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シデリアン洞窟編Ⅶ

2025/04/27 改稿

 前進基地キャンプと呼ばれているこの場所では、テントの布を、天幕に至るまでもすべて地べたに敷いて、あちこちで篝火が焚かれていた。

 疲れたり、怪我をした冒険者たちがここに戻って、食事や治療、仮眠などをしているのだそうだ。

 火を恐れない魔物が、度々キャンプ内に出現するため、それを狩る見張りもいるそうで、野戦病院とまでは言わないけれど、それに近い状態にはなっているようだった。


 窪地の位置的には、現在、出口へ続く道の真下に当たる壁沿い。私たちが降り始めた壁の底の対岸のあたりだ。

 壁には、梯子のような物がかつて架かっていた形跡があった。

 入り口の方に架かっていたものと同じもので。これも踏板が腐り落ちていて、とても使えるようなものじゃない。

 順当に考えるのなら、上に登るルートに到達するには、もう四分の一ほど壁沿いに進まなければならないみたいだ。


 お兄さんが言うに、この前進基地キャンプは、先輩冒険者であるお兄さんたちから、この窪地を一気に突破したが、体力的に辛かったという話を聞いて思い付いたそうだ。

 私はそれを聞いて、ここのことについては守秘義務とかあるのかと思ってたけど、話してもらえるものなんだと目を丸くした。


 ――が、


 その辺を突っ込んで詳しく聞くと、どうも、守秘義務自体はやっぱり有るらしい。

 ただ、誰も咎めないし、一々冒険者全員の会話内容を聞いて摘発なんてやってられないから、先輩冒険者たちは、聞かれたら答えるという方針で、ギルド側も、ギルド職員の前でさえやらなければ見逃してくれるそうだ。

 さすがに職員の目の前で堂々と守秘義務違反をされたら捕まえざるを得ないというのは当然な話だ。


 このキャンプだけど、ただの思い付きではあったけれど、実際にこうしてやってみると、戻って休める場所があるというのは、肉体的にも精神的にも強い支えになっているようで、自然と、このキャンプの維持と前進が、利用者の仕事のようなものになっているそうだ。


 今現在、この窪地にいる冒険者は、私たちを含めて一五〇人ほどで、その中で、このキャンプを利用しているのは一三〇人ほどだという。

 初めは五人のパーティでキャンプを作り、後から来たり、先にいた冒険者たちを誘っては規模を拡大していったそうな。

 私たちが到着するまでの僅か四日程でこの規模になったというのだから、それは驚いた。

 先にそんなにたくさん人がいたのかという意味合いの方が強いけどね……。

「一五〇人中、一三〇人ってことは、残ってる二十人はどこにいるんですか?」

「あー、その二十人は、二日ほど前だったかな? 初めからその人数でパーティを組んでいてね、その数は心強いから誘ってはみたんだけど、リーダーの子にすげなくフラれてしまったよ。その時から見ていないから、もう抜けてしまったんじゃないかな?」

 君たちはどうする? そう、お兄さんに聞かれて、私たちは二つ返事でこれを快諾した。

 この先は、より強い魔物が出ることが予想されるし、三人じゃ流石に厳しいと思ったからだ。


「あ、そういえば、結構話してたのに、自己紹介してなかったね。僕はドーヌキ=ジンベイ。ジンベイがファーストネームだよ」

 うっかりさんにもほどがあるのでは? 実のところ、いつ名乗ってくれるか、尋ねられるかするのかと待っていたのだけど、今この時までついぞ尋ねられなかったのはある意味で奇跡だよ!?

 というか、私たちお互い名前呼んでたよね? 覚えてなかった? 覚える気が無かった?

 ジンベイさん。すごく強いけど、どこか抜けてる人なのかな?


 こちらから名乗るという手はもちろんあったよ?

 実際、何度かそうしようともしたのだけど、この人の質問の圧の前に成す術もなかったのよ……。


 やっとか。と、そういうことを私含めてみんな思ったのだろう、三人ともで、苦笑しながら自己紹介した。

 

「ディティス、ロア、アイ。うん、覚えた。よろしく。今日は、あと二時間くらいでキャンプの移動をするから、それまで周りの魔物を狩って、食料や燃料の確保をするよ。君たちは来たばかりだから、休んでいてもいいけど、どうする?」

「いえ、やります。キャンプの移動先の魔物を優先して倒すとか、そういうのはありますか」

 まだ子供扱いされているみたいだと思ったので即決参戦です。参戦するのならルールの確認は大事。

「いや、そういうのはないよ。この窪地は毎日、一定の時間で魔物の出現が極端に減る時間帯があるんだ。そこでキャンプを移動させる。それまでは、できるだけキャンプに魔物を近づけないように、各自遊撃をするって感じだよ。その時間帯がくるまでは、ひっきりなしに魔物が出てくるから結構大変だよ?」

 なるほど。確かに結構大変そう。


「あ、あの。い、今言った、に、二時間後が、そ、その、ま、魔物が減る時間、な、なんですね?」

 アイちゃんが確認すると、そういうことだよとジンベイさんが返した。

「アイがそういうこと確認するの珍しいな。どうした?」

「に、二時間も、ず、ずっと戦い続けるのは、は、初めてだから、だ、大丈夫かなって、す、少し、ふ、不安で……」


 そうなのよ。そこなのよ。四方八方から現れ続ける魔物たちと、ひっきりなしに戦い続けるのは私たちは初めてなのよ。

 アイちゃんの不安はもっともだし、私たち三人の不安でもあるわけで。

「あぁ、二時間ぶっ続けで戦わなくちゃって思ってるのか。なら、その辺は大丈夫だよ。疲れたら、少しずつ後退してキャンプまで戻ってくればいいよ。近くまで来たら、スイッチって叫べば、キャンプで先に休んでた人が交代に出てくるルールになってる。交代した人に引き継いで、君たちは休む。他の人からスイッチって聞こえたら、君たちが引継に出る。持ちつ持たれつってやつさ」

 互助のルールがあるのなら安心、なのかな? アイちゃんも少しほっとした表情だ。


「スイッチ!」

 説明を聞いたそばから、外からの引継要請の声が聞こえてきた。すると、先に休んでいた数名が立ち上がって声のした方へ走っていく。

 暫くすると、先ほどの声の主だろうか、男の人数名が見るからにヘトヘトといった雰囲気で、よろよろとキャンプにやってきて、倒れるように敷き布に転がった。

 なるほど、あんな感じになるんだ。


「それじゃ、習うより慣れろだ。さっそく、行ってもらおうかな!」

 ん? 私たちだけで行く感じ? てっきりジンベイさんが付いてきてくれるのかと思ってた。

「えーっと、ジンベイさんは監督として一緒に来てくれたりしないんですか?」

「うーん、行ってはあげたいんだけど、ゴメンね。一緒には行けないんだ。このキャンプで火の番をするのが今の僕のパーティーの役回りでね。君たちを迎えに行く直前には決まっていたんだ」

「そうですか、それなら仕方ないですね。頑張ります!」

「頑張ってね!」

 そう言って、笑顔で手を振るジンベイさんなのでした。

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