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惣菜とクッキーを買い込んで、リューは車なので先に小屋に向かう。
自転車であるファルとノエルはのんびりと向かう。
買ったばかりのコロッケを食べながら自転車をこいで、小屋にたどり着く。
当たり前だが、リューはとっくに着いていた。
慣れたもので、一声小屋のなかに声をかけて入ると、夕飯の支度をしていたクリスが事前にリューから二人の来訪を聞いていたので呆れながらも歓迎してくれた。
歓迎しなかったのはハガネである。
ハガネはノエルの顔を見るや、顔をひきつらせて脂汗をかきはじめる。
「ノエル、やっぱり怖がられてるじゃん」
「仕方ないなぁ、ほらクッキーあげるから」
こっちこいこい、とまるでペットを呼ぶように手招きする。
ハガネは警戒心の強い猫のように、後ずさった。
犬だったら、狂ったように吼えるかしているところだろう。
「夕飯前に食うと腹いっぱいになるから、それは後だな。
コロッケとメンチカツをリューが買ってきてくれたおかげで今日は楽だったし」
そうして配膳を済ませると、全員そろって食べ始める。
一口でスーパーの惣菜ではなく、手作りだとわかる揚げ物の味にクリスは首を傾げた。
どこかで食べたような懐かしい味である。
そう、どうせなら。
ーーパンに挟んで、ソースの染みたところが美味いんだよなぁーー
ーーわかるわかる、ウィルのやつもお前のコロッケよく食ってるしなぁーー
かつて、師匠的な位地にあった少年達の声が脳内再生された。
ついでに、光景も。
命綱無しでの崖登り。
悠々自適にコロッケサンドを頬張る二人の少年。
いや、片方はカツサンドだったかもしれない。
ーーほら、がんばれー。
これくらい軽々登るくらいしないと、俺たちを殴るなんて夢のまた夢だぞーー
「どうした、クリス。手が止まってるぞ」
リューが不思議そうに聞いてくる。
「なぁ、リュー。
このコロッケを売りにきた屋台の人ってどんな人だ?
よく、来るのか?」
その言葉にリューよりもファルが早く反応した。
「リオ姉のこと?」
「リオ?」
クリスが聞き返すと、今度はノエルが続けた。
「二十歳くらいのお姉さんですよ」
と、今度はハガネが手をぶるぶる震わせて、冷や汗を流し始める。
「え? え?」
リューとファル、ノエルが戸惑ってクリスとハガネを交互に見る。
ハガネが叫んだ。
「もうカイザーホエールとの遠泳はいやだぁぁぁあああああ?!!」
それがトリガーになったのか、クリスも過去の幻影に呟き始める。
「舐めた口はもう二度と利かないので、許してください。
だからあの、ごめんなさい、たしかに空飛びたいって言ったけど天空から蹴り落としてくれとかそういう意味じゃ、ぎゃぁぁぁああああああ?!」
ちょっとした惨事になってしまった。
ファルがコロッケに視線を落として、もう一口食べる。
普通のコロッケだ。
いつもの喫茶店【綺羅星】の屋台で売られているコロッケ。
メンチカツもふつうのメンチカツである。
衣サクサクでとても美味しい、惣菜である。
変な魔法も違法薬物の臭いも気配もない。
「おい? クリスもハガネもどうした!?」
「普通の店員?
普通の店員は片手で、それも素手で巨竜の首はねたりできないだろぉぉぉ!」
素手で、トラックのフロントガラスを壊したハガネが叫ぶ。
「いやだぁぁぁあああああ、一人で上位魔族千人抜きなんて死ぬ、いっそ殺してくれぇぇぇえええ」
そんな二人を、とくにクリスをファルとノエルはコロッケとメンチカツをそれぞれ頬張りながら興味深そうに見る。
「おっさんが感情剥き出しにするの初めて見たかも」
「たしかに」
「て言うか、おっさんが元ヤンとは聞いてたけど。
上位魔族相手に喧嘩するなんて、えっとなんて言うんだっけ? くれくれ?」
「クレイジーだよ」
「それそれ。でもなんで惣菜のコロッケでそんなこと思い出してるんだろ?」
「ハガネ君もね、だいたい魔物を素手の片手で処理するなんて命知らずな人もいるもんだね。
毒の心配があるから魔物を解体するときは手袋必須なのに」
「動画だとしてない人もいるじゃん」
「あれは、血とか体液が毒じゃないやつばっかりだよ」
「あ、そうなんだ」
「ポテトサラダも買ってくればよかったね。
マヨも良いけど酢のやつも私好きなんだ。
あ、ファル、そこのソースとって」
「ん。
自分はマヨネーズたっぷり派だなぁ」
そんな会話をする女子高校生をよそに、ある程度ぎゃーすか騒いだあと、おっさんと少年は気絶したのだった。
「ふつうの、コロッケだよな?」
リューが美味しそうに食事を続けるファル達に聞いた。
問われたファルとノエルは、頷いた。




