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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
強姦の冤罪着せられて国外追放されちった(笑)
5/36

 「食べ残しとか食べかすがあると何かまずいのか?」


 クリスの疑問に、リューは車の窓を開ける。

 それから、ポケットに入れてたタバコを一つくわえると美味しそうに吸った。

 そして、煙を吐き出してくわえタバコのまま車のキーを回した。

 エンジンがかかり、ギアをドライブに入れてリューはトラックを発進させた。


 「習性なのか、熊って自分の食い残した餌をまた食べにくることがあるんだ。

 あと、火を怖がらない。

 昔、他所の村の話だけど、その村を巨大な熊が襲った。

 当時は真冬で冬眠しそこねた熊が食い物を求めて村にきたらしい。

 当然被害者がたくさん出た。食い荒らされた家族の葬式を遺族は当然だした。まだ、いまみたいに捜査とかが整ってなかった時代の話だ。今だと遺体を警察に渡して色々調べるけど当時はそれが無かった。

 簡単な村人への聞き取りをして、あとは熊を見つけ次第殺処分するってことで話がまとまった」


 役所の駐車場を出て、もと来た道を戻る。

 ハンドルを操作しながら、リューは続ける。


 「腹いっぱいで、まさか熊が戻ってくるなんて誰も考えてなかったその村人達は各家で通夜をやった。

 葬式は合同でするけど、最後の夜は家族だけで過ごしたかったらしい。

 そのうちの、通夜をやっていた一軒に熊は戻ってきた。

 驚いた住人は散り散りに逃げた。

 逃げ遅れたその家の主人と子供が喰われて被害が大きくなったって話がある。

 火を焚いていたけれど他の魔物や動物は怖がって近づかないはずなのに、その熊は用心のために外で焚かれていた火を怖がらずに家に入ってきたんだと」


 結局、翌日にその一家の惨状がわかり、逃げ延びていたと思われるその家の妻は凍死した状態でみつかったらしい。

 綺麗に死んでいたのはその妻だけ。

 子供も主人も判別がつかない食い荒らされた状態であった。

 その日の午後にマタギのオークと同業のドワーフが駆け付け、熊を探しだし射殺。

 胃の中からは食べられた人たちらしい遺体がでてきたと言うことだった。


 「うわぉ。

 でも熊から逃げる方法ってたしかいくつかあったよな?

 死んだふりとか、あと背中を見せずに熊が興味を持つものを少しずつ置いて、でも目を離さないように後ずさるとか」


 ずっと魔道技術の研究付けで知識がないクリスにリューは煙草をふかしながら説明する。


 「死んだふりは迷信だ。

 むしろ喰われる可能性あがるから絶対にやるなよ」


 まぁクリスなら、喰われる前に熊の頭を吹き飛ばすくらいするだろうが。


 「そうなのか?!」


 アラフィフ男が、子供のように驚いた声を上げる。


 「腹減ってて食べる気満々の熊の前で死んだふりとか、さぁ思う存分食べてくれって言ってるようなもんだぞ。

 食べなかったとしても猫がネズミにやるみたいにじゃれ殺すか、あとは餌だと思い込んで引っ張られて埋められるくらいされるかもな」


 「言われてみればたしかに」


 「それにどういう対処をするかとか、全部被害者あっての知識だからな」


 火を怖がらないと言うのも、他に似たような事件事故が発生して、その生き残りから得た情報だった。

 そういった熊に関する事件と事故を被害者達に門前払いもくらいながら、必死に調査し研究してきた研究者の成果でもある。


 今さらだが、リューはクリスなら大丈夫だろうと言っていなかった知識や情報がそれなりにあることを思い知らされる。

 住む場所が違うのだから、知識に差が出るのは当たり前だ。


 本当に今さらだが、クリスなら熊を近くで見てみたいとかいうふざけた理由で死んだふりとかをやりかねない。

 しかし、知っているのと知らないのとではやはりリスクが違ってくる。


 「さっき俺が役所で結界札もらってただろ?

 あれは、こういった非常事態のときにだけ配られる特殊な札なんだ。


 これも長年の害獣被害で生まれた道具の一つだ。

 あの札を貼った家を10日は守ってくれる。熊や魔物が侵入してこないためのものだ。10日経ったら効力が切れる。

 札は百姓の稼ぎでは逆立ちしても払えない、というわけではないけどそれなりの金額がいるから、買えない。

 だから税金で賄って配られてる。

 最近はそれも税金の無駄遣いだって言うやつがいて、その分の予算を減らして別の国家事業に回そうしてる。

 実際、それで除雪の予算が削られて一昨年は各集落が孤立する事態になった。

 例年なら除雪車が出て除雪してたならなんてことない雪の量だったんだけどな。


 不幸中の幸いだったのは、秋が豊作でそれなりの食料の備蓄があったことと、各家に農作業用の、土や堆肥を運んだり、畑をたがやしたりする一般的に農耕車って言われてる特別な車があったことだ。


