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冤罪スローライフ   作者: アッサムてー
強姦の冤罪着せられて国外追放されちった(笑)
4/36

 朝食を済ませて、大型トラックーー本来は堆肥やら土を運ぶ用途で使用しているそれに、不法侵入者達を文字通り山積みにする。

 リューは、軽トラックと大型トラック、そして乗用車の三台を持っているようだ。

 

 (金があって、羨ましい)


 クリスはちょっと、そんなことを思う。

 この前、購入した堆肥を運んでまだ洗っていなかったが、犯罪者への気遣いはないので気にしない。

 

 今日はリューも休みなので、一緒に行く。

 運転はリューである。

 役所も町中にあるので、銭湯と同じく一時間ほどかかる。

 当然、コンビニはないし主要な街道からも外れまくっているので自販機もない。

 砂利道から、整備された道へ出る。


 「本当になにもないな」


 「あったら、もう少しおもしろみもあるんだけどなぁ。

あ、これ一応塗っとけ、痛み止め」


 そうしてクリスが渡されたのは、もとはイチゴジャムか蜂蜜をいれるのにでも使っていたらしい容器だ。

 透明なそれには、臼緑色のクリームが入っていた。


 「さんきゅー」


 塗ったとたん、呻くほどの筋肉の痛みが引いていく。

 あまりの効力にクリスが目を丸くしているとリューがなんてこと無いように言ってきた。


 「すげぇ効くだろ。それエルフの妙薬なんだぜ」


 「は?」


 思わず、絶句してしまう。

 エルフの妙薬。エルフが長年の研鑽と研究のもと開発した超高級回復薬の一つだ。

 この容器一つ買うとなると、保険適応外となると最近の相場ではそれこそ高級車一台分くらいの金額が必要になってくる。

 なんで、ジャムや蜂蜜用の容器に入っているのかは謎だが。


 「うちの山の隣の山に、エルフの村があるんだけどさ。そこの知り合いのエルフにネギと蓮根やったらもらった」


 ネギや蓮根では、こういってはなんだが釣り合わなさすぎる気がするのだが。


 「野菜とかで言うところのB級品、つまりは不良品で商品にならなくて家族で使ってるやつらしい」


 エルフの妙薬が高額なのには色々理由がある。

 その理由の一つが、大量生産できない点だ。

 じつはこの妙薬、とある製薬会社がエルフ達と契約を交わし独占している。さらに、製造できるエルフが限られるので大量生産が出来ないのだ。

 エルフの職人が作る回復薬である。


 「って言うと印象が悪いけど、俺達人間基準で言うところの毒蛇酒みたいなもんだ」


 毒蛇酒というのは、毒を持っている蛇を酒漬けにした薬である。

 独特な臭いがあるが、蜂などに刺されたときに塗る薬である。

 毒蛇酒は簡単に作れるものというわけでもないが、材料と手間隙、あとは作り方さえ知っていれば基本誰でも作れる。

 つまり、エルフの家庭では自作しどの家にも必ずある薬なのだろう。

 仮にB級品だったとしても相当な値段がつくはずだが。

 それがネギや蓮根のお礼。


 「あと、食後にお前が飲んでたお茶あるだろ。あの紅茶」


 「あぁ。あれ美味しいよなぁ」


 言いつつ、所持している水筒をみる。

 水分補給のためのそれには話題に上がっているお茶が入っている。

 喋っていて喉が渇いてきたので、水筒から一口直飲みした直後。


 「それ、こっちの国の王家御用達茶葉だぞ」


 リューの淡々とした説明に思わず吹き出してしまった。


 「ぶふぉっ!」


 「きたねぇな、ちゃんと拭けよ」


 「げほげほっがはっ!」


 驚きすぎて噎せてしまった。


 「まぁ、それもB級品扱いなんだけどな。

 本当だったら他の茶葉と混ぜて安く出回るやつ。

 それは混ぜてないからB級品つっても味は王家にやってるのと同じだから」


 安く出回るとはいえ、さすがにそんなのが飲めるとは思っていなかった。


 「これもなんかのお礼?」


 クリスの疑問に、先程と同じようにリューは答えた。


 「谷むこうに住んでるじいさんが、車を田んぼに突っ込ませたときに引き上げるの手伝ったらくれた。

 倅夫婦がその茶畑やってんだってさ」


 商品にならないけど捨てるのはもったいないから家族で消費するアレである。


 「気づけば最高級のものに囲まれて暮らしてたのか」


 「貰い物ばっかりだけどな。

 ちなみに蓮根ももらった。食いきれなくてエルフにあげたんだよ」


 「ネギと一緒に?」


 「ネギと一緒に。

 貰い物じゃないけど、あの山小屋もさけっこう住み心地いいだろ?

