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「ごめんくださーい!」
昼寝をしようとした矢先だった。
ノエルのそんな元気な声が、玄関から届いた。
「あー、やっときた」
待ちくたびれたとばかりに、ファルが玄関に向かう。
クリスは、気にせずにタオルケットを引っ張り出して、横になった。
直後。
「ドラグノフさん!
これ、直せます!?」
「眠い。寝る」
もう脳みそは昼寝モードだったので、クリスはそれだけ言うと目を閉じる。
しかし、
「寝る、じゃないです!!
私たち田舎生まれ田舎育ちの芋JKのために力を貸してください」
芋JKってなんだ。
自虐ネタにしては、笑えない。
「なら、せめてあと三十分待て、眠いんだよ」
「寝すぎも健康に良くないんですよ!!
ほら、起きて、くだ、さいっ!」
ノエルは強引にタオルケットを剥ぎ取ってしまった。
そして無理やりクリスの両手首を掴んで、引っ張り起こす。
「知ってるか? 働きすぎも良くないんだよ。
適度に睡眠を取らないと、急性心不全で死ぬかもしれない年頃なんだよ、おじさんは」
ちなみに、研究職時代、真面目過ぎて働き過ぎた同僚が何人かそれで亡くなっていたりする。
「ほら、これ!
この杖、宝玉取れちゃって、もともとこの杖の先っぽに浮かんでたみたいなんですよ!」
「両面テープとガムテープ使ってくっ付けとけ。
テープ類と瞬間接着剤なら、そこの棚の中だ」
「嫌ですよ、かっこ悪い。
杖は、宝玉が浮いてるのが良いんじゃないですか!」
「つーか、これ宝玉偽物だろ。
それに、乾電池入れるとこあるんだけど、なんだこれ?
先っぽ、あー、なるほど子供騙しの玩具か」
「え」
「なおのこと、ガムテープで十分だろ。
保証書あるなら、おもちゃ屋にでも持ってって修理してもらえ」
ノエルが、マジマジと杖を見て、床へ叩きつけた。
「畜生、ゴミガチャ外れた!!」
ゴミガチャってなんだ。
ノエルの口調も変わってしまっている。
「あー、ポイ捨てのやつ?」
しばらく、クリスとノエルのやり取りを眺めていたファルが問う。
どうやら、ノエルは不法投棄されていたゴミの山からこの杖を引っ張りだしてきたようだ。
「こう言っちゃなんだが、ほどほどにしとけよ」
「あ、ほんとだ。電池入れるとこにもセロハンテープ貼ってある」
クリスに続く形で、ファルは床へ叩きつけられた杖を拾って見ながらそう言った。
そのすぐ後。
「おっちゃーん!
この水鉄砲、魔法が出るように改造してくれー!!」
玄関から、ファルの弟のダイが叫ぶ声が聴こえてきた。
かと思うと、ダイを含めた子供たちがゾロゾロと小屋の中に入ってきた。
「おや、考えることは同じか」
「あ、ノエル姉ちゃんだ!」
あっという間に子供たちのたまり場になってしまった。
クリスは、さすがに顔を引くつかせてしまう。
「何なんだよ、お前ら」
「今度、首都のやつらと試合があるからさ!
絶対やおちょーしたくないんだよ!
だから、この水鉄砲をチート加工してくれよ!!」
クリスがぐったりと問えば、ダイがそんな返しをしてくる。
と、ダイを皮切りに、子供たちがピーチクパーチク、夕方の喧しい鳥のように騒ぎ始めた。
「うちは、この杖!
雷が出るようにして!」
「ボクは、その攻撃系の風魔法の付与をお願いします」
「オレは、このグローブ!
岩を割れるくらい、強化してくれ」
老ドラゴンでも狩る気なのだろうか。
どちらも、少なくとも試合程度で人相手にそれも同じ子供相手に使用するにはかなり過激なものばかりだ。
「熊でも狩る気なのか?」
さすがに冗談で、クリスは熊と言い直してみる。
すると、
「熊の方がまだマシだよ」
「そーそー、人のこと馬鹿にしないし?」
「馬鹿にしてても、言葉わかんないから危ないだけだし」
「でもさー、人間相手だとなんつーの?
鞘にふれる?
ハナガツオ?」
ノエルが、子供たちの言葉を訂正する。
「それを言うなら癪に障る、と鼻につく、だよ」
子供たちが、それそれ、と笑顔で肯定する。
「お前らの中でどれだけ都会の人間、性格悪く設定されてんだよ」
と、これにはファルが反論してきた。
「違う違う。
面と向かって、なにか言われるとかはないの。
ほら、さっき言ったじゃん?
無意識で下に見られるんだよ、無意識だからタチが悪いし。
悪気が無いから、なおのこと悪いの。
私もさー、この辺の感覚でつい普通に引き取られたこと話したことがあって、そしたらさ、意味の無い同情とか哀れみの視線向けられたことがあってー。
いやぁ、あん時は顔面耕してやろうかと思ったわ。
その空気がムカつくわけ」
「あー、なんとなくわかった。
とりあえず、昼寝と仕事終わってからな」
もう、ただただ面倒で眠いクリスがそう言うと。
ブーイングの嵐となってしまった。




