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猛虎マネージャーとマイペース後輩

作者:

そいつの第一印象は、『人形みたいなのが座ってる』


入学式の後の恒例、各部活による新入生勧誘。その一角に陣取られた男子バスケ部のスペース。

チラシ配りをするゴツイ部員たちに囲まれて一人入部受付けをしている……ちょっと驚くぐらいの美少女。


だが。


美少女の表情筋は仕事してない。


笑えば何の苦労もなく老若男女篭絡出来そうなのに全く動かない。用がなければぴくりとも動かない。


その上、目に光がない。


いつもなのかあの場所にいることが原因なのか目が完全に死んだ魚である。


制服を着た等身大人形を客寄せに座らせていると言われたら信じてしまいそうだ。


美少女は(そうは見えないが)一年の自分より先輩なのだろう三年はあり得ないから二年か。


元々バスケ部には入るつもりだった。さらには興味深い先輩もいる。

彼女に近づかない選択肢は彼の中にはなかった。



第一印象は、『なんか女遊びしてそうなのが来た』でした。


「ねぇ、センパイって彼氏いる?」

「……ナンパなら学校外でお願いします」

「ねぇねぇ名前なに?」

「黙秘します」

「ねぇねぇねぇいつも死んだ魚みたいな目をしてんの?」

「普通に失礼ですよ。あとうざい」

「ねぇねぇねぇねぇ、センパイってしょ」

「公共にそぐわぬ発言は潰しますよ。うざい」


長机に座りかれこれ五分は喋り続ける新入生にいつにも増して死んだような目になるマネージャー。語尾に本音が入ってる。

誰でもいい。誰か止めろ。こいつを追い払えと思うが相手が一年ながら背が185は軽く超え、ガタイがいいせいか妙に相手がイケメンで気後れしているのか効果のない注意がせいせいで全く事態は動かない。


ここにいる部員は皆二年だ。席を外している三年、特にスタメンメンバーがいれば事態も少しは違っ……。


(いや、面白がって事態を悪化させる、絶対に)


メンバーの顔を思い出し、一部の常識人を除いて奴等が全く当てにならないことにマネージャーは絶望した。


「セーンパイ。俺の話、聞いてる?」

「心底興味がない」

「ヒデェー(棒読み)」

「用が無いなら帰って下さい」

「断る。センパイって誰にでも敬語なの?」

「うざい」

「遂に単語になったー」

「…………」


もう、無視だ。無視しかない。マネージャーは口を閉じ目を閉じる。ザ、寝たふりだ。


「センパイ?」


反応するから付け上がり居座り続けるのなら完全に無視するまでだ。

俯き、腕を組んで完全に無反応になったマネージャーに「ねぇねぇ」と話し掛けて来る後輩だったが一切反応がないとわかると声も途絶えた。


(帰った?)


そろりとマネージャーが薄眼で様子を窺うのと後輩が彼女の顔を上げさせその白い頬に唇で触れるのはほぼ同時であった。


「「「「あ、」」」」


突然の暴挙に周囲も被害者も固まる。

この周囲だけ切り取られた絵画のようである。


唇のギリギリ端、限りなくアウトに近い気が物凄くするがマネージャーの中ではセーフだと主張したい位置に感じる感触と温もりが何を意味するのか。


と、いうか近づいてくる後輩に気付いて咄嗟に逃げよとしなければ最悪の光景が広がっていたことだろう。


「あー、急に動くから外れた。全く、次は動かないでよね。センパイ」


そう言って再び近づく後輩を死んだ目で見つめながらマネージャーは長机に手をかけた。


人形が猛虎に豹変するまであと、コンマ数秒。






「うぁぁぁぁ!落ち着いて下さい。気持ちは分かるが落ち着いて〜〜〜〜!!」

「スゲェ、表情筋全く動かさずに長机をぶん投げてきたよ、あの人」

「眠ってた猛虎を呼び覚ました元凶!なに人ごとみたいに!」

「あ、俺バスケ部入部希望なんで、ヨロシク〜〜」

「猛虎が暴れ回るこの状況で口にするのがそれか〜〜!何、この、一年!」

「怒ってんのは行動で分かるんだけど目は死んだままなんだよな〜〜不思議」

「もう、いやだぁ。うちの部は三年といいどうして奇人変人の類ばかり集まるのか!」



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