第二話「広大な世界の一部で」
俺は中庭を離れ、元の台座のある場所に戻り
大きな柱の並ぶ間を抜け、廊下に出る。
廊下は、柱に取り付けられている小さな石が
うっすらと辺りを照らしているぐらいで、窓の一つも付いていない。
ここにも、ファンタジーな要素があるなぁ。
石を取り外してみても、電気のコードが付いているわけでもない。
石単体で光を発生させるのか。ちょっとワクワクするなぁ。
転々と淡い光の続く廊下の先へ、大声で叫んでみたけど
人の気配をまったく感じない。
こんなに凄い建物なのに、人が誰も居ないなんて
一体どういう場所なんだ・・・・・・・・?
そもそも、俺はなんで台座の上で寝ていたのだろうか?
生まれ変わりというなら、赤ん坊の姿でもおかしくないけれど
少なくとも、この体は成長途中の子供のモノだ。
じゃあ、この世界で魔法が使えるとしたら・・・・・・・・召喚の類とか?
魂だけを、召喚?じゃあ、この体は何だろう・・・・・・・・?
神殿のような場所に、寝ていたこの体は――――――――――――。
ぶああああ、ストップストップ!
こんな薄気味悪い場所で思い出す事じゃなかったっ
こわっ!やめだやめだ。
結論を急ぐべきじゃない、羽とか尻尾とか
見たこともないオプションがあるわりに、ごく自然に馴染んでいるんだ。
俺の魂が、他人の死体にスポーン!なんて事があるわけない。
あるわけないー・・・・・・・・。
歩くのに邪魔なくらい、尻尾が足の間に入り込んでしまってる。
尻尾は感情と対になっていて、思うように動いてくれない。
これじゃあ、いざという時のポーカーフェイスも、役に立たないではないか。
まぁ、ポーカーフェイスが出来るかどうかは、やってみないと分かんないけど。
廊下はそんなに長くもないし、台座の広間程だだっ広くもない。
突き当りには、階段が上に続いてる。
大きく頑丈な両開きの扉があった。
素材は分からないけど、木材でも鉄でもなさそうな扉だ。
叩いてみると、ゴンゴンと鈍い音がする。
結構重いぞ・・・・・・・・この扉。
重いってレベルの話じゃないな、鍵でもかかってるみたいだ。
だけど鍵穴なんて見当たらないし、なんだ、これッ
俺のありったけの力と体重を、扉に傾けているのに
数ミリ動いたか、動いてないかという程度だ。
「す、すみませーん! だれか居ませんかっ?」
これ、人が通りかからなかったら、ヤバイんじゃないか?
訳も分からない場所で、変な建物に閉じ込められたなんて
冗談じゃない!開けー!開けゴマ!
子供体型で腕力が無いにしても、この扉は重過ぎる――――――――――!
ふぎぎぎぎ・・・・・・・・・・・・!
頭に血が上ったのか、額がじんわり熱くなってくる。
両手で踏ん張り、扉を全体重で押す。
体は完全に扉に寄りかかる体勢だ。足はズリズリと外に滑る。
力尽きる寸前、ゴツンと額のツノが扉にあたると
バリィィ――――――――――――――――――ッ!
ガラスの割れるような音が響き、
俺の体は扉の向こうへ放り出されていた。
「ぐえっ・・・・・・・・」
先程までの廊下とは打って変わって、暖かな日差しの差し込む
明るい廊下に、出ていた。
開いた勢いで、顎を思いっきり打ち付けたけど
結果オーライ。イテテ。
扉を改めて確認すると、外側にも鍵穴は存在しなかった。
ただ床に、小さな石。台座周辺に転がってたのと同じものが
コロリと落ちている。
たぶんコレが扉の隙間に挟まってたんだろう。
割れた勢いで開いたんだな・・・・・・・・。
俺のせいでは――――――――――無い!うん。
念のため石は、扉の内側の隅の方に転がしておく。
証拠隠滅ではありません。踏むと危ないので仕方なくです。
それより、扉の外の廊下は、飾り枠のされた窓が並び
外の景色が一望できた。
緑っていいね。癒される―――――――――――
なんてレベルの緑じゃない。
樹海だ。外は巨木の樹海しか見えない。
外の景色を確認しながら、廊下をぐるりと回っているが
森の奥の全容がみえない程、みっっっっちりと囲い込まれている。
まるで、森のド真ん中に神殿を立てたのかってレベルで。
建物の廊下は、グルリと続いていて
中央の辺りには吹き抜けがあり、先程までいた中庭が見えた。
そして、地下にあった台座の真上の部屋は
大きな男女の彫刻が2体と、綺麗なステンドグラスがあった。
なるほど、俺が寝てた場所は地下で、
ここは教会のような場所なのかな?
