と挨拶して退室した。
うちの村の商品の卸し先は、ちょっと前まではメルコさん、最近ではマイさんに一任されている。ということは、あの二人……というか恐らく、いや、十中八九、メルコさんの仕業に違いないだろうと私は思った。そしてこのとき、勝手に私の中で、メルコさんの評価が上がった。
「お二方? いつまで絨毯のことで物思いに耽るおつもりですか? 早く着替えて遊びますわよ!」
おっと、そうだった。……そう、だった……!
絨毯の値段がどうこう考えてる場合じゃなかった! 私はこれから、三人の慰み者にされるんだった。えっちな水着を着せられて!
――えっちな水着を着せられて!!
嬉し恥ずかし顔を上げると、シャルちゃんと目が合った。ニコリ。シャルちゃんが可愛い笑顔を私に向ける。
可愛い。確かに可愛いのだけれど、今はその笑顔に見えない圧を感じる……。赤縁メガネの奥の、真っ赤な瞳が妖しく光る。
「ディーちゃん、着替えよっか♡」
シャルちゃんの言葉が発せられると、私は後ろから羽交い締めにされて、ひょいと持ち上げられた。薔薇の香水の香りがフワリと漂う。ユニエラちゃんだ!
「待って待って、ユニエラちゃん! 着替えくらい一人でできるって!! 放してくれない?」
「いやですわ、ディティス様。ディティス様を脱がすところからお手伝いする。それが私たちの間での常識――作法ではありませんの!」
「そんな常識も作法も知らないんだけど!? シェリーちゃん! 違うからね! だから助け――」
「ディティスちゃん、私も頑張ってお着替え手伝いますからね!」
顔を真っ赤にして、手で顔を覆いながらも、指の間でしっかりと私を見ているシェリーちゃんが、そんなことを宣う。私の声は届いていないようだった。
「シェリーさん、大丈夫です。ディーちゃんは口だけで嫌嫌言ってるだけなので、始まってしまえば大人しいし可愛いものです! シェリーさんの好きなところから脱がせましょう!」
「何言ってるのシャルちゃん!?」
事実だけど……。
「じゃ、じゃあ――」
「靴下からとは……やりますわね……シェリーさん!」
「片方だけとか……どうですか?」
「良い! 良いですよ、シェリーさん! そう! ディーちゃんを半脱ぎにするなんて分かってますね! 逸材です!!」
「え、えへへ……」
えへへじゃないんだよなぁ……。
「でも――このままでも充分お楽しみできるけど、今回は水着に着替えさせないとなので、断腸の想いで脱がせましょう!」
「はい、シャルティ先輩! ――えい!」
こうして、脱がせるだけの行程だけでもかなり楽しんだ三人なのでした。
私? 私は……美少女三人から寄ってたかっていろいろ触られて、正直、すごく興奮しました……って、何言わせんだ!!
この話、いる?
いる!!(鋼の意思)




