プロローグ
空は真夏の暑さを残し、雲一つない快晴。
バスの窓から暑すぎる太陽光が差し込む。
外には山の木々が揺れ、川は穏やかに流れる。様々な野鳥も飛び、自然そのもので溢れているその景色は、人々の心を穏やかにさせる。
木々は風に吹かれ、おおらかに、包み込むように揺れる。
そんな山道を行くバスはよく揺れる。
曲がりくねった道を上るため、左右にも振られる。
ガタガタと鳴るバスの一番後ろの席で、窓から外を眺める少年が一人。大きな荷物と土産が入っているらしい袋を持っている。
暑いのだろうか。少年は窓を押し上げ、外からの空気を入れようとした。
冷たい風が入り、少年の色素の薄い髪を撫で付ける。少年は、前髪が風に持っていかれるのをうっとうしそうに手で押さえた。
バスがカーブに差し掛かる。
ガタガタと揺れるバスの中、少年は眩しそうに目を細め、窓の外を眺めていた。
ガタガタガタガタ……
山に音が響き渡る。
少年が背もたれに寄り掛かる。
と、同時にバスに大きな衝撃が走った。
少年は驚いた表情で窓の枠に右手をかけた。
バスが左に傾く。
バスのブレーキ音が鼓膜を叩いた。
重力により少年の身体は左に大きく傾いた。
バスの中は混乱に陥り、叫び声に満ちる。
必死に窓に喰らいつくが、右手だけでは支えきれず、少年の指は虚しくも宙を掴む。
そのまま身体は反対側の窓まで持っていかれ、背中を強く打ちつけた。
少年の顔に苦痛の色がにじむ。
バスにさらなる衝撃が起こる。ガードレールを跨ぎ、突き進む音がする。
ブレーキの音。
運転手の声。
乗客の叫び。
瞬間、少年の身体がふわりと浮いた。
そしてまた衝撃が走る。
全身を強く打った少年は、回る世界を見ながら意識を手放した。