 あれはドワーフと人間の大工の夫婦に発注したら作ってくれた」


 「小屋にしてはライフライン整いすぎててびびったけど、なるほど」


 冷暖房完備である。

 というか、もはや家である。

 あれは小屋じゃない。家だ。

 魔力センサーと太陽光発電の装置が取り付けられているので、小屋に滞在する人間とお日様さえあれば温かい風呂と明るい部屋が提供される仕組みである。

 上下水道は完備されていないので、下水というか汚水は定期的に業者へ汲み取りを頼まなければならない。

 飲み水は井戸から自分で汲まなければならない。

 面倒くさかったので、クリスは二日目には井戸の底に魔方陣を敷いて、転移というか移動魔法ですぐ手元に水が出てくるようにした。


 「余った電気は買い取ってくれるから、いなくても小遣いを稼いでくれる優秀な小屋なんだよ。

 あの小屋建てた時は今ほど作物や私有地に被害なかったから、とんとんだったんだけどな」


 リューはリューで設備投資を出きる範囲でやっていたようだ。

 しかし、いまや被害はその上を行っている。

 そうしてしばらく車を走らせていると、ハザードランプを点けて止まっている車が見えた。道の端に寄せてある。

 少し小さい四駆の軽自動車だ。

 車の横には猟銃を携えたハンターらしき五十代ほどの鬼族の男性と、魔法を使用する際に使う杖を携えた八十代ほどの人間族の女性が手を振ってクリス達の乗る車に停車するよう合図をおくってきた。


 「あ、ワルターさん達だ。また熊でも出たか?」


 疑問を呟きつつ、リューは車の速度を落としてハンター達の前でエンジンはかけたまま停車した。


 「リュー!」


 エンジン音に負けないよう、ワルターという名のオークが声を張り上げた。


 「なんかあったんですか?!」


 「それが、ここから先にあるリリカばあ様の畑でクマの足跡が見つかったんだと!」


 リューは真面目な顔で返す。


 「え、ばあ様、喰われて死んだんすか?!」


 不謹慎すぎる。

 死ぬってそんな簡単に言って良いのだろうか、と違和感をクリスは少し感じてしまう。


 「ばあ様は医者行ってていなかったっけ、良かったんだけど、保険の書類持ってきた農協のあんちゃんが足喰われてんのが見つかったんだ!」


 親って子供が年取った時のこと考えて名前つけないよなぁと、ぼんやり考えているクリスの横でリューが顔を青ざめさせる。


 「喰われたのって足だけっすか?!」


 それに答えたのは、松葉杖代わりに魔法杖を使っているように見える八十代の女性だった。


 「農協の人は抵抗したお陰で足だけで済んだ。自分で傷口焼いて血止めして緊急信号を農協支所に送って事態が発覚したんだて。

 一応、オラが体力回復と感覚麻痺の魔法かけておいた。

 今は集会所で救急車待ってるとこらて。下手に動かしてお迎えこさせるよりもいいっけ」


 逆にどんな抵抗をしたら被害が足だけで済んだのか気になるところである。

 やはり時々ニュースで話題になるように背負い投げでもしたんだろうか。

 部外者であるクリスは口を挟まずただ話を聞いていたが、ふと気になってリューに訊ねた。


 「なんで集会所? 病院とかないのか?」


 「昔はあったんだけど、自治体の施策とかの絡みでなくなったんだ。

 去年までは個人経営の診療所が一軒あったけど。

 そこの先生が雪で滑って頭うって亡くなったから、それ以来エルフのお医者さんが定期検診にくるだけ。

 町まで距離あるし、お前も知ってるだろうけど往復で二時間かかるから、こういうことが起こると正直搬送途中で手遅れになることが多い」


 田舎の弊害の一つだ。

 医者がいても個人の診療所では手に余ることもしばしばで、そうなると町の施設が整っている病院へ搬送されることになる。


 しかし救急車を呼んでもすぐに来ない。


 来れない。遠いので来れないのだ。

 転移魔法のサポート等、魔道技術でたしかに救える命はここ数十年で増えた。

 でもそれは、お金が集中する町の方、もっと言えば首都や領都など人口が集中している場所限定の話だ。


 間の悪いことに、今日はエルフの医者の定期検診の日ではない。

 それは昨日だった。

 医療関係の魔法は、残念なことにクリスは習得していなかった。

 農協の職員の無事を祈ることしかできない。


 「とりあえず、オラたちは、アレだ、なんか居場所がわかる魔法使って熊探して駆除してくるっけ。

 ならは道中に人いたら集会所に避難するよう声かけてくれね?」


 探知探索索敵魔法(リサーチ)のことだろう。

 歳をとると中々言葉が出てこなくなるのだ。


 「わかりました!」


 そうして彼らと別れると、当初の予定通り役所へと向かう。


 「一応聞くけど手伝わなくて良いのか?」


 クリスコの疑問に、リューが芝居じみた返答をする。


 「ドラマや映画とかだと。

 『そりゃ大変だ!

 俺は攻撃系、回復系の魔法に自信があるから手伝おう』

 ってなる場面なんだろうけど。

 考えてみろよ、素人が下手に手伝ったところで邪魔になるだけだからな。

 あと、人の手が入った山ーーお前に任せてるとこや自分の土地ならいいけど他人の土地なんてまったく知らないから、逆に遭難とかして、二次被害になりかねない。

 そうなったらクソ迷惑だろ」


 「それもそっか。

 それにしても農協の人すごいな。

 熊を撃退するなんて」


 傷を負いながらも、と言うところが不謹慎だが格好よく感じてしまう。


 「ほんと、よく足だけで済んだよ。今回は普通の熊なのかもな」


 「熊にもレベルがあるのか?」


 「レベルって言うか混血の新種がいるんだ。

魔物の熊と動物の熊が自然交配して生まれたハイブリッド。

 さすがに国に危険度がヤバイって知らせたんだけど対処してくれねーの」


 「なんで?」


 「『人が喰われたわけじゃないから良いだろ?』とか、『魔物じゃないからそこまで神経質になるのはおかしい』とか国の役人には言われた。

 作物荒らしたり家畜への被害出てるのにさ。

 いくら説明しても金を出して駆除してくれないから、自治体の方で普通の熊の被害扱いで猟友会に頼んで駆除してもらってる。

 でもその駆除も最近は世間の目が冷たい。主に熊が出ない安全地帯の奴等が魔物じゃない生き物を殺すのは可愛そうだってクレーム入れるんだ」


 「......」


 それは、クリスのいた国でも度々聞いた話だった。


 「こっちは命かかってるっつーのに。

 でもそう言う奴等に限って、今度は被害者が出たら出たで、熊のいるところに入っていくのが悪いって言い出す。

 大概は私有地なんだよ。そこで食べ物を作って作った物を売って生活してる。

 この集落でとれた農作物は町や領都、首都にも運ばれて知らない、顔も見たことのない奴等の腹を満たしている。

 そのなかに、そんな馬鹿も含まれてるんだ。

 それなりに気を付けてても住んでる場所柄こういう事故は昔から起きてる、じゃあ出ていけば良いって言う馬鹿もいる。

 そう簡単に言う馬鹿がいるんだ。

 そんなに単純な話じゃないっつーのに」


 結局、他人事なのだろう。

 そして、一種の娯楽なのだ。

 だから、外野は好き勝手言えるのだ。

 知識や現状に対する悪意のない無知の発言は、メディア媒体によって拡散される。

 本当に簡単に拡散される。

 無知は無知を呼ぶ。

 現場にいないのにまるでそれが真実であるかのように、絶対的な正義であるかのように田舎で起きた不幸な事故を叩き始める。

 そのメディアで飯を食っている存在が実在する。

 簡単に、食べ物を作っている側が悪者なのだと言う存在がたしかに実在している。

 飯を食べるためのお金をそうやって稼いでいる一部の奴等が、そうやって食べ物を作っている者達を貶しているのだ。

 どちらが悪いのか、両極端に答えが出せたならきっと楽だろう。

 でも、人は昔から他の命を殺して食べてきた。

 自分達の命を守るために、他の命を殺してきた。

 でも、それは普通のことだ。

 傲慢ではあるが悪ではない。

 誰だって死にたくないし、腹を満たしたい。

 そう言うものなのだ。


 しばらく車を走らせて、途中誰かに合うことも、他の車とすれ違うこともなく町に入った。

 家が立ち並び、ぽつぽつと商業施設が点在する道を進み役所に着いた。

 二人で受付に行って、書類を書いて不法侵入者達を引き渡す。

 全てを終わらせると、リューは世間話をするくらい軽く職員へ言った。


 「そういや、熊出たっぽいんすけどこっちの方に連絡来てます?」


 「えぇ、猟友会と農協から。いま駆除中らしいですね。続報は来てないです」


 「マジっすか」


 「はい、なのでこちらの札を配るよう言われています持っていってください」


 「結界札ですか」


 渡されたのは予備を含めた二枚だった。


 「はい」


 「今回のは普通の熊ですか?」


 「どうでしょう?

 被害に合われた方は現在意識不明ですし。

 ただ、被害者を保護した農協の別職員の話によると、発見された足跡は普通の熊よりも大きかったらしいです。

 近くには、その土地に不法侵入した者達の食べかすがあったとも聞きました。

 あの方達は運が良かったです」


 言いつつ、役所の別の職員がトラックの荷台からクリスが捕まえた不法侵入者達を下ろす作業をしている光景をみた。


 「え、マジすか?」


 リューがさらに訊ねる。


 「えぇ」


 「人の味を覚えたか」


 「そういうことになりますね。食べかすは埋められていたみたいですし。

 食べかすと言うよりも話を聞いた限りじゃ食べ残しの感じがしますね」


 「怖いことを言わないでくださいよ」


 リューと職員の会話はそれで終わった。

 最後には二人は笑っていたが、クリスは二人がかなり不穏な会話をしているのだと感じた。


 「駆除したって情報が行くまで不必要な外出は控えてくださいね」


 職員は帰路につく、クリスとリューの二人にむけてそう忠告した。



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