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結局、クリスが魔法で熊達の動きを封じ込め、そこにリューとダークエルフのファルが体を強化する魔法を使って熊達を仕留めたということになった。
仕留めた時の音は、火薬が破裂したような、爆竹のような音が響いたので、その音でハンターのワルター、そして彼と行動を共にしていた老婆魔法使いが山小屋へとやってきた。
やってきたのは音だけが理由ではなく、熊を追ってきたらしい。
そう、クリスが熊の群れを仕留めてその死骸を皆と片付けていると、この小屋を熊が包囲したときに上げた咆哮が、ワルター達の追っていた熊を呼び寄せることになったらしかった。
幸いと言うべきか、その熊は、小屋にたどり着くことなくワルターに処分されたようだが。
そこからは、リューが色々とやってくれたので、異国での危険魔法無断使用についてはバレなかった。
そんな熊の襲撃から二日後。
不法侵入者兼、害獣兼、魔物用の罠のチェックをしていたクリスの元にノエルとファルがやってきた。
二人は自転車の籠いっぱいに、スターフルーツを詰め込んで持ってきた。
屋根とチャーハンのお詫びらしい。
さすがに良心が痛んだようだ。
感心しながら、今晩の晩酌のあてにでもしようかとクリスは考えつつ、
「ありがたくもらっておく」
そう言った。
そして、女子高生二人に背を向け仕事を再開する。
しかし、二人は帰らずにじぃっとクリスを見ていた。
「他にも用事があるのか?」
罠の点検をしつつ聞いてみる。
すると、ダークエルフの方の女子高生ーーファルが目をキラキラと輝かせて聞いてきた。
「うちの弟から聞いていた以上に魔法が強かったんで、今後の参考にお話しきかせてください。
つーか何で、そのこと言わなかったんすか?
一躍有名人だったのに」
さて、どう説明したものか。
クリスは軽く頭を掻くと、口を開いた。
「一応、ここだと俺外人だしなぁ」
言うと同時に、畑に仕掛けている魔法罠と通常の罠のチェックが終わる。
次は、山の手いれである。
一般に燃料の確保だけだと思われている柴刈りだ。
昔話で度々登場するこの行為。
燃料の確保と売買の他に、山の手いれという役割がある。
取ってきた柴は定期的にくる業者へ売っている。
もちろん、自分達が使う分は残している。
「ちゃんと合法的に入国はしたけど、それと魔法の使用は別物なんだよ。
下手したら国際問題になるから」
「えー、でも、冒険者の人たちってその辺お構いなしなのに」
ファルがズケズケと言った。
「それは逆だよ。あの人達は冒険者っていう身分とクエスト目的って理由がはっきりしてる。
だから、これはお仕事です。
お仕事の証明になる依頼書がこれですって提示すればいい。
でも俺は、この国で危ないことや他の人に危険が降りかかることはしません、やりませんって条件でいさせて貰ってる立場なんだ」
だから、本当だったら熊の襲撃から逃れるためとはいえあの魔法は使ってはいけなかったんだと説明する。
それに女子高生二人はそろって首をかしげた。
「正当防衛になるのに、ですか?」
ノエルがさらにきく。
「まぁな」
「なんか変なの」
ファルが直球な感想を漏らした。
「そんなに変かね?」
「変っすよ。
だって、自分の身を守るのは悪いことじゃないのに」
たしかに、正当防衛は悪いことではない。
しかし、
「悪いことじゃないって当事者だけが知っていても意味が無いんだよ。
客観的に見て、本当に他意がなかったのかとか調べなきゃいけなくなるんだ。
今回の場合は俺が熊の殺処分をしたわけだけど。
そこに危険は無かったか?
安全を確認してこの処理は行われたか?
その処分の方法は適切だったか?
とか、とにかく確認されることが多い。
んで、さっきも言ったが俺は外人なわけだ。もちろん正規の手続きでここにきた。
でも、こういったことが起こると俺自身についても調べられる。
正規の手続きを本当に踏んだのか?
もといた国では何をしていてなんの目的でこっちの国にきたのか?
どうしてここで友人の手伝いをしているのか?
とか。
犯罪防止のためだが、やられる方にしてみればたまったもんじゃない。
それに、痛くもない腹を探られるのはあんまり気分が良いもんじゃないんだ」
柴用の篭を用意して背負う。
そんな彼にやはりファルはどこか不満げに呟いた。
「なんか理不尽」
「世の中ってのは理不尽なものなんだよ。
正しい行いが正しく評価されないのが普通なんだ。
お前らも、これから就活がまっているだろうから言っておくと、会社は求めた答えを言える人材しかほしがらないって言っても過言じゃない。
子供のうちに言いたいことをいって人生を楽しんでおくことをすすめる」
なにしろ、子供は大人になれるが、大人は子供に戻れないのだから。
「なんか爺くさい」
ファルがやはりズケズケと言った。
「まぁ、世間では初老みたいだしなぁ。
爺になったからって残ってる人生を過ごすには金がいるんだよ。
つまりは仕事をして飯を食わなきゃいけないんだ。
そして俺は飯を食うために今現在仕事をしているわけだから、お前らももう帰れ。
休みなんだから他所行って遊べ」
ファルの爺くさい発言を流して、クリスは山に向かう。
「遊べるところあったら、ここに来てないんですけど」
ノエルの呟きに、ファルもうんうん頷く。
「そーそー。
ウチら、まだ未成年だからパチンコも馬も出来ないし。
オンラインゲームはジャンル外だし。
ソシャゲはたまにするけど、作業ゲーだし」
「どーでもいいけど、刺激を求めて煙草やヤクはやんなよ」
クリスが半分冗談で言えば、ファルがノエルへ言う。
「煙草はともかく、クスリってどうやって手に入れれば良いのかわかんないんだけど」
「うん? ウチの山に原料たくさん植わってるよ。
アレを燃やして、その煙吸えばトリップできるって父さん言ってた」
田舎、怖いんだけど。
ノエルの言葉に、クリスが半眼で言った。
「やるなよ?
人生台無しにしたくなければ、絶対にやるなよ?」
「やるわけないじゃん。
自分、煙草嫌いだし。
臭いがダメ。頭痛くなる。
それだったら、チョコと紅茶でキメた方が良いし」
「あ、私も私も」
「キメるとか言うな」