 皆考えることは同じでこれを使って除雪した。いつもだったら除雪車が家の前に残していった雪を除雪するのに使ってるんだ。

 さすがに国と自治体にクレーム入れたよ。事前に天気で大雪になるってわかってたのに、お役所仕事で動かなかったんだからな。

 んで、肝心の除雪車は俺達が大半を除雪し終えた後にきた。

 さすがに発注を受けてるだけの土建屋を怒鳴るわけにもいかないから、まず事情だけ聞いた」


 話してるうちに怒りがこみ上げてきたのか、吸い終わった煙草を灰皿へ乱暴にグリグリと押し付けた。


 「そ し た ら」


 声にも怒気がこもっていく。

 まるで昔の、学生時代のリューのようだ。


 「そしたら?」


 懐かしいなぁと思いつつ、クリスは先を促す。


 「そのさらに前の年に、一部の町の奴等が『早朝に除雪車が来ると騒音で眠れないからもう少し遅くこい』っていう糞ふざけたクレームをいれてたらしい」


 そこでリューの思いだし怒りが爆発した。


 「ふっざけんじゃねーよ!

 早朝に来てもらわんとこっちが仕事いけねーっつーんだよ!

 騒音? それくらい他の住民のために我慢しろや!」


 除雪車という大型車両はエンジン音も五月蝿いし、そのタイヤにはチェーンが巻かれていてそれも走行するとガチャガチャととてもスゴい音になるらしい。

 しかし、昔からその土地に住んでる者には慣れっこになっている。

 なので、そんなクレームをいれる阿呆は少なくともそれまでいなかった。

 しかし、クレームはたしかに入った。

 考えられるのは、その冬の風物詩とまではいかないが何故除雪を早朝にやるのか知らない人間の可能性が高くなる。

 ちょうど時期はスローライフが流行りだし頃で、町の方に都会から引っ越してくる人間が少しずつ増え始めた時期でもある。

 加えてこの集落には兼業農家が多かった。

 リューもそうだが、他の家のご隠居と呼ばれる年寄りでさえ町に小遣い稼ぎへ言っている。

 特に冬となると雪で畑には入れなくなる。

 牛など家畜がいる家はまた事情が異なる。

 なので早めに除雪してもらうのが常識だった。

 しかし、それを知らない他所からきた人間が文句を言った。

 まず地元民なら言わない非常識な行動を取ったのだ。

 自治体は当初、このクレームに対して真摯に対応した。

 何故早朝に除雪するのか、それを丁寧に説明したがクレーマー達は自分達は余所者だから軽んじられてるととった。

 そして、連名で自分達の意見が受け入れられなかったのを理由に自治体を訴えた。

 さすがに訴えられるとは考えていなかった自治体は、クレーマー達ともう一度話し合いの場を設けた。

 その場でクレーマー達は和解する代わりに騒音被害の慰謝料を払えと言ってきたらしい。


 払わないなら訴える。


 もしくは除雪する時間を遅くすれば訴えは取り下げると。

 田舎育ちでないクリスにも、それはメチャメチャな要求だと理解できた。

 何が何でも要求を通す気だったのだ。

 そして、それはその翌年の大雪の日に災害といわれても仕方ないくらいの事態になってしまった。

 すると今度はそのクレーマー達はなんで除雪してないんだとキレた。

 さすがに役所の担当者がクレームのことを持ち出して、あなた方の意見を尊重した結果だと懇切丁寧に説明したが逆ギレを起こした。

 そんなこと今年は言っていないだろ、と。

 担当者は呆れて何も言えなかったらしい。


 「それはまた」


 クリスは続く言葉が見つからなかった。

 さらに少しずつ雪の降る量が少なくなっていたことを理由に自治体に割り振られていた除雪の費用が削られたのだ。

 死人が出なかったのが幸いだった。

 というか、本当にリューは腹に据えかねていたのだろうなとわかった。

 もしもこれが単純に雪の降り方の見込みが甘かっただけなら、きっとそれだけだったなら、リューも何年も怒っていないだろう。

 クリスはこの数日、畑仕事をする上でそれまでそんなに気にしていなかった天気予報に気を配るようになっていた。

 いくら技術が進歩して便利になっても、基本、外で仕事をする農作業は天気に左右される。

 本当に左右される。

 農作業初心者であるクリスには説明されただけではわからないことばかりだった。

 この数日、リューにはその意識の差というか知識の違いで少々迷惑をかけてしまったのも一度や二度ではない。

 初日は、畑の一角を魔法で潰してしまった。

 久しぶりに殴りあいの喧嘩になりそうなったが、あれは本当にクリスが悪かった。

 畑を耕してくれと言われ、指示された場所に土属性の、もっと言えば戦闘用の魔法を弱めにしたやつで土をひっくり返したらまだ芽が出ていなかったところまで巻き込んだのだ。

 ニンジンがおじゃんになった。

 感覚がわからなかったのだ。

 草むしりも魔法でさらに調整して行ったが、失敗。

 結局、手でやった方が良いと理解した。

 機械と手で言われた作業をしたら、それはそれで楽しかった。

 そして気持ちだけは若いままだったので、調子に乗って体を動かし続けた結果が今朝の超激痛の筋肉痛だった。


 「知らないって怖いな」


 自分のことを省みて、クリスはそれだけ呟いた。

 ちなみに植わっていたニンジンはリューが自分で食べる用だったらしい。

 商品じゃなかっただけ、まだ良かった。

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