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「交流試合?」
ファルがアイスを食べながら、クリスのその疑問に答える。
「そ、都会の子らが田舎の生活を知るためにここに来るんだけど。
まぁ、いけ好かないんだよねー。
なんつーの? ドラマとかで見る典型的な田舎を下に見てる人種というか」
「都会ってのは、田舎の集合体らしいぞ」
クリスも休憩中である。
こちらは、アイスではなくスイカを食べながら答えている。
「どゆこと?」
「こっちの国の奴らもそうだろ?
都会に夢を見て田舎を出ていく。冒険者になって華々しく活躍することを夢見るやつもいるんだろ?
な? 結果的に、都会には田舎者が集まるわけだ。
まぁ、次男三男、次女三女なんかが、実家付近だと就職口がなくて出稼ぎに出ても同じことが起こるけどな。
この前、リューに連れてって貰った風呂屋の説明書きのとこに、そんなトリビアが書いてあった」
「あー、まぁ、たしかにそういう家もあるよ。
夢を見て、って言えば聞こえはいいけどさー、その実はただ、この狭い世界から外に逃げたい、が正しいと思うんだよねー」
ファルは棒アイスを全て食べ終えて、残った甘みまで逃さないように棒をカジカジ齧る。
「逃げたい?」
「そう、逃げたい。
逃げたしたい。
だから外には自由と夢と、希望と憧れがあるっていう幻想に縋りつこうとすんの。
ほら、テレビとかネットの動画とか、とにかく外の世界を知る道具いっぱいあるっしょ?
だから、夢を見るんだよ、私ら田舎の子供は」
「そんなに狭い世界かね?」
「狭いよ。田舎は、狭い。見た目は広くてのびのびしてるように見えるけどね。
このご時世に、男尊女卑が健在。
聞かなかった?
進路の話とか、離婚の話とか、村八分の話とか。
オッサン、田舎はね歪んだ魔境なんだよ。
親戚が集まる場で、自分の祖父母が、両親が、自分の子供のコンプレックスをヘラヘラ笑いながらひけらかして、親戚の人達とその話でゲラゲラ笑うんだよ。
あとは、冠婚葬祭の時のお酌。
あれ、ほんと勘弁してほしい」
「お酌? 酒をつぐ?」
「そ、そのお酌。
ほとんどが女の役目なんだよ。
自分達は飲んで酔っ払って出された料理食べてる横で、女なんてちょっと料理つまんだら、親戚のお客様にお酒をついで回るしね。子供には【お手伝い】の名目でやらせるし」
「……なんかあったのか?」
「まぁ、ほら、もうすぐ供養祭の時期だし。やだなぁって」
「あ、この辺はもうすぐ供養祭なのか」
「そう。
御先祖様の魂がこっちの世界に戻ってくる日」
「それこそハロウィンも供養祭だよな」
「そうそう!
お墓参りしたりすんの。
で、親戚の家回って祭壇にお参りしたりね。
ハロウィンと違ってお菓子はないけど。
そうすると、まぁ、おもてなしとして酒が出てくるわけ。
んで親戚とはいえ、他人の家でさ、ジロジロ値踏みされて、『また、太った?』とか『そろそろ彼氏作れ』とか、向こうは冗談と会話の糸口のためにそう言ってくんの。
酷い時は、『そのうちメタボドラゴンになるぞー』とかさ言われんの。
もう憂鬱で憂鬱で。
顔が愛想笑いで吊りそうになる」
「嫌だって、ハッキリ言えば良いだろ」
「失礼だって言われる」
「は?」
「礼儀がなってないって言われる」
「マジか」
「嘘言っても仕方ないし。
まぁ、だからここに愚痴りにきたわけ。
ほら、オッサン達ってそういう嫌なこと言わないから」
ファルやノエルはともかく、小中学生の女の子達にやけに懐かれてるなと不思議に思っていた答えがわかった。
ノエルやファルもそうだが、小さい子達でもクリスにできないことをやってのけたり、知らないことを知っていたりする。
たとえば、魔法罠とは違う普通の罠の設置場所とか、壊れた農具の応急処置のやり方とか。
クリスが時折四苦八苦してる場面で、仕方ねーなーとかこんなことも知らねーのかよーと憎まれ口を叩きながら先生となって色々教えてくれたりしてくれたのだ。
そんな子供たちは、クリスにとっては小さな先生でもあった。
「そんなにか」
「そんなにだよ。
だって、田舎の父親ってほんと褒めないよ。
褒めてるつもりでも、全部嫌味になってるとかもあるあるだし。
マウント取るのだけは上手いんだよねー」
「それは、なんというか、コミュニケーション能力に問題があるんじゃ」
「いや、オッサンがある意味カンストしてるんだよ、コミュ能力」
「雇われで、色々苦労したからか?」
棒の甘みが無くなったのか、歯型のついたそれをゴミ箱へ捨てると、ファルは我が家のように麦茶を取りに行く。
「さて、昼寝したらもうひと頑張りするかな」
少なくとも穏やかに、クリスは過ごせている。
それは、リューのサポートもあるだろう。
そして、今のところは、適切な距離感を保てているからかもしれない。




