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シデリアン洞窟編Ⅻ

 狩りの成果は上場。これで餓死は避けられそうだ。

 岩塩が残っていた幸運な人が何人かいたから、味のない肉を食べることもない。人数的にだいぶ薄味にすることになるけれど、無いよりはマシだ。

 交代で見張りをしながら睡眠をとって、装備の修繕や手入れをして、再出発する段階に漕ぎつけた。

 装備の修繕については、鍛冶師の意地だと道具を守りきったロア君のお陰だ。 まぁ、鍛冶道具のみ全力で守ったために、その他の物はほぼ全て失っていたんだけれど。

「さて、みんな。僕たちは難所と言われているところを抜けた。まぁ、この先の魔物は下の奴らよりも強くなっていくらしいんだけど、ディティスちゃんと狩りに行ったときに数で圧倒されそうになるってことはなかったから、数の暴力はほぼなくなると思っても良いかもしれない。油断は禁物だけれどね」

 一呼吸置いてから、ジンベイさんは話を続けた。

「その油断で僕ら、というか、主に僕が、みんなに酷く迷惑をかけた。死んでしまった人も大勢出てしまった。死人を減らすためだった筈の作戦でね……。改めてお詫びする。謝ったって謝りきれないことをしたけれど、今は謝ることしかできない。本当に申し訳ない!」

 跪いて頭を地面に擦り付けるように謝罪するジンベイさん。この姿勢は昔、お母さんの本で読んだことがある。土下座だ、これ。

「策に乗ったのは俺たちだ。冒険者になるって決めたときから、いつかはこうなる覚悟はしておかなきゃいけなかった。少しばかり早すぎた気はするが」

 恰幅の良いお兄さんが口を開いた。

「ジンベイさんだって仲間を失ったじゃないですか。同じ被害者です」

 ジンベイさんを擁護する声が、それを機に続々と上がっていく。

「僕はあそこの異名だって知っていた。だけど、その意味を深く考えてなかった。だから起こった惨事だ。だからこれは、僕のミスだ」

 それでもなお、自分の罪悪感に打ちひしがれているジンベイさん。気持ちはわか……らないなぁ。自分の責任で人を大勢死なせてしまった時の気持ちなんて、今の私に分かるわけもない。

 でも、今回の惨事の原因を、ジンベイさん一人の責任として押しつけて良いこととは全く思えない。

「自己批判もいい。それで気が済むんならそうするがいい。だがな、俺も言わせてもらうが、俺だってあそこの異名については聞いていた。その上であんたの策に乗った。俺だってあんなのが起こるなんて思いもしなかったしな。ここにいる奴らで、あそこの異名について知らないやつはそう多くないだろう。だけどみんな油断してた。死んじまった奴らも、生き残った俺たちもみんなだ。お前一人の責任なんかじゃ絶対に無い。それだけは心に留めといてくれ。そのままじゃ、ここを抜ける前に、お前の心が死んじまうぞ」

 お兄さんの話に続いて、私も声をかける。

「ジンベイさん、私は、あそこの異名とかいうのは、知らなかったんで、警戒も何もなかったんですけど、責任どうこうについては言う資格が無いです。ただ、あの場所で、ジンベイさんみたいな強くて頼れる大人が近くにいてくれてすごく安心できてましたよ。短い時間でしたけど、あのキャンプは確かにいい場所だったって断言できます。疲れたみんなが戻ってきて、あそこで休んで、助けを求められたらみんなで助けに行って――。あそこにいた人達はみんな楽しそうでした。えっと、だから……元気出してください!」

「最後雑だな」

 私はこれでも一応真面目に話しているんですよ、ロア君や。

「ロア君はカッコよく、私より上手く話せるようですね。どうぞどうぞ」

「え!? いや、あの、なんだ……」

 チラリと目配せしてアイちゃんに助け船を求めるロア君。

「だ、ダメだよ、ロア。ひ、人が真面目に話してるの、ちゃ、茶化すから。わ、私は、し、知らない」

「アイ!? えーっと、その……他の人と以下同文です……。ごめんなさい」

「私は心優しい美少女でありますから? 許してしんぜよう」

「感謝感激雨霰デス、美少女ノディティスサン」

 この三人のいつものやりとりも、ほんの一日二日しか経っていないのに、懐かしく感じる。

 思わずアイちゃんが吹き出して笑う。それを見て釣られて笑う人たち。久しぶりに見るみんなの笑顔だった。

 そして逆に泣いてしまう人が一人。ジンベイさん。

「ありがとう、ありがとうみんな。僕を励ましてくれて……。でも罪は罪だ。僕は、この出来事を罪としてこれからも背負っていく。それは変わらない。これは僕のけじめだから、許してほしい。でも……そうだね。いつまでも卑屈になってちゃいけないね。こういうことは、冒険者をやっていれば今後も増えていくんだろう。それならせめて、外面くらいは気丈にしていないとね」

 立ち上がり、涙を拭って、鼻声でそう言いながら、ジンベイさんはやっと笑った。何か少しだけ吹っ切れることができたようで、私たちは安心した。

 あれ、ジンベイさんも泣いてすっきりするタイプの人じゃん。

 ジンベイさんの人物像分析なぞ得意げにしてたくせにこの様だよ、私。

「それじゃ、行こうか。最奥へ。最後の試練だ!」

 ジンベイさんが号令を出す。

 おう! と多数の声が洞窟内で響いた。窪地のときよりずっと少ないけれど、あのときよりもずっと頼もしく、力強い声だった。

 死なせてしまった仲間たちの思いを背負って、ジンベイさんは、そして私たちは、ここから再スタートする。

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