何にしても、不思議な造りの建物だ。
まぁ、ここは異世界だろうし、俺の世界の常識は
あまり当てにならないだろうけど。
まぁね、期待はしていなかったけど
人の姿もないよね。
一応出口もあるけどさ、どうするのこの樹海。
道もないよ。作っていたけど草木が生えて無くなったとか
そういう痕跡もなく、最初から必要なかったみたいな?
はい、詰んだ。
どうすんですかコレ。
本当に人の出入りがあるのか怪しくなってきたぞ・・・・・・・・
一か八か、この羽で飛べるのか試した方がいいのか。
それとも、この建物を管理しているであろう、人を待つか。
あまりゆっくり考えていると日が暮れてしまう。
俺は身に着けていた布を、肩から腰の辺りに巻きなおし、
羽の邪魔にならないようにする。
正直、こんな小さい羽で人が飛べるのか怪しいけど
少しでも試しておけることは、すぐに試しておく!
いざとなったら、素足だろうとこの森を踏破してやる・・・・・・・・!
まずは、近くの柱に手をついてチャレンジだ
幸い、動かしたことも、生えていた事もない羽だが
どうすれば羽ばたけるのか、この体が覚えているようだ。
驚いた事に、バサっと羽を動かせばすんなり足が床から離れた。
何だろう、羽ばたき一つで重力を体が感じなくなったようだ。
コレだけで体が浮き上がるのは、おかしい。
柱から手を放していたら、フワフワとどこまでも上昇してしまいそうだ。
羽ばたけば、このまま上昇するのは分かった。
それに、体を少し前に傾けると、思った通り前に進む。
これは羽で飛ぶというより、羽を介した魔法かもしれない。
しばらく柱の周りをぐるぐると飛行してみて、問題ない事を確認する。
魔力切れで落下したらシャレにならないし、
あまり高くは飛行しない。何事も予測と警戒が大事なのだ。
さて、飛行できるのはわかった。
次はどこに向かって飛ぶか、という問題だ。
まぁコレも、このまま真上に飛んで、街だか道だかを探せばいい。
あえて問題があるとすれば――――――――――――――
このどこまでもデッカイ巨木のせいで、かなり高く飛ばなくてはいけない
という一点だ。まぁ、ざっとビル10階程度ですかね?
うひー・・・・・・・・
落ちた時は、いつでも手が届く位置に枝が来るよう
慎重に上昇していく。
正直、空を飛ぶのに憧れていた時期もあったけど
実際問題、突然飛べるようになったとしても
この高所は恐ろし過ぎる。
ようやくてっぺんの葉を抜けると、
広大な森が一面に広がっていた。
ある場所には、大きな岩が森から斜めに飛び出し――――――――――――――――――
また別の場所には、大きな骨がこの巨大な木々を囲い込み―――――――――――
空には、いくつかの岩がなんの支えもなく浮き――――――――――――――――――――
天まで届きそうな山々に、見たこともない生物が飛んでいる――――――――――
夢にまで見た、幻想の世界が目の前にあった。
ワクワクしているのか、ゾクゾクしているのか、
ただ今までに感じた事のない興奮と、恐怖とが心の中で渦巻いていた。
巨大な森に隠されるように、ポツンと神殿がある。
あんなに、巨大な建物だと思っていたのに、
この自然の中でみると、本当に小さく見えてしまう。
それに、一体どこに向かって進めばいいのか、
まったく分からなくなってしまった!
こんな壮大な自然に囲まれてしまえば、もう笑うしかない。
目に見えるものほとんどが、規格外の大きさなのだ!
意を決して、俺はさらに上へと上昇する。
高度をとれば、さすがにもう少し何かが見えるかもしれない。
ゴォゴォと風を切る音だけが聞こえ、
一気に雲のそばまで飛び上がる。
さすがにこの高さだと、感覚がマヒして高所の恐怖が和らぐ。
「あった! たぶんアレは人の作った道だ・・・・・・・・!」
飛び出し岩のさらに奥、森の終わりと草原。
そして、その草原を一本の道が見える。
遠目で分かりにくいが、その一筋だけは土がむき出しで続いている。
喜びのあまり、一気に岩の方へ滑空する。
今気づいた事だけど、かなりの速度で落下してるにも関わらず、
風の抵抗があまりない。まるで風の膜で守られているようなのだ。
俺は調子に乗って、ビュンビュンとスピードを上げていく。
飛行も慣れれば怖くなかった。
森を一気に抜けると、爽やかな草原地帯が現れた。
遠目で見えていた道は、車輪の通った轍の後がいくつもあり、
土と砂利でボコボコとした印象だ。
石畳の、とはいかないにしても、人の往来があったのは
間違いなさそうだ。
森を避けるように、前後に伸びている。
たぶん、どちらを選んでも、人のいる場所にはたどり着けそうだ。
このまま、太陽の方角へ進んでみよう。
じゃり。
俺が地面に足を下ろす前に、土を踏む音。
振り返る間もなく、頭部に衝撃を感じ、
そのまま意識を闇に手放してしまった――――――――――――